島流し御赦免ツアー

[八丈八景No.6 藍ヶ江落雁 2005年05月02日 11:46]

看板

裏見が滝温泉から、つづら折れの道をぐいぐいと下がっていく。先ほど見た滝の流れが、海に流れ込んでいくのに沿って一気に高度を下げる。崖に囲まれた島ならではだ。

「つづら折れの道を急激に下がって海に向かう」という体験は今まであまりなかったので、ちょっとだけ新鮮な気持ちだ。海に行く、といったら、平らな砂浜か、それとも景勝地にあるような絶壁の上から海を見下ろすといったシチュエーションしか思い浮かばない。それが今回は、断崖とは言わないまでも、結構な高度差をともなって海へと降りていく。

観光地図を見ると、ここには藍ヶ江港という漁港があるようだ。よくもまあ、こんなところに港を造ろうとしたもんだ。

「驚くやら、・・・えーと、なんだっけ」

「驚くやら、呆れるやら、だ。いい加減覚えろ」

「にゃはは。チョーうけた」

「いや、ウケてない」

驚くと言えば、港のすぐ近くに藍ヶ江海水浴場がある、と地図には記載されていることだ。港(要するに水深がある)と海水浴場(浅瀬)が同居しているとは一体どういうことか。

われわれは好奇心をかきたてられつつ、現場へと向かった。

・・・いや、そんな大げさなモノじゃないんスけどね。でも、変な石碑とか見るより、よっぽどそそられるのは事実だ。

で、八丈八景の藍ヶ江落雁だが。

藍ヶ江は、その名が示すとおり群青を溶いたようなまつ青な海で、切り立った岩が、天然の良港を形成している。
目には見えないが、山際には水田も開けていて、詩情の湧くところである。
秋には雁も渡つてくる所として、八丈八景に選ばれている。

夕されば 吹く風寒さ 藍ヶ江の 苅り田をさして 落つるかりがね
近藤富蔵

なんだそうである。

「目には見えない山際の水田ってのは何だ?」

「馬鹿には見えないんじゃないか?」

藍ヶ江

藍ヶ江。

天然の良港ということだが、そうはいっても湾になっているわけでもなく、太平洋の荒波が容赦なく陸に向かってたたきつけてきている。人間ができることといったら、コンクリートで防波堤とテトラポットを作り、波から港を守るだけだ。

「・・・?で、海水浴場は?」

二人してきょろきょろしたが、どうやら港の奥にある石ころだらけの海岸線の事を差しているようだった。「海水浴場=砂浜」という先入観があるわれわれにとっては、すぐには理解ができなかった。

「えー。でもあれだと、ビーチパラソルささらないし、レジャーシート敷いて日光浴しようにもごつごつして痛いし」

島なのだから、ぜいたくを言ってはいかんのである。とはいっても、すぐ近くに「天然の良港」があるということは、このあたりは水深がすぐに深くなるのだろう。波打ち際から不用意に離れて泳ぐのはちょっと怖い。

先ほどの滝の流れ

先ほどの滝の流れは、漁港の脇で一気に海に流れ落ちていた。海直前でも急激な落差だ。

こんなところに港を造ってよく人が生息するなあ、と思うのだが、湯浜遺跡などのように昔からこのあたりは人が住んでいたのだから、住みやすいのだろう。われわれの感覚からすれば、島中央部の平野に住むのが一番楽ちんな気がするのだが、不思議だ。

恐らく、この島南部は、急峻な崖があるとはいえ水の確保に困らず、生活に最低限必要なものがそろいやすかったのだろう。

・・・と、しぶちょおとの二人の合議で決めた。八丈島の歴史を勝手に決めた。

巨大な防波堤

藍ヶ江港。ものすごい巨大なコンクリートブロックだ。

なんていうか、小さなビル1つ分くらいのサイズのブロックが