灼熱の台湾

バイク置場

鼻息荒く夜市の建物に突入したは良いものの、そこはなにやら閑散とした場所だった。明かりもまばらだし、屋台は営業していない。そもそも、バイク置き場にされてしまっている。

駅前から歩いて真っ正面の一等地でこれはどうしたことか。しまった、週末は定休日なんてことがあるのだろうか?もしそうだとすれば完全な調査不足だ。かなり焦る。

屋内に屋台が並ぶ

しかし、奥の明るい方向に向かっていって安どした。やってる、やってるよ夜市!しかもすごい店の数だ。こんな店の数は見たことがないよママ!

屋台は京都の街並みのように区画整理されていて、通路が碁盤目状に並んでいた。雑多な印象を受けるが、案外しっかりしている。まあ、これで通路がぐたぐただと、火災などの緊急時には人が逃げ遅れたりドミノ倒しになる。公設市場なので、その点はしっかりしているいのだろう。

来訪している客層は、若い女性が多い印象を受けた。日本だったら、絶対オッチャンがワンカップや発泡酒なんぞでくだまいていそうだけど、そんな雰囲気はない。みんなお酒を飲まずに、楽しそうに飲食・・・というか食、を楽しんでいる。

座席はただでさえ狭い各店舗の片隅にぎゅーぎゅー詰めで用意されている。しかし、デリバリーも可能だそうで、國語が話せるなら別の屋台で「どこそこの屋台で飯食ってるから運んでくれ」と言えばそれでOKらしい。

それにしても情報量が多すぎる。香港の広告の渦にも参ったが、ここはそれ以上だ。「なんとなく気になった店で食べようぜ」というつもりだったが、あまりに情報量が多すぎて、脳内で処理しきれない。わけがわからない。呆気にとられて、ただただ通路を歩くだけだ。人にぶつからないように気をつけつつ。

日本の屋台の場合は「たこ焼き」「フランクフルト」などと単品を売るのが普通だ。ネオ屋台、と呼ばれているバンによる移動型店舗にしても店の主力商品は絞ってあるし、何屋なのかはっきりわかる。

しかしこの台湾の屋台、もう何がなんだか。一店舗で何でも売ってるもんだから、慣れない日本人は戸惑うしかないのであった。「これ!」というメニューなんて、ない。あれも売る、これも売る。

写真の左側にあるお店。横長の看板には漢字でメニューがずらりだ。これを読み解け、と?いやもう無理っす。せめて、楕円形の縦看板には主力製品が書いてあるだろうと思って読んでみたところ・・・

天婦羅(薩摩揚げのこと)
蚵仔煎(牡蛎オムレツのこと)
臭豆腐
魯肉飯(牛細切れ肉の煮込みかけご飯のこと)

と書いてある。全然統一感がないので、やっぱりよくわからない。というか、どうなってるんだここの厨房は。狭いスペースでよくぞまあ多種多様な料理を作ることができるものだ。感心というより驚きだ。

臭豆腐屋台

あたりは猛烈に臭い。犯人は臭豆腐だ。たくさん屋台があるが、比較的扱っている商品には類似性があり、台湾人の嗜好というのが伺える。そんな中で、取り扱い店舗数No.1の商品じゃないかと思われるのが、「臭豆腐」だ。

名前の通り、猛烈に臭い。くさやでさえ「わあ、臭いねえ」と思った程度だったおかでんでさえ、この臭いには閉口した。ましてや、「まずいものは何度食ってもまずいんだよ。現地の人と生まれついての味覚が違うんだから。無理して味覚を合わせる必要なんてなーし」と断言しちゃうようなジーニアスにとってはこの臭いは拷問に等しかったようだ。

何しろ、同時多発であちこちで臭豆腐が焼かれてる、煮込まれてる。危険地帯を通り抜けて、ほっと一安心したと思ったらすぐに次のお店が異臭を放って集客しとる。これはすごい。

