さあそろそろ昼時だ。ランチの時間だ。
極端な話、メシさえ食えれば、あとは宿に向かったっていい。宿まで直線距離で数キロといったところだ。湯けむりまであともう少し。
だいたい僕の旅行というのは、あれもこれもとスケジュールを詰め込みすぎて、お昼ご飯を食べるのは随分と遅い時間になってしまいがちだ。で、「このままだと宿の夕食に響く」という焦りと義務感から、ようやく昼飯にありつくという有様だ。
しかしどうだ、今回は12時を過ぎたばかりだというのに、もう昼飯スタンバイだ。なんて行儀がいいんだ。
当初予定通り、食べるのは塩原名物だという「スープ入り焼きそば」のつもりだ。そして、その元祖のお店だと言われている「こばや食堂」を目指す。先ほどお土産物屋で見かけた「釜彦」のスープ焼きそばも同じく元祖の呼び名高いが、今回は「こばや食堂」にしてみる。
観光案内パンフレットの写真を見ると、「こばや食堂」は豚肉とキャベツだけなのに対し、「釜彦」は若干色気を出してカマボコも入っているようだ。いずれにせよ、ソース焼きそばを醤油ベースのスープに沈める、というのは一緒。
それから、あともう一つ気になるものがある。この写真左側にちらっと写っているのが、塩原の新名物として現在売り込み中の「とて焼き」だ。クレープのような食べ物で、生地は牛乳と玉子で作っていて甘い。
昔、塩原を往来する馬車はクラクションの代わりに「とて」と呼ばれるラッパを使っていたことから、「とて」に似たクレープ状料理を「とて焼き」として世に送り出したのだそうで。
2015年時点で、この「とて焼き」を提供する塩原の飲食店は13ほど。具に制約はないため、お店によって独創的なとて焼きが売られている。おかず系のものから、スイーツ系のものまで様々だ。
「13店舗?それだったら、全店舗制覇も・・・」
とまた悪いクセがウズウズ湧いてくるが、やめておこう。今回は温泉に行くことが優先だ。あくまでも療養だということを忘れてはいけない。一応、今回は「治療」ではなく「再発防止」ではあるけども。
ちなみに写真に写り込んでいる今井屋製菓のとて焼きは、「黒ミツきな粉とて」なんだそうな。
12:10
話を戻してスープ入り焼きそば。温泉街から外れつつある場所に、こばや食堂はある。
崖の上には大きなホテルおおるりがどっしり構えていて、その下にちょこんとお店はある。
駐車場はお店の脇。
12:14
ちょうどお客さんが食べ終わって出て行ったところで、入れ替わりに入店できた。
昼時ということもあるけど、観光客から地元の人からひっきりなしにお客さんがやってきていた。繁盛店だ。
こばや食堂のメニュー。
やはりなんといっても、スープ入り焼きそばが大きく紹介されている。
並650円、大750円、特大850円。
ライス200円半ライス150円、という記述が「スープ入り焼きそば」と同じ枠内に書かれているということは、焼きそば食べながらライスを食べると旨いよ~、というお店からのお誘いなのだろう。
いや、でもそれだったら、スープ入り焼きそば「並」を「特大」にするぜ。がっつり食べたいじゃないですかモウ。
このお店、中華料理屋のようなそうでないようなメニュー構成になっている。ラーメンや炒飯があるけれど、親子丼やしょうが焼き定食もあるという。ちなみに餃子は存在しない。
どっちにせよ、店内を見渡す限り、スープ入り焼きそば以外を頼んでいる客は皆無だった。
お店のご主人、いい加減ウンザリしてこないだろうか?「ああ、たまには野菜炒め作りてぇなあ」なんて。
メニューの裏には、スープ入り焼きそばの説明がご丁寧にも書いてあった。
ラーメンの麺、豚肉、キャベツをソースで香ばしく焼き上げ醤油ベースのスープに入れた塩原名物です。
食べるにつれ面から溶け出たソースとスープの醤油が絡んで甘辛くなります。
胡椒、酢、七味唐辛子などお好みでどうぞ。
だって!うおお、これは食べる前から勝利が約束されているやつや!うまいに決まってる。胡椒、酢、七味があう料理に悪いやつはいません。
では、お言葉に甘えて、食事の後半戦にはこれら調味料をあれこれ駆使させてもらうぞー。
わざわざ英語メニューまで用意してあった。塩原までどれほど外国人がやってくるのかは謎だが、素晴らしい取り組み。そうか、英語表記になると「CHOW MEIN IN SOUP」になるのか。
で、注文から10分強で届いたスープ入り焼きそば。
左が「大」で右が「並」。
本当は特大にしちゃろうかと思ったのだけど、カツから「このあととて焼きもあるんですから」とたしなめられた。ぐうの音も出ない、納得感ある制止だ。逆に言えば、とて焼きを食べるぞーたくさん食べるぞーというお許しでもある。
いや、実は腹の底では、「もしこばや食堂のスープ入り焼きそばがうまかったら、釜彦にもハシゴして二軒の味比べを」という悪だくみもあった。そういうことも勘案して、「大」でストップ。
「大」と「並」が並んでいるところ。丼の違いはこの程度。
具は至ってシンプル。
豚肉はバラ。そしてキャベツ。「実はちょびっと、海老が入っていました」みたいなオマケなど一切無く、屋台の焼きそば同様キリッとシンプルな具で勝負。
なるほど、麺は確かにラーメンの麺だ。焼きそばっぽくはない。
でも、いったんソースで炒めているので、色は焼きそば色になっている。
スープは、醤油ラーメンのスープなのだろうか。ありふれた感じがするし、飛び抜けてうまいものではない。しかし、既に焼きそばから味が溶け出していて、ソースならではの酸味と甘みが混じっている。あと、スパイシーさも。これがなんだか妙にうまい。
逆に焼きそばの方だが、こっちはソースでこってりと仕上がっているはずなのにラーメンスープで味を洗い流されてしまい薄まっている。しかしその分、ソースの風味を残しつつもつるつるっと気持ち良く麺をすすれて、妙にうまい。
ああ、これはうまいぞ。
カツとお互い目を見開いてうなずき合う。さっき、「胡椒と酢と七味があう料理はうまいに決まってる」なんて書いたけど、そんな事前予想を遙かに超えるうまさだ。
悪く言えば、味が薄まってぼやけたような印象はある。焼きそばをイメージして食べれば薄いし、ラーメンをイメージして食べればくどい。しかし、こういう食べ物であると思って食べると、絶妙にスパイシーで、華やかな風味で、なるほどこれはいい!と膝を叩く出色の出来となる。
みんなが知ってる味だ。なんの珍しさもない、ソースの味だし醤油ラーメンの味だ。それを二で割っただけのことなんだけど、こんなにうまいとは。
「これは家でも再現できそうだな、是非家で試してみないと」
心に誓う。
卓上には、お店の推薦通りに胡椒、七味、そしてホールの唐辛子入りの酢があった。これらを適当にかけると、味がより際だって面白かった。特に僕は、レンゲにスープをひとすくい入れ、そこに酢を大目に入れるのが気に入った。ソースの酸味を増強させ、刺激的になるからだ。
塩原でうまいもんに出会えて良かった。
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