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「流れてきた橋」
まるで小説のタイトルのようだ。でも「事実は小説より奇なり」という言葉あるように、本当にここには「流れてきた橋」がある。
2000年の噴火により泥流によって押し流された橋だという。
噴火当時も、既に泥流の発生を予見して流されてきた泥流を人工的にコントロールするえん堤と流路工をいくつも作ってあったようだ。しかし人間の想像を超える泥流の量で、流路工を溢れ出し、その結果国道230号線という大事な道路の橋を流してしまった。
それが、これ。「木の実橋」という名前だという。
橋だ、と言われないと気が付かない。当たり前だけど土砂に埋もれ、そして緑が生えてきている。ただ、唐突に街路灯がそびえているので、「あれ?これって人工物だ」ということに気がつく。
確かによく見ると、下の部分は鉄骨だ。
「泥流によって流されました」と言われないと、なんでこんなところにこんな中途半端な人工建造物が?と不思議でならないだろう。廃鉱山とも違う。
流された橋を見せつけるように遊歩道が作られている。
通り過ぎてから振り向いたところ。なるほど、こちらから見ると欄干がよくわかる。これは確かに橋だ。
そして、橋の先に先程から気になっている建物がある。
唐突に、アパート。周りに何も残っていないのに、ここだけ屏風のように、まるでこのアパートが一つのえん堤であるかのようにそびえている。
あれは・・・人が住んでいるのか?それとも、廃墟か?
いや、住んでいるわけないよな、周りになにもない。わざわざここに今住み続ける理由がない。えっ、じゃああれも廃墟?
リアルすぎる廃墟。いや、その表現はおかしいか。なんだよ、「リアルな廃墟」って。
廃墟、と言われても一瞬信じられないくらい、まだまだ現役感のある建物だからだ。ちょっと探せば、もっともっと年季の入って味わい深くなっている団地なんて全国いたるところにあるぞ。
「桜ヶ丘団地」という名前だった。3棟並んでいたのだけど、これまで見てきた遺構同様に2000年の噴火で泥流に飲まれてしまったのだという。さすがに橋のように流されることはなかったけど、噴火遺構として1棟だけ残したのだという。残り2棟は取り壊されて、今は残っていない。
唐突に1棟だけ団地が残されているけれど、ここだけ隔離施設だったはずがない。この周辺には集落が広がっていたはずだ。家があったり、お店があったり、それらをつなぐ道路だってあったはずだ。でも、今やまったくそれが残っていない。泥流に飲み込まれたのと、きれいに撤去してしまっているからだ。
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遊歩道は、ご丁寧に団地をぐるっと周回する作りになっていて、360度見て回ることができる。
昔の団地によくある、「1つの建物に階段がいくつもあるスタイル」のアパートだ。階段1つにつき、1フロアは2部屋。階段の左右に部屋がある。この手の建物は、福祉対策として後からエレベーターを設置するのはむつかしい。最上階に住んでいる人は、若いうちは眺めがよくてハッピーだけど、年をとるにつれて階段がしんどくなってくる。
えーと、ここは5階建てか。5階は大変だけど、当時はさぞ眺めが良かっただろうな。洞爺湖を見下ろし、さらにはその先に羊蹄山が見えいてるのだから。
それにしても、建物入り口付近に木が生えているとはいえ、そんなに傷んだ感じが見受けられない。災害から既に17年なのに。火山性のガスで外壁が劣化しなかったのだろうか。
特に泥流に飲まれてしまった感じもなく、普通にひょっこりと階段が見える。先ほどの入浴施設と同様、「危険!立入禁止!」などという注意がない分、むしろ不気味だ。日常と非日常がグニャッと混ぜられた感じがするからだ。
ひょいっとそのまま中に入れてしまいそうだ。だからこそ、怖さを覚える。
ぐるっと建物を回り込む。こちらは山側。アパートのベランダがある方だ。
ああ、さすがにこちらは損壊があちこちで起きている。でも、飛んできた噴石で蜂の巣にされてしまったような形跡はなく、このエリアにおける火山被害は大量の泥流だったことがわかる。
後で知ったのだけど、この山の反対側、内浦湾方面には同じ年の噴火で発生した噴石で穴だらけになった幼稚園が遺されているという。今度機会があったら、そちらの施設も見学したい。
人の手が入らなくなった建物は、まず真っ先にガラス、その次に金属部分が痛むようだ。ベランダの柵が崩れ落ちてるところがいくつもある。
植物の生命力は凄まじい。最上階の5階ベランダから木が生えていた。
さすがにあれは、「生木が根こそぎ泥流でサーフィンしてきて、うまいことベランダに着地」ではないだろう。高さがありすぎる。ということは、種が風に飛ばされてきたか、鳥が運んできたかのどちらかなのだろうけど、あんなデカい木が生えるだけの土壌ってどうなってるんだ?ベランダだぞ?
宙を舞って降り注いだ粉塵を大地として根付いたのだろうか?
・・・ああ!よく見ると、ベランダ横の割れた窓からも、木の枝がにょっきり生えているのが見える。なんだありゃあ。家の中にまで植物が繁ってるのか。なんてぇ生命力だ。畳に根を張ったのだろうか?
人はいなくなり、かわりに植物が住む。
あ。
よく数えてみると、この建物が4階建てに見える。さっき、表から見た時は5階建てだったのに。
つまり、山側は1フロア分、まるごと泥流に埋まってしまったということだ。ぎょっとして思わずまざまざと自分の足元を見る。
きれいに遺されている建物だけど、一か所だけ建物の隅がガリッとえぐられていた。これ、その奥に見える木の実橋が流されてきたときに激突した時にできたものらしい。
(つづく)
コメント
コメント一覧 (2件)
「内海湾」ではなく「内浦湾」ですね。
つまらない指摘でごめんなさい。実は10年以上前から愛読してます。
米こうじさん、間違いの指摘ありがとうございます!こういうアドバイス、地味にありがたいことです。これからも愛読をよろしくお願いします!