日本で臭い食べ物といえば、ばばろあの「食い倒れ帳」コーナーじゃないけど納豆、くさやなどが挙げられるだろう。でもこれは「まあ食べられない人がいても当然だよね」と社会一般的には許容される食物である。

しかしこの臭豆腐の販売数の多さと場内を包み込む異臭はどうだ。どう考えても台湾人のほとんどがこの臭いを愛しているとしか思えない。

あらゆるものを売っているお店があるかと思ったら、単品勝負のお店もある。写真のお店は「蒙古焼肉」の店。まさかジンギスカン鍋が台湾にもあるわけはないよな、と思ったが、見たら単なる肉と野菜の鉄板焼きに見えた。なぜ蒙古なんだろう。

面白いのは、肉は牛、猪(豚のこと)、鶏、羊から1種類選ぶということ。羊肉を食べるところが蒙古という名の由来かもしれん。看板には「両人130元」と書かれている。何のことかと思ってもう少し詳しく読んでみると、「一種肉一人份100二個人吃+30」と書かれていた。要するに一人100元だけど、二人で食べたら130元だよーということらしい。なんという安さなんだ。というかこの店の原価はどうなってるんだ。どう考えても二人前出してないだろ、きっと。

あ、いや、ちょっと待て。人通りが多い中立ち止まるのは周囲の迷惑なのだが、もう少し細かく看板を読んでいみると「吃到飽 飲料 飯 無限供應」と書いてあるではないか。要するに飽きるまで出し続けますよ、ということだ。食べ放題の店ではないか。驚いたなあ、屋台で食べ放題なんて。しかも、一人400円。まあ、焼肉と飯だけで食べ続ける気はあまりしないけどな。

ここのお客さんたちは結構回転良く店に入り、出て行く。食べ歩くのが一般的になっているようだ。あっちでこれをたべ、こっちでこれを食べ・・・ということをし、一カ所でじっくりということをしない。

そんなこともあってか、この激安食べ放題店はそれほど混んでいなかった。たまたまかもしれないけど。

屋台が密集

整然としているけど、雑然としている。なんだか不思議な空間だ。それにしても看板が折り重なるように並んでいて何が何だかわからねぇー。

立ち止まって一軒一軒確認しようにも、漢字がよくわからんし、どこも同じものを売っているように見えてくるし、立ち止まると客引きのおばちゃんに勧誘されるし。

なによりも、数百軒から成り立っているこの屋台の概要をひとまず押さえておかないといかんという気の焦りもあった。あまりに膨大すぎて、正直うろたえてしまっているのだった。

「よし、この店にしよう」という決定打がよくわからない。あと、何軒ハシゴすれば良いのかもわからない。一軒?それとも二軒?いや、それ以上?

正直、おかでんはこの時点で期待感の高ぶりよりも、情報処理しきれない脳みそで呆然としていた。

フランクフルト

どうしても臭豆腐に目線が行ってしまうが、やはり屋台の主力級選手は肉だった。あちこちで、唐揚げや角煮のようなものや、フランクフルトが売られていた。

圧巻だったのは、「大腸小腸」といって、コッペパンほどのデカさがある白い腸詰めの腹を割いて、そこにもう一個細長い腸詰めを挟む、という腸詰めによる腸詰めのための一品だった。やりすぎだよアンタ、と思ったが結構な行列ができていて、結構な繁盛だったな。

くどい料理だろうなあ、と思っていたが、後で知ったのだが外側の白く太い腸詰めは餅米が入っていたらしい。なるほど、小麦を使用したパンの代わりに餅米を使った腸詰めか。それだったら納得だ。

写真のソーセージは大腸小腸の店ではないのだが、それにしても見よ、このデカさと太さ。一人で食べる量じゃないぞ、これ。家にお持ち帰りして家族で切り分けるのだろうか?それともその場で友達と回し食い?もし一人で食べるんだとしたら、台湾の人は大食漢だ。

でも、台湾の人ってあんまりデブやビールっ腹の人って見かけなかったような気がする。カロリーが全部汗で流れてしまっているのだろうか。

ああ、そういえばこの屋台で白米を食べている人、ほとんど見なかったな。おかずだけ食べている様はなんだか不思議だった。この国の食文化なんだろう。炭水化物をあまり採らないから太らない・・・のかな?

