灼熱の台湾

台北車站まで戻ってきた。しばしの空調とのお別れ。地上に出ると、むっとする。

「うわっ」

時刻は既に夕刻になりつつあるのに、何なんだこの暑さは。残暑お見舞いを申し上げられても許せん暑さではないか。でも、日が傾いて直射日光が少なくなったのは唯一の幸いだ。

台湾故事館は、地図を見るとどうもこの「新光三越」の地下2階にあるらしい。三越という日本の百貨店に台北初日にして入ることになるとは思いもしなかった。

ところで、この台北101とタメを張る新光三越ビル、ビル全部がまさか三越百貨店ではあるまいと思ったが、案の定そうだった。新光グループという金融会社があって、上層階はそのオフィスになっているのであった。そりゃそうだよな、数十階建てのデパートなんて見たことも聞いたこともない。ホームセンタークラスの品そろえでもフロアをもてあますぞ。

「暑いから地下道経由で建物に入れないんか」

と探し回り、地下道構内地図をチェックしたのだが、そのような仕組みにはなっていなかった。台北車站地下道全体的に、どこかのビルの地下と連結していますというのが無いような雰囲気だった。なぜだろう。「いったん地上に人を追い出さないと、永遠に人々は地下に潜って涼んでしまうので、街がゴーストタウン化する」と思ったのかもしれない。

三越のエスカレーターで地下2階を目指す。百貨店の1階といえば、大抵自分のところの格調高さをPRするためにブランド店と化粧品店を並べるのが日本の相場だ。しかし、なぜだろうね、ここでもブラとかおパンツが売られているんですわ。

「台湾人、よっぽど下着に拘りがあるのか?」

不思議でならない。男性だから、自然と目が行ってしまう・・・というのはあると思うが、それにしても今日は下着ショップとの遭遇率が高すぎだ。こりゃ台湾文化と何か絶対関係があるぞ。

「わかった。汗をかきやすいので下着は頻繁に着替えるんだ。だからよく売れるに違いない・・・いや待てよ、それを言ったら、台北よりもっと南の国は下着店だらけじゃないとおかしいよな」

自問自答して悶絶する。

それはともかく、目指す地下に降りてみたら、台湾の昔の風景どころか、フードコートが広がっていた。どうも場所を間違えたらしい。(実際、台湾故事館は新光三越ビルの隣のビルが正解だった)

まあいいや、この後士林夜市の屋台で食事をするわけだが、予習として台湾フードコート事情を見させてもらおうじゃないか。

台湾フードコートのメニュー

さすがに路上屋台のお店と違って、「鶏の唐揚げ」だの「ソーセージ」だけを売っているようなお店は無かった。ちゃんとお食事として成立するようなお店が中心だ。

台湾なんだから、やっぱりビーフン屋が多いんだろうか、といった誤った認識で眺めてみたが、特にそのような傾向はなし。いろいろな料理を取りそろえていて、特に何かに偏っているということはなかった。考えてみれば当たり前だ、三越がテナントを選んでいるわけだから、多種多様な料理店を集めているに決まっている。

ちなみに料理の一例を挙げると、写真のようなものが売られている。1號餐、という一番高いセットメニューを見るとこう書かれている。「蚵仔煎+炒米粉+青菜+貢丸湯」だって。ああ漢字が難しい。写真付きなので、これなら何を意味しているか僕でも判るぞ。「牡蠣入りオムレツ+ビーフン+青菜の炒め物+魚団子汁」ということだ。130元=520円ということで現地物価からすれば相当な高値だと思うが、これだけ食べれば満腹、という量だから文句は無いだろう。

他にも、3號餐100元(400円)だと「蚵仔煎+青菜+香菇肉羹湯」となる。何か怪しい肉が香るスープがつくようだが、何かと思ってボードの写真を見ると、どうやら水餃子の事らしい。水餃子が入っているスープが、単なるお湯じゃなくていろいろ具が入っているようなので、「香る」んだろうな。

日本人の感覚だと、「オムレツ、青菜炒め、水餃子。あれ?ご飯が無いよ?」ということになる。しかし、中国人及びその文化を汲む人たちにとっては、「水餃子は主食」。ご飯は不要だ。だから、日本人が中華料理屋で「餃子定食」なんぞを食べているのを見ると、非常に不思議らしい。

