結婚決定で天にも昇る気持ち、じゃなくて富士山に登る【富士山登山(富士宮口)】

09:15
浅間大社奥宮の手前で、「登頂記念!」とばかりに優雅にコーヒーをドリップしていたら急速にガスって、雨が降ってきた。大慌てだ。だって、真の山頂はまだもうちょっと先だからだ。

「大雨が降って風も強いので、ここで泣く泣く登頂を断念しました」

というのはあまりに残念なシチュエーション。なにせすでに標高3,700メートルに達しているのだから。

とっとと山頂を目指す。

ここから先、山頂の剣ヶ峰まではかなり急な道になる。しかも、細かい砂利の道で、一歩歩くたびにズルズルと足が滑る。

酸素が薄くなっているし、ここまでの登山で体力が削られている中、最後の苦行となる。

09:25
こんな急坂をフウフウ言いながら直登だ。

このあたりは「馬の背」と呼ばれていて、左右が切り立った崖になっている。なので、これまでの登山道のようにジグザグに進みながら標高を稼いでいくのではなく、ドーンと一直線に標高を稼ぐことになる。試練だ。

写真右側に壊れたフェンスのように見える枠が見えるのは、「うっかりこっちに行くなよ?落ちるぞ?」という警告のためだろう。すぐにガスが発生するし突風が吹く山の上なので、こういう目印がないとうっかり崖に落ちる人が出かねない。

09:27
ガスの切れ目から、剣ヶ峰が見えてきた。

昔は気象台があった場所だけど、2004年に測候所としての役目を終えている。今でも気象情報の自動観測は行っているようだけど、百葉箱程度の観測しかやっていないはずだ。

白くて丸いレーダードームがこの測候所の象徴だったけど、今は解体されて残っていない。その土台部分が残されている。

測候所が現役のときは、厳冬期でも泊まり込みで職員が滞在していた。冬に山頂に登るというだけでもすごいのに、長期間ここに泊まり込むというのはすごいことだ。今の労務コンプライアンス事情を踏まえると、いったいどれくらいの危険手当やら職務加算やらを支給しなくちゃいけないだろう?

まだ南極基地のほうが良さそうだ、とさえ思う。だってこの山頂、いくら「今日は天気が良いぞ」といても基地周辺を自由に散歩できる場所じゃない。うっかり足をすべらせると、日本最大の滑り台として麓まで滑り落ちてしまう。

09:42
そんな測候所跡地の前に、富士山頂の碑がある。ここで登頂の記念撮影。

いしは前年に続いて2年連続の登頂。よく登るよ、ホント。信じられない。それでいて僕よりも登山に関しては体力がないんだから。気合いと根性は僕よりはるかに上。

09:49
山頂碑すぐ近くに、「富士山の気象」と書かれたパネルがあったので読んでみた。

富士山山頂の気圧は年間平均638hPaで、海面気圧の3分の2しかありません。

標高3776の孤立峰であるため、天気は変わりやすく複雑な風が吹き、夏山で山麓から山頂に向かって積雲が立ち昇るときは雷雨の前兆です。

夏、上空に寒気が入り、山頂の気温が5℃以下になると雷雲が発達しやすくなります。

冬は平均気温が最高-15℃、最低-22℃、平均風速が20~30m/s(稜線は5割増し)と厳しい環境になり、寒候季に低気圧通過のさいには大雪が降ります。

富士山の5合目までは森林があるため風は弱いのですが、森林限界をすぎると急に風速が強まります。風速が1m/s増すと体感温度は1℃下がります。

レンズ雲は強風の兆候です。

解説文執筆:富士学会

「冬は平均風速が20~30m/s」ってしれっと書いてあるけど、下界と次元が違いすぎる。桁が一つ間違えているのでは?というくらいの「平均」だ。この世界では「無風」ってのが殆どないのか?

10:04
「天気は変わりやすく複雑な風が吹く」というのはまさにそのとおりで、今がそれ。

風がどうっと強く吹き、ガスで視界が非常に悪い。大粒の雨が降っていないのは幸いだけど、霧雨が肌に当たる。楽しい空間ではない。

そんな中、時計回りにお鉢めぐりをする。本当なら富士山火口を見下ろしたり、麓の景色を眺めながらの楽しい標高3,700メートル満喫となるのだけど、これじゃひたすら耐えるだけだ。

10:15
時折ドスッと腹にくる突風に足元をふらつかせないよう、気をつけながら歩いて行く。

僕が先行して歩いて行くが、時折振り返って「大丈夫?」といしに声をかけると「大丈夫です、気にせず先に行って下さい」とちょっと怒った声で返された。

自立心の強いいしは、登頂中に僕が「疲れてない?」と声をかけることさえも拒絶していた。「そんなこと言わないでください」と何度も怒られた。僕は今回の登山のバディとして、相手の疲労状況を確認しながらペースコントロールをするつもりで聞いている。でも、いしからすると「余計なお世話」になる。

10:18
富士山の4つの登山道のうち、吉田口・須走口は八合目で合流して一本の登山道になる。

そこを上りきってお鉢まで到達したところに、山小屋密集エリアがある。それがここ。

10:18
「富士山頂上奥宮」と書かれた建物。「久須志(くすし)神社」という名前がついている。浅間大社奥宮の末社。

富士登山でもっとも利用者が多い吉田ルートで登頂した人は、この神社を参拝して記念写真を撮って、それで満足して下山する人も多いと思う。なにしろ、剣ヶ峰はここからお鉢をぐるりと半周しなくちゃいけない。気力体力が大変だ。

10:19
お詣りをする。

いしに「どういうことをお願いするの?」と聞くと、「お父さんやお母さん、妹、妹のとこの子ども、妹のパートナー、それから・・・(しばらく親戚の名前が出る)・・・の健康を願ってます」と言う。妹が結婚してから、祈る相手が増えた、と微笑む。へええ、すごいな。

僕なんか、「自分の半径5メートル以内の人が幸せであればそれでいい」と思っているので、そんな他人の幸福を祈ることは全くしない。というか、気恥ずかしいので、「祓え給い、清め給え」としか唱えていない。

ただ、そんな僕でも、この数カ月後の結婚式のときには「これまで半径5メートルの人が幸せになれば良いと思っていたけど、今では半径10メートルまで範囲が広がりました」と来場者の前で殊勝な言葉を述べている。たった10メートルだけど。

(つづく)

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