屋台の看板

ひととおり見て回ったので、ジーニアスが「さて食べるか。どこにするかねえ」と言ってきた。

「待て。」

制止するおかでん。「ビールが、無い。買ってくるぞ」「えー」

不満の声が上がったが、ここはぜひともご協力いただきたいところ。ビールを買いにいったん夜市ビルを後にした。何しろ、夜市でビールが全然売られていない。いや、正確に言うと、売っている店はわずかながら存在した。しかし、そこで食事をする気はなかったので、缶ビールを買って持ち込む事にしたのだった。ほんと、感心する。これだけ酒肴天国でありながら、ビールを飲んでいる人がほとんど・・・というか、僕が見た限りはゼロだった。ビールの自販機すらない。

結局、いったんてくてく歩いて夜市ビルから徒歩2分ほどのところにあるセブンイレブンでビールを購入。コンビニでは普通に売られているんだよなあ。不思議でならん。

さて、また夜市の建物に戻ってきて今度こそ本当に食べる店を物色しはじめたのだが、見れば見るほどよくわからない。

写真の店なんて、「蚵仔煎」に(カキ)、「蝦仁煎」に(エビ)と書いてくれてるからまだありがたいが、だからといって「カキ」と書かれたって蚵仔煎のことを牡蛎入りオムレツの事だと判る日本人がどれだけいることか疑問だ。

しかも、看板の上には「鰻魚ナントカ」と書かれている。鰻をどうする気だ。この「ナントカ」の謎の字は、JIS第二水準にも登録されていない日本には存在しない字だった。

その横には「生・炒 花枝」と書かれてある。花の枝を生で?もしくは炒めて?一体何なんだ、花枝って。

漢字の国恐るべし。ひらがなで言葉と言葉をつなげることをしないので、ストレートで良いのだけどそれ故にわからん。

結局、「目に付いた」ということでまずはこのお店のお世話になることにした。

※後注:花枝とは、イカのことでした。

蚵仔煎40元のメニュー

やはりここは名物の牡蛎オムレツを食べるべきでしょう、ということで蚵仔煎40元を注文することにした。

「ジーニアスも食べるだろ?シェアするか」

と聞いてみたら、スゲーいやそうな顔して

「いや、オレ牡蛎駄目なの。昔牡蛎にあたったことがあって、ひどい目にあってね。それ以来牡蛎食べてない」

んだそうだ。彼は海老オムレツである蝦仁煎を注文した。両方とも40元。ちなみに両方の具材がミックスされた「綜合煎」というものもあるようで、こちらは10元高くて50元。

40元といえば日本円で160円くらい。安いもんだ。

ジーニアスは「ご飯もの食べてもいいっすか。この魯肉飯を食べたいんデスが」と言ってきたが、「イヤ待て待て、ここでご飯もの食べたらおなかいっぱいになってこの後が続かないぞ。今はまだそのときではない、後に取っておけ」と制しておいた。

ちなみに魯肉飯(るーろーふぁん、と読む)は20元。激しく安い。日本で魯肉飯食べると500円くらいするのだが、なぜだ。

魯肉飯という字の横に、「肉圓30」と書いてあった。意味不明だが、恐らく肉増しだと+10元の30元だよ、と言いたいんだと思う。牛丼と同じだな。

お会計は先払い。メニューにも、「人手不足・請先結帳・謝謝~^o^~」と書かれてあった。

蚵仔煎製造中

蚵仔煎を提供する店には、必ず丸い鉄板が用意されていた。四角くてもいいんじゃないか、と思うが、全店舗丸いところを見ると、何かこの丸いのには理由があるのだろう。まあ、多分鉄板下のガスコンロの熱が効率的に伝わるようにするためなんだろうけど。