同様に、ビーフンも主食だし、肉まんも主食だ。麺だってそうだ。要するに粉もの系は全部主食の部類に入る。「何はともあれ白米ください」という日本人とは大違いの感性だ。

富士鉄板焼

フードコートを見て回って気になったのは、「日式」と書かれた料理を掲げるお店が多い事だった。三越という日本資本の百貨店が経営しているからか、今日本食ブームなのかは不明。でも、「日式」を掲げている割にはなんだか日本をちょっと誤解しているっぽい料理もあったりなんかして。

ジーニアスと二人そろって「おお」と声を上げてしまったのが、これ。「富士鉄板焼」という店名。

どうして鉄板焼きが日本食として海外に認識されてしまったのかは大きな謎だが、欧米でも「鉄板焼」といえばジャパニーズレストランの定番だ。このお店も、広島風お好み焼きを焼くかのような大きな鉄板で、肉や野菜を炒めていた。

客はすずなり。客の顔ぶれをみると、どうも全員台湾人だ。地元民にも愛されているじゃあないか、富士鉄板焼。

でも特徴的なのが、客の全員が「紙コップで水を汲んできて、それを飲んでいる」ことだった。やっぱり台湾人は食事の時にビールを飲まないんだな。信じられんよ、焼きたての肉を食べる際にビールが無いなんて。

富士小火鍋

こちらは富士鉄板焼のお隣にある「富士小火鍋」という名前のお店。面白いもので、カウンター席に一人用の鍋が埋め込まれていて、一人一人鍋の具を自由に注文してマイ鍋を作る。

多分日本でもこういうお店はあるんだろうが、少なくとも僕は見たことも聞いたこともない。なかなか良いアイディアのお店だと思うけどな、日本でやったらはやらないかな?

でも、鍋って「値段は高いけど人数で頭割りして割り勘すればそれほど高くない」料理だ。一人一人、個別に鍋を提供していたら高くつきそうな気がする。

それはともかく、「火鍋」という中華料理と「富士」は全く関係ないと思うんですが。まあ、単なる店名だと思って気にしなければいいのか。

北海道函館拉麺、という日本人でも理解できる文字で看板が出ていた。北濱商店なるお店のものを取り扱っているようだ。

帰国後知ったのだが、北浜商店というのは函館でも有名なラーメン屋さんらしい。

「北海道」に対して台湾人は強い憧憬の念を抱くという。広大な大地、そして雪!台湾には無いものがそこにはある。だから台湾人ツアー客が最近北海道に大挙して押し寄せているわけだが、そんなココロをくすぐる「北海道」の文字。これがあるか無いかで売り上げは違うんだろうなあ。

「アサヒスーパードライ」の立て看板

食品売場に行ってみた。

まず拍子抜けだったのが、入口入ってすぐにビールがずどーんと並んでいたことだった。そして、だめ押しに「アサヒスーパードライ」の立て看板。

ひょっとして、フードコートでビール飲みつつ食事がしたい人向けに特設コーナーを設けたのだろうか?

Bar BEER

ビールコーナーでは、日本のビール売り場かと思うほど見慣れた銘柄が並んでいる。ただ、酒税法の違いなのだろう、発泡酒や「その他雑酒」といった類のものは置いていない。いいねぇ。

とはいっても、見慣れない銘柄も発見。キリンの「Bar BEER」という商品。黄色い味気ないラベルと、やる気の無いネーミングからして不思議だ。台湾オリジナル商品らしい。あまりにやる気がなさそうな外観だったので、「発泡酒か?ノンアルコールビールか?」と思ったが、れっきとしたビールだった。

ちなみに350ml缶で26元(104円)。安い。おかでんがこの国に住んだら、確実にビール依存症になる。

アサヒのビール「乾杯」

アサヒも台湾オリジナルビールを発売していた。その名も「乾杯」。こちらは金色のラベルで、キリンのやる気のないデザインとは一線を画している。

ものは試しで買ってみても良かったのだが、台湾で日本メーカーのビールを飲まなくてもいいだろうと気づき、思いとどまった。

500mlで39元(156円)。日本での実売価格より100円ほど安い計算になる。

精肉コーナーでジーニアスが驚きの声を上げる。

「おい!松阪牛の肉が売られているぞ!スゲー高い!」

松阪牛は、うやうやしく白い布(?)がかぶせられ保存されている。でかい。値段もでかい。100gあたり1,360元(5,440円)。地元民の感覚で行けば、100g1万円以上の超高級牛肉ということになる。誰が買うんだ、これ。

