
17:22
御来光山荘の中に入る。
「日本秘湯を守る会」の会員宿みたいに、ちょうちんがお出迎え。
「富士山新七合目」と銘打たれている。あれっ、「新」なんだ。ということは、新しくない七合目というのがどこかにあったのか。
先ほどの六合目も、「六合目雲海荘」「新六合目宝永山荘」と2つの山小屋があった。ここも、今は存在しないけど「新しくない」七合目の山小屋が別にあったのだろうか?
・・・と時間稼ぎの文章を書きながら検索。ああなるほど、このルートをさらに進むと、今度は「元祖七合目 山口山荘」という山小屋があるんだった。「元祖」があったり「新」があったり、なんともややこしい。
いずれ「本家」とか「宗家」とか出てきそうだけど、富士山においてはこれ以上山小屋が増えることはないはずだから、そういう心配は無用。

山小屋入ってすぐのところに、お菓子やら酸素やらが売られている。
驚きなのが、冷凍品が売られていることと、冷えた冷蔵庫でジュースが売られていたことだ。電気があるんだな。そして冷凍品がある、ということは夜間も電気が使えるということを意味している。ソーラー発電だけではなく、灯油か何かで自家発電をしているっぽい。へー。
そして、バーンと目立つところに並べられているのが、金剛杖。欲しい方は一本どうぞ。僕はちゃんとアルパインポールを2本持参して、ダブルストックでグイグイ登っているので不要だけれど。
すでに焼き印が押されている。グリップの付近には「表口富士宮」、下の方には「御来光山荘 世界文化遺産 表口新七合二七八◯米」と書かれている。世界文化遺産に登録されて、焼きごてを新たに作り直したんだな。

そんな売り場のすぐ脇にガスボンベが置いてあるのはなぜか、というと、焼き印を押すための熱源としてだ。
ペンキ缶のような入れ物に七輪をすっぽりはめ、その中に焼き印を入れてある。オーダーが入ったらすぐにジュウ、と熱々の印を押せるようになっているわけだ。

杖はかさばって邪魔なのでいらないよ、という人向けに、ミニ金剛杖プラス焼き印、というアクセサリーも売られていた。なるほど商売上手だ。
2019年はイノシシ年だったということもあり、わざわざ焼き印は「亥」が描かれていた。こうなると、12種類の干支を全部集めたい!というコレクターが現れるかもしれない。

山小屋入ってすぐのところ。
オレンジとブルーの防水シートが敷いてある広間だ。
ここで靴を脱いで、ビニール袋に入れる。下駄箱なんてないので、靴は自己管理になって寝床まで持っていく。
僕が想像していた富士山の山小屋って、この広間相当のところでみんなギュウギュウに雑魚寝、というものだった。すぐ脇の屋外では、夜通し登山客がザッザッと音を立て、喋りながら歩いている。こんなところじゃ眠れないぜ・・・地獄だ・・・と思っていた。しかし、どうやら僕らが寝る場所はここではないらしい。えっ、この建物、まだ奥があったの?

避難経路図。
これが御来光山荘全貌、ということになる。
左側がトイレ棟で、右側が宿泊棟だ。こうやって見ると個室がいくつも並んでいるように見えるけれど、実際は半個室状態だし、雑魚寝であることには変わりない。
山小屋の多くは、こうやってトイレと寝泊まりする場所が別棟になっている。下水道完備というわけにはいかないので、トイレを離れた場所にしておかないと臭うからだ。

広間から奥に案内されたら、そこははしごがずらっと並ぶカイコだなのエリアだった。
まるでカプセルホテルのようだ。
上段下段それぞれに布団が敷いてあり、そこでみんな寝ることになる。

僕らがあてがわれたエリアは二階だった。
はしごを登って上がってみると、両隣に板の壁があって個室感覚の空間だった。これはありがたい。
枕が4つ並んでいる。いちおう「4人部屋」ということらしい。
とはいっても、枕でさえ4つ並べるとぎゅうぎゅうだ。人間様がみんなお行儀よく仰向けで横に並ぶと、たぶん肩がぶつかる。

驚いたのが、「節電にご協力ください」と書いてはあるものの、この空間専用の照明があってスイッチのON-OFFが自由にできることと、その下にコンセントが1つ用意されていることだ。
「このコンセントは業務用なので、私的利用は盗電です」などと書いていないので、スマホの充電などに使ってよさそうだ。へええ、これもまた時代だなあ。
富士山の小屋だからこそ、登山慣れしていない人にフレンドリーな作りになっているのかもしれない。

枕が4つ並んでいるのに対して、壁にあるフックは3つ。
この場所を見渡す限り、ザック類はこのフックから吊るすしかない。でなければ、寝る時に膝の下にザックを置くか。
本当に4人が泊まるとなったら、フックは早いもの勝ちだな。
今日は月曜日。そして既に時刻は日没前。もうこれ以上は宿泊客がぞろぞろ増えることはないと思うんだが・・・念の為、あと二人追加が来る前提で僕らは隅っこに寄っておく。うまくいけば個室として使えるけれど、さてどうかな。
なにせ富士山だ、夜8時くらいに山小屋にやってきて「今晩泊まります」って人がいてもおかしくない。そんな人を宿が受け入れているかどうか知らないけれど。

通路を挟んで向かい側の2階部屋は、壁の仕切りがなくて大部屋風になっていた。
なかなか寝苦しい夜になりそうだ。
ただ、「いびきがうるさい人がいる」場合、それはもうこの大部屋風の人たちの連帯責任となるだけでなく、この小屋全体が連帯責任を負うことになる。カーテンしか仕切りがないので、いびきは容赦なくあたりに響きわたる。
(つづく)
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