鉄板はデカくて分厚い。小さい中華料理屋で見かける、丸い餃子焼き専用鉄板をさらに巨大化したようなものだ。銅鑼のようなサイズがある。

そこにオムレツがいっぱい。やあ、大変大繁盛してますな。おばちゃん大忙し。

「お、おい、今思いっきり鍋に油を投入したぞ。あれが全部オレらの料理の中にしみこむのか?」

新しくオムレツを作り始める際に、おばちゃんは鉄板にこれでもかというくらいの油を投入した。それを見逃さなかったジーニアスが驚いている。

「ヘルシー嗜好とは無縁の世界だな、ここは。屋台で健康云々言っても始まらないってことか」

もう諦めるしかない。ま、始めっからそのつもりだったけど、さすがに目の前で油こってりやられちゃうと、わかっちゃいるけど引いてしまった。

これが「オアチェン」蚵仔煎
蝦仁煎

できあがった蚵仔煎(上)、蝦仁煎(下)。

蚵仔煎、日本では見かけない小降りの牡蛎(あさりくらいのサイズ)が入っている。あと、何かの青菜も入っている。それらを玉子と片栗粉でとじて、上から甘辛い・・・というか、日本人の感覚からいったら甘ったるいソースをかけてある。

片栗粉入りなので、もちもちする。牡蛎入りオムレツはシンガポールに行った時にも食べたが、あちらとこちらでは味が全然違う。似て非なる料理といった感じだ。起源は同じ福建省のはずなのだが、場所が変われば味覚も違うわけで、味付けが変わるのだろう。

正直、おかでんはこの料理は口にあわなかった。オムレツに塩胡椒で下味つけてくれよ、と思うのだが、そういうことはしていない。ソース(しかも甘い)の味付けで勝負、というわけだ。

台湾の庶民料理が基本的に淡泊・薄味だというのはこの一品だけでよくわかった。台湾の友人はいつも僕にぼやいていたっけ、「日本の料理は塩辛い」って。なるほどそりゃーそうだよな、この料理食べてよくわかるもん。日本人からしたら「物足りない味」だけど、これが台湾の味というわけか。友人の不満が体感できたよ。面白いもんだねえ。汗をかいて塩分が足りなくなるから、濃い味付けを好むのではないかと思ってしまうが、そうではないんだね。

台湾啤酒

話が前後するが、蚵仔煎の登場を待ちつつビールのご開陳だ。日本のビールも売られていたが、やっぱり地元のビールじゃなくっちゃね。わざわざジーニアスの「面倒じゃのー」という視線とコンビニまでの往復の徒労をしてまで入手したビール。

せっかくなのでここは、台湾を代表するビールである「台湾啤酒」を最初に頂く事にしよう。これが楽しみだったんだ、ホント。時間が許せば、台湾啤酒の工場見学をしたかったくらいだから。

でも・・・ビールって、日本のように「麦の酒」とはかかないんだな。「啤酒」という漢字を使っている。口に卑しい酒、という表現をされているのが何とも悲しい。そんなに卑しくは無いですよ、ホント。何でこんな漢字が当てられちゃったんだろう。ビール好きとしてはちょっと悔しい。多分、「Beer」に近い発音の漢字を探したらこれになったんだろうけど。

飲んでみたら、ライトな感じ。バドワイザーとまではいかないが、良い表現をすれば飲みやすい、悪い表現をすれば物足りないって感じだ。この後飲んだビール全てにおいて同じ印象。まあ、暑い国だし啤酒に馴染みはあまりないようだし、これくらいのライトさの方がウケるのかもしれない。