しかも、どかっとブロックで仕入れちゃってるけど、ちゃんと売り切れるのかなあ・・・心配になってきた。

隣には「美國冷蔵牛小排」すなわちアメリカ牛が売られていたが、こちらも100g250元(1,000円)と良いお値段だ。大して良い肉には見えないのだが。でもそれすらかすんでしまうのが松阪牛の威力。さすがにこればっかりは現地生産できないもんなあ。「物価が安い海外で買ったら安かったです!」なんてことは絶対ありえんのがこういう「ブランド食材」だな。

チキンラーメンが売られている

ここはどこの国だ、というくらい日本商品が溢れているラーメンコーナー。カップ麺よりも5袋入りの商品に力を入れているようで、チキンラーメンをはじめとし各種製品がそろえられていた。

その大半が日本語。大半というか、ほとんど。

キムチ風ラーメン、横浜しょうゆラーメン、名古屋こく塩ラーメン、MUGうどん・・・。

あまり広くない店内で、なおかつ百貨店というブランドイメージもあるなかで、これだけのラーメンの品そろえ。さては台湾の人って相当日式ラーメンが好きだろ。

うどん、そうめん、蕎麦

わはは。さらに笑ってしまう光景に出会った。

こちらで売られているのは、うどん、そうめん、蕎麦・・・といった乾麺のオンパレード。しかも全部日本語。一体どこの国の食品売場だ。

ここではたと気づいた。いくら何でもこんなに日本食品を台湾人が好むわけがない。ということは、このお店のメインターゲットって日本人駐在員の家族なんじゃないか、と。

要するに、日本人向けの食材コーナー。

それだったら納得がいく。うーん、そういうことか。もちろん、台湾の人も利用してくれなくちゃ経営は成り立たないだろうけど、メインターゲットは日本人としか考えられない品そろえだ。

日本からの輸入物がずらり、とばかりにはいかない。さすがに生鮮食糧品は現地調達しなければ。

こちらは牛乳。

見慣れない容器だ。プラスチック製だろうか?取っ手がついていて、結構ごつい。容量の確認はしなかったが、恐らく2リットルは入ると思われる。

台湾の人はごくごく牛乳を飲む・・・らしい、と勝手に推測してみる。

おっと、ラベルを見ると、この国では「牛乳」とは呼ばずに「鮮乳」と言うようだ。

それにしてもなぜみんな一様に取っ手付きの牛乳容器なんだろう。全メーカー共通の容器を使っているのかと思ったが、よく見るとメーカーごとに微妙にデザインが異なる。自然と「牛乳というのはこういう取っ手付きの容器に入っているものだ」というムードになったのだろう。日本だと、牛乳=テトラパック入りが当たり前、と誰しもが無意識に思うのと一緒。

セットで牛乳が売られている

あ。テトラパック入りの牛乳発見。それにしても、デカい取っ手付き容器の「抱き合わせおまけ」としてパックの牛乳がついてきているというのは何とも不思議な光景だ。何なんだろう、これは。売れ残りで「50円引き」なんてシールを貼らないで、おまけをつけて売り抜けようという計算だろうか?牛乳に牛乳がついているというのは初めて見た。

ちなみに消費期限を見ると7月30日になっていたので、まだ十分大丈夫だ。売れ残りというわけではなさそうだ。

それはともかく、ラベルに「北海道」と書かれているんですが。まさか北海道から牛乳を輸入しました、というわけではないとだろう。ということは、「北海道って牛乳おいしそうなイメージあるよね」ということでつけられた名前、ということなのだろう、恐らく。

18:18時点で31度

暑さのあまりぐったりしてあまり食欲は無いのだが、ひととおり食品売場を見て回ったのでいよいよ士林に乗り込むことにした。屋台街でこれぞ台湾料理!どうだ!うぉりゃあ!というのを味わい尽くそう、というわけだ。もちろん台湾麦酒と一緒に。

「地下道と連結しろよな、全く」

先ほどと同じ愚痴を言いながら、地階から地上に出て、MRT乗り場に通じる地下道の入口を目指す。

途中、気温の電光掲示が出ていたので見てみたら、18:18時点で31度。まだまだ暑い。

露出度の高いパフォーマンス

31度で暑いなあ、とはいっても真っ昼間と比べれば7度も下がったわけであり、台湾人からしてみると「過ごしやすい時間」になったのだろう。新光三越前の特設ステージでは、歌と踊りのショーが始まっていた。観客の数も多い。恐らく、この手のイベントは夕方から始めるというのがこの国の常道なんだろう。

