13:52
「Mt.HOEI 2,693m」と書かれた標識を背に、宝永山の火口縁を歩く。
強風がものすごく、まともに顔を上げていられない。砂がビシビシ顔に当たる。
せっかくの景色だけど、両足を精一杯踏ん張って、足元を見ながら一歩一歩前に進んでいくしかない。まさかこの登山一番の過酷な環境が、ほぼ下山した気になっていたこのタイミングに訪れるとは思わなかった。
13:54
宝永火山の火口。
ザザーッと超巨大な砂の滑り台になっている。
写真だとわかりにくいけれど、写真中央あたりに横切る形で登山道が伸びている。御殿場口と富士宮口をつなぐ登山道だ。
僕ら宝永山山頂から歩いてきた人は、この道に向かうショートカットルートがあるのでそこを使う。
ただ、足元がザラザラでとても歩きにくい。風が強くて足場が悪いので、先ほどの大砂走りみたいにドシャードシャーと滑り降りる快適さはない。
火口の斜面を見ると、ゴジラの背中みたいなギザギザが至る所に出っ張っている。迫力がすごい。
写真に撮ってしまうとインパクトが薄れてしまうけれど、実際ナマで見ると圧巻だ。これは宝永火山にまで足を伸ばした人だけの特権。
13:58
火口といっても、マグマグツグツの大きな穴が開いているということはない。大きなくぼみがあるだけで、スケールが大きいせいもあって事前知識がないとここが火口だと気づかないくらいだ。枯れた池でもあったのかな?程度。
また、温泉の源泉地みたいに、シューと煙が出ていたり岩肌が黄色かったり白かったり茶色かったり、そういう賽の河原的な様子はまったくない。ただただ、砂だ。
そういえば、富士山がもし噴火したら、富士山の東側・・・つまり、山梨・神奈川・東京あたりが火山灰による甚大な影響を受けると聞いている。10センチじゃ済まないくらいの降灰になって、首都機能が麻痺するとかなんとか。確かにこの火口を見ると納得だ。溶岩がドローと出てきたり、火山岩がボンボン飛び散るのではなく、この火口みたいに細かい砂や岩が空中に吹き飛んだら麓は大変なことになる。
火口の底から富士宮ルート方面の火口縁に向かう道はえぐい角度で登っている。ここはつづら折れにしなかったんだな。最後にしんどい思いをすることになる。
なお、この宝永火山の周辺にはベンチもなにもない。休憩したけりゃ、地べたに座るしかない。
14:36
フウフウ言いながら火口縁まで登り返す。
富士山というのは「ひたすら登って山頂。その後ひたすら下って登山口」の山だと思っていたので、こういう登り返しがあるのは想定外だった。ああ、しんどい。足が地味に疲労物質だらけだ。
空はまたガスってきた。本当に富士山の天気は変わりやすい。
14:42
宝永第一火口縁、と標識がでている場所にたどり着いたときはすっかりガスまみれの周囲になっていた。
天気が良ければ、きっとここから火口の様子を見下ろすことができるのだろう。でも、見ての通り真っ白だ。
この標識、右に行っても左に行っても富士宮口五合目、という標識になっている。富士宮ルート六合目を経由して五合目に降りる方が所要時間が短い。一方、宝永火口の脇を下ってから五合目に向かうルートもある。
今回、天気がよくなかったので時間短縮のため六合目を目指した。でも、地図を見ると六合目ルートではなく、宝永山第二火口縁を経由したほうが楽しかったと思う。もちろん、見晴らしが良いことが前提になるけれど。
宝永の噴火口は3つあってそれが連なっている。第二火口縁に行けば、その連なりがよくわかるらしい。
正直言って、宝永第一火口は規模が大きすぎて、ちょっとピンとこなさすぎた。第二、第三のほうがより臨場感を感じられたかもしれない。
Googleマップの航空写真で宝永火口の南東方面を見ると、なにやら不穏な凸凹が見て取れる。3Dモードにしたり、東西南北をぐるぐる回転させながら見ると、このあたりの起伏は歩いて楽しそうだ。
機会があれば、富士宮五合目~宝永第一火口縁~宝永第二火口縁~水ヶ塚公園までのトレイル、というのをやってみたいものだ。山頂?富士山をまた登るのはもういい。いしは今でも「今度は子どもと3人で登りたい」と言っているけど、僕は自分のリソースをこれ以上富士山に割かないで、まだ登ったことがない日本百名山登頂に割り当てたい。
14:47
このあたりはすっかり木が生えている。御殿場ルートがひたすら大砂漠なのと大違いだ。
火口縁からも、まだ上りが続く。いしが疲れてぜえぜえ言っている。いやー、ルート設定ミスかなあ、ここで上りがあることは想定していなかっただけに、疲労感が強い。
14:55
富士宮ルート六合目、宝永山荘に戻ってきた。
こうやって改めて側面からこの山小屋をみると、えらく堂々として見える。標高が高いところにある山小屋は、風からも土砂崩れからも耐えられるよう、低く作られているからだ。それに比べてこの建物の日常感たるや。
自販機があるのも六合目だからこそ。
ちなみにポカリスウェットは300円。
富士山だからミネラルウォーターは「クリスタルガイザー」。富士山だというのに、わざわざカリフォルニア州の山麓で採取された水がここまで運び込まれている。
地図で現在地を確認。こうやって見ると、青色の富士宮ルートがずいぶん楽をしていて、緑色の御殿場ルートがえらく距離が長いことがはっきりと分かる。
そして、そんな富士宮ルートと御殿場ルートの間、つまり宝永山とその仲間たちがいるエリアには細かくトレッキングルートが刻まれていることを初めて知った。山頂を目指すことが目的じゃない!と開き直れれば、このあたりのトレッキングは面白そうだ。
(つづく)
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