それにしてもビールがぬるい・・・。買ったときはよく冷えていたはずだったのだが、購入してから飲むまでの10分強ですっかり冷気が抜けてしまった。夜になったとはいえ、まだ暑いもんなあ。こりゃ早くビールを飲まないと。とはいっても、ぬるいビールを飲むのは結構な苦行ですぞ。

龍泉啤酒

まあ、でも雰囲気を楽しみつつ、蚵仔煎ができる前に500ml缶1本空けちゃった。次に取り出したのは、「台湾(湾はもっと難しい字だけど、面倒だから省略)龍泉啤酒」というもの。金色のデザインが豪華だが、肝心の龍がキリンビールの麒麟に見えるのが残念賞。

この龍泉啤酒は高雄で作られているようだ。しかし、後で調べてみると青島ビールの資本が入った企業らしい。詳細は不明。

台湾の北・台北で作られた「台湾啤酒」、南・高雄で作られた「龍泉啤酒」。なんだか台湾のビールを制覇したような気分になる。

しっかしだな、オムレツの甘いたれとビールがあんまりあわんのだ、これが。トホホ。

ステーキ屋台もある

オムレツを食べ終わった後、また別の店を物色する。屋台では珍しくステーキなんぞを売っている店があった。唯一の洋風店舗ではなかろうか。テーブルには西洋人が結構陣取っていた。

「あいつらバカだよな、よその国に来てまでステーキなんて食うなよ。しかも観光夜市に来ておきながら」

「いやでも、西洋人にこの味はキツいだろ。漢字も全く意味不明だろうし。そうしたら、ステーキ焼いてる店があったら入りたくなるのもこれ人情」

珍しくジーニアスが相手の肩を持つ。

さてわれわれだが、おかでんが力強く

「われわれはここまで異臭を放つ臭豆腐に果敢にチャレンジせねばならん」

と宣言をする。どう臭ってもまずそう、というかヤバそうな臭いなのだが、これだけあちこちで売られていて「食べませんでした」というわけにはいかんだろう。きっとくさや同様、臭いはキツいけど味は絶品、ということに違いない。

というわけで、臭豆腐を出してくれるお店を探すことにしたのだが、ちょうど目の前に「麻辣臭豆腐」という看板を掲げたお店があった。麻辣には目がないおかでん、「よしここにしよう」と即決だ。ちょうどこのお店、屋台ビルの外れにあったので、屋外にせり出す形で客席が多かったというのも良かった。

麻辣臭豆腐の創始店であるらしい

メニューを見る。メニューの先頭には、「麻辣臭豆腐の創始店である」といったことが書いてある。そりゃ結構な事で。

ちなみに臭豆腐は「煮る」のと「揚げて焼く」の2パターンが存在する。どっちも臭いのだが、煮る方がより刺激的だという。台湾南部では「煮る」文化は無いらしく、焼くことしかしないという。だから、南部の人が台北に旅行に行ったら臭豆腐ちゃんが煮られていてびっくらこいた、という事がよくあるらしい。

さらによく読むと、このお店は麻辣臭豆腐創始店であると同時に、生炒鱔魚の創始店でもある、と自慢している。生を炒めるというのがよくわからんが、それよりも「魚」遍に「善い」魚って何だ。卑しい酒とまで罵られたビールとえらく扱いが違うじゃねーかこのやろー。

気になって帰国後調べてみたら、鱔魚=田ウナギの事だった。そんなに善いんですかね、田ウナギって。

とかなんとかしているうちに、おばちゃんが注文を取りに来たので、指さし確認ヨーシで「麻辣臭豆腐」をビシィッと指さし、そのままその人差し指を立て、「1つ」と言った。世界共通で通じるジェスチャーだな、これは。