でも31度ですぜ。舞台の上で、歌って、踊っているおねーさん達倒れちゃうんじゃないかとちょっと心配。

MRT淡水線で士林観光夜市を目指す。

紛らわしいのは、士林駅で降りるのではなく、その一駅前の「劍潭駅」(ああもう、漢字が難しいなあ)で降りなければならないということ。うっかりしていると乗り過ごす。

地図で台北市街を眺めると、士林のあたりは市街地の外れを印象させるが、実際はMRTで台北車站から5駅目と至近。人口規模の小さい首都ならでは、だろう。

MRTのアナウンスは、最初は國語(北京語)、その次に台湾語、客家語、英語と4カ国語で行われる。故に非常に長い。

「え?台湾って中国語の国じゃないの?」と思った人、それは違う。国民党が支配するまでは半世紀近く日本語だったわけだし、その前は各原住民によって様々な言葉が使われてきた。中国語が使われだしたのは、1947年に国民党が台湾に移ってきてからのことだ。歴史は案外浅い。

だから、「家族との会話は台湾語だけど、通常の会話は北京語」などと使い分けるバイリンガルの人がとても多い。ちなみに台湾語だが、中国語の方言の一種と思ったら大間違いだ。北京語と広東語が全く違う言葉だというのと同じく、台湾語と北京語も全く違う。よって、この国の人は幸か不幸か多くの人がバイリンガルなんである。それ故に、他言語への適応能力はとても高く、すぐに外国語を身につけるという特性を持っているようだ。

さらに補足すると、「國語」である北京語だが、さすが台湾と中華人民共和国が分裂して半世紀以上も経つと、言葉に方言がでてくるようだ。独特の訛りが出てきて、北京で使われている「標準語」と台湾の「國語」では微妙に異なっている。たとえば、おいしいという事を「好吃」(ハオチー)と言うが、台湾ではこれを「ハオツー」と言う。あれ?逆だったかな?まあいいや。

劍潭駅

さて、劍潭駅に到着だ。

多くの人がここで降りる。

「おい、この連中ほぼ全てが観光夜市の屋台目当てじゃないだろうな」

「あり得るな、それは」

「スゲー混むぞ、それだと。どっから湧いて出てきたんだよ、こんな人。昼には居なかったろ」

全くだ。先ほどの歌と踊りのショーもそうだけど、夕方になってがぜん街全体にターボがかかってきた感がある。

 劍潭駅外観

劍潭駅外観。

吊り橋状になっていて、屋根を支えているのが面白いデザインだ。

面白いと言えば、「次の電車の到着時刻」を示す電光掲示も挙げられる。日本だと、「○時○分」と時刻が表示されるのだが、この台湾のMRTの場合「残り○分○秒」と次の電車までの時刻をカウントダウンしているのだった。

どっちが便利か、というと台湾式の方が便利だと思うが、日本みたいな通勤ラッシュがある国だと駆け込み乗車が増えそうでかえって良くないかもしれない。

ちなみにその場では感心していたのだが、後になって知ったのは「台湾の電車は遅延が多いので、ダイヤが存在しない」ことから、日本のように「○時○分発」と表記できないというのが真相らしい。なんのこっちゃ。

見えてきた。駅を出て、信号を渡った向こう側に見える建物が士林臨時観光市場と呼ばれる建物だ。昔はばらばらに屋台があったそうだが、この建物一カ所に飲食店はまとめられたんだという。

士林臨時観光市場

さあ、B級台湾グルメの聖地に到着だ。胸が高まる。鼎泰豊で小籠包、なんてちゃんちゃらおかしーや、地元の味覚を追求しないと・・・と鼻息が荒い。

確かに、旅行会社が企画している台北ツアーだとやたらと「鼎泰豊でお食事」というのが多い。あと、当然「屋台で庶民の味を満喫」なんていうスケジュールは存在しない。個人旅行だからこそできるぜいたくが、B級グルメを味わうことだ。相反しているようで、そうではない。

公有士林観光市場日夜市

うれしくなっちゃって、入口の前で一枚記念撮影。

「公有士林観光市場日夜市」という看板が掲げられている。夜だけでなく、昼間も営業しているお店があるようだ。

それにしても繁体字、難しすぎだ。観光の「観」もなんだか見たことがないややこしい漢字になっている。忠実に再現すると「觀」になるのだが、漢字をATOKの「手書き文字入力」モードから探すのは大変なのでもう許して。といいつつ、觀という字を探しあてちゃったよ。あー。

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