塩の湯に向かう道と別れ、狭くなった道を走る。
塩の湯は、2軒しか宿がない小さな温泉地。しかし、その2軒とも宿の中に多くの浴室を持っていて、貸切風呂や混浴露天がたくさんある。カップルなら、ぜひ一度泊まって見たい宿だ。
で、それには見向きもしないで、ストイックに山奥の小太郎ヶ淵を目指す。
雨はちょうど止んでいて助かる。とはいえ、いつ振り出してもおかしくない天気だ。
道路脇では、ニホンザルが警戒してキーキー吠えている。
安心しろ、お前たちのテリトリーを邪魔する気はないから。僕は茶屋の草団子が食べたいだけなんだ。
当たり前のようにサルがいるような、そんな山奥。
つづら折れの道を何度か折り返した後、舗装されていない砂利道に入る。案内標識はちゃんと分岐点にあるので道に迷うことはないけど、なんかだんだんワイルドになってきたぞ。
小太郎ヶ淵は車では行けない、ということだけど、いったいどこまでなら車が入れるのだろう?このままこの道を突き進んで、行き止まりになってUターンすらまともにできない、というのはとても困るのだが。
きびしいヘアピンをターン。
痛んで黒くなったガードレール。もともとは白かったのだと思うけど、今や黒ずんだバナナの皮みたいになっている。
へこんだ形跡もある。大きな車はこのヘアピン、切り返しが難しい。一度では回りきれず、うっかりぶつけてしまったのかもしれない。
駐車場と呼べるほどの場所はないけど、路肩に車を停められるような場所があった。いったんここで車から抜け出す。どうやらこのあたりが小太郎ヶ淵らしい。
ほら、「小太郎ヶ淵」って書いてある。
倉庫のような建物が建っていて、その周囲に雑然とものが置いてある。渓谷の自然美、という様相ではない。
倉庫周辺はごらんの有様。整理整頓の真っ最中で、暫定的にモノを外に出しているだけなんです・・・という感じだが、きっとずっとこんな状態なのだろう。
おっ、写ルンですの自販機、発見。
稼動していないかと思ったが、自販機がさび付いていないのでちゃんと購入できそうだ。だれが買うんだ、こんなところで。思わず、小太郎ヶ淵や茶屋を見て「写真を撮らなくちゃ!!しかも、写ルンですで!!」と思う人がある程度はいる、ということなのか。
しかも、フィルムも売っている。ええ?フィルムカメラを今どき持ち歩く人って、いるのか?
既に怪しさ満点の小太郎ヶ淵。ちゃんと「日光国立公園」という看板が出ている。岩がゴロゴロしたところに、小川が流れている。
その傍らに、「茶店 営業中」の看板もある。おっ、小太郎茶屋、営業しているな。人の気配がぜんぜんないので、ちょっと心配だったんだが。
小太郎ヶ淵の岩場に、ベニヤ板が渡してある。そして、岩の上に、やっぱりベニヤ板などで作ったベンチが点在している。
こういう言い方をすると失礼だが、一言でいうと「すごくチープ」だ。
ベニヤ板の橋を渡ってみると、ぶよんぶよんと体重でしなった。あぶねえ、本当にこれ、見たまんまのベニヤだ。特に何か補強してあるとか、そういうことはないぞ。
そんなベニヤ橋を渡って行った先にあるのが、目指す小太郎茶屋。
わー。
写真で見た以上に、実物はすごい。なんだこの唐突感。
本当に崖から川に転落しそうな場所に、二階建ての茶屋が建っている。岩場の上だぞ?どうやって安定してるんだ?という作り。無理やりにもほどがある。
「違法建築」という言葉が頭をよぎったけど、長年営業しているようだからそんなことはないのだろう。きっと。でも、「昔っから営業していたので、既得権益」というのはあるかもしれない。
ベニヤのベンチに、小太郎茶屋のお品書きが挟まったバインダーが置いてあった。「茶店専用縁台」と書いてある。ああそうか、茶店で飲食しないのにこのベンチを使わないでね、ということか。
草だんご 400円
煮込みおでん 500円
きのこうどん 700円
きのこそば 700円
ところてん 300円
ビール(大ビン) 700円
酒 400円
ジュース類 150円お持ち帰り用
草だんご 大 1,000円
中 800円
小 500円
深山さんしょの佃煮 500円
となっている。
「煮込みおでん?煮込まないおでんがこの世の中に存在するのだろうか」
どうでもいいことが気になる。
それはともかく、確かに眺めはいい。派手さがない分、むしろ味わい深く、ゆっくりと風景を楽しめる。落差がある名瀑というのは見ごたえがあるけど、だんだん飽きてくるものだ。むしろ飽きがこないのはこういう景色だと思う。
べよんべよん
そんなことを思いつつ、足元をゆすると、上下にバウンドするベニヤ板。そう、この写真はベニヤ橋の上から撮影中。
淵、という名前がついているとおり、このあたりは川幅がとても狭い。
岩の隙間を、まるでドブのような幅になりながら勢いよく水が流れている。
そんな傍らに、違法建築感満載の小太郎茶屋がある。いやあ、すごい光景だ。これはマニア心をくすぐる景色だ。男の子ならワクワクする光景。ラテアートの写真とか空の写真を撮影してSNSに上げるのが好きな人には理解できないだろうけど。
何度目かのベニヤ橋を渡って、小太郎茶屋にゴール。滑りやすい材質ではないので少々濡れていても大丈夫だけど、あんまり足元がしっかりしているわけではない。ご年配の方や、足腰に不安がある方はやめておいたほうがいい「近場の秘境」だ。
それにしても本当にここ、人がいるのだろうか?無人販売で、「お金をカンの中に投げ入れて勝手に草だんごを持って行ってくれ」ってなっていても何らおかしくない。
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