ジーニアスは

「いやオレ臭豆腐はパスだわ。味見する程度でいい」

と既に臭いの時点で逃げ腰になっていた。まあ、無理はないこの臭いだと。

待っている間にメニューを見直していると、この臭豆腐のメニューの横に(小辣・中辣・大辣・自選)と書かれていることに気がついた。あわてて先ほどのおばちゃんを呼び、「大辣」のところを指さして「だいらー!だいらー!」と言った。おばちゃん、にっこり頷いて引き下がったので多分通じたのだろう。ただし、「だいらー」という発音が正しかったのかどうかはしらん。指さしは世界共通語だ。

「なに君、そんなに辛いもの食べたいの?汗かくじゃん」

とジーニアスに言われたが、

「いや、臭豆腐が予想以上にまずかった場合でも、辛かったら何とかしのげるんじゃないかと思って」

おかでんも及び腰なんである。

麻辣臭豆腐(大辣)

お待たせしました、麻辣臭豆腐(大辣)到着です。というか、あんまりお待たせされていない。ご丁寧に下には固形燃料が灯されていて、熱々の奴を食べることができる。

熱々の料理、ということは湯気が立っているわけで・・・

あまりの臭さに悶絶

こうなる。

「うわっ」

食べ物は有り難く頂きなさい、というのは先人の教えだが、思わず「うわっ」と声を上げてしまっては食べ物に対して申し訳が立たない。

とはいっても、臭いものは臭い。

ジーニアスは料理を物色するためにまず鼻を近づけたためにこうなった。それから後ろへののけぞりようといったら、マッハ2くらいはあったのではないか。よく首がむちうちにならなかったものだ。

臭くて顔をしかめる

おかでんも意を決して顔を近づけてみる。

くせー。

いやぁ、人類は凄いわ。薄れゆく意識の中で、人間賛歌を考えてしまった。こんなすげーもん食べるんだもんな。日本の納豆も凄いが、こいつもそれに負けないくらいスゲー。

納豆は「糸を引く、鼻を近づければ臭い」が、遠ざかっていれば問題はない。しかし、この臭豆腐って野郎は、納豆よりもさらに広範囲にわたって己の存在をPRしまくっている。30センチだと十分臭い。食べようとして10cm、5cmとその距離を縮めると、二乗倍に臭さが加速する。でも、ストローで遠くから吸うわけにもいかないので、食べるためには近づかなければならぬ。ああ、口と鼻が隣接していることをこんなに恨めしく思ったことはない。

そんなわけで、やっこさんとの距離を縮めた際に、ジーニアスのように急速反転して逃走するか、「もうここまできたら逃げられぬ」と観念してがぶりといくか、の二者択一だ。おかでんはかぶりつく方を選んだ。

・・・

ん。普通に食べられる。口の中まであの臭いが占領するのかと思ったが、いざ口にするとそれほど臭いは気にならなくなる。鼻が鈍感になったからだろうか?

豆腐はスが立っていて、でき損ないの茶碗蒸しみたいだ。多分発酵した際にできた穴なんだろう。やっぱこの食材を発明した人は凄いわ。豆腐は日本のものとは違い、堅い。木綿豆腐を倍に堅くしたような感じ。煮込みがあまいのか、これ以上は汁の味を吸いませんよという性質なのか、豆腐に味はあまりしみこんでいなかった。

臭さに慣れると、あとはもう全然平気だ。辛口にしておいて正解だった、というのもある。

「いや、ぼく全然平気だな、これ。癖の強い料理は好きだから」

といいつつぱくぱく食べた。

臭豆腐と台湾ビール

ジーニアスはというと、おかでんの「まあとりあえず食べてみろよ」の声には耳を傾けず、豆腐には一切手をつけなかった。そのかわり、薬味やスープの具として使われている何かの漬け物みたいな野菜だけちまちまと箸ですくって食べていた。

臭豆腐の横には、次なるビールが。台湾啤酒・金牌。先ほどの台湾啤酒と違って、デザインが緑色だ。ハイネケンを思い出させる。何が「金牌」なのかというと、モンドコレクションで金賞を受賞したビールらしい。ほー。じゃあ、プレミアムモルツと同じだ。

そんなプレミアムなビールと、臭豆腐。なんともミスマッチだ。味の方もミスマッチだったなあ。この臭豆腐、スープが麻辣なのは事実だけど味が薄いんだわ、やっぱ。日本料理は「塩味を利かせることでうまみを引き出す」事を得意とするが、この国にはそんな概念が無いらしい。それに加えてぬるーくなったビール。合うわけがない。

台湾人がビールをあまり飲まないのは、台湾料理の味付けがビールと相性が悪いからではないか、と真剣に思った。あ、そういえばこの夜市にいる間、ビールを飲んでる人は一人もみかけなかったな。

炒牛肉

臭豆腐はもういいから、もう少し別のものを食べたくなった。ジーニアスがトイレに行っている間に、「炒青菜(50元)」を注文しておいた。

おかでんが臭豆腐を注文した際に、ジーニアスも何か頼んでいたような気がしたけど、まあいいや。

注文して1分もしないうちに料理が届けられてびっくり。いつ炒めたんだ?作り置きしておいたのか?

炒青菜

不思議不思議、と思いつつジーニアスには新規オーダーの事を黙ったまま料理に箸をつけていた。

しばらくすると、さらにもう一品、そっくりな炒め物が届けられたぞ。

ジーニアスが

「なんだこれ、頼んでないぞ」

と言っていたが、こっちも目が点だ。

「待てジーニアス、お前何頼んだ?」

「何だったっけ。『炒牛肉』だったと思う」

「ええ?僕、さっきジーニアスがトイレに行っている間に、『炒青菜』頼んだんだよ」

「それでこれか」

「そういうことだ」

「駄目だよキミィ、メニューがかぶるような注文してくれちゃ」

「いやまさかこうなるとは・・・」

ちなみに炒牛肉は100元。青菜炒めに50元プラスして牛肉が加われば、炒牛肉になるというわけか。でもわかりにくいよなあ、「炒牛肉」って書いてあったら、牛肉だけをソテーしました、って感じじゃん。青菜がついてくるなんて一言も書いてないぞ。ぶーぶー。

現地のメニューに文句を言ってもはじまらないので、似た料理を並べて食べる。罰としておかでんは肉無しの炒青菜の方。これも味が薄くて、こざっぱりしすぎて物足りない。うーん、卓上調味料が欲しい。

台湾啤酒金牌

これはこの日結局飲まなかったのだが、台湾啤酒金牌にはもう一種類存在していた。「生」と書いてある。先ほどの緑ラベルのものと何がどう違うのかよくわからない。

台湾啤酒金牌の表示

裏面を見てみると、アルコール度数は4.5%とライトだ。原材料は、麦芽、米、ホップ。米が使われているあたり、日本と同じだ。

・・・あれ。製造は台中って書いてある。さっき、「北の台湾啤酒、南の龍泉啤酒」って言ってたのに、怪しくなってきたなあ。よりによって真ん中かい。

食べ残し

基本的にも応用的にも「食べ物は残さない」主義というか育てられ方をしてきたおかでんだが、この炒め物を前に1/4ほど残してしまった。「もう十分味わったから、これでいいだろ」という気になってしまったのだった。

とにかく、薄味。素材の味を重視してる、というんじゃなくて、素材の味がこれじゃ逆にでていないですよ、味がしないですもん、ってありさま。だから食が進まないのだった。

「んー、さっきの牡蛎オムレツもそうだったけど、今回も何か物足りない味なんだよなあ」

「そういう味付けの国なんでしょ、ここは」

「いや、それはわかるんだけど、本当にこの味付けで満足してるんだろうか?」

「そりゃしてるでしょうよ、毎日の食事なんだから。素朴だよね、味付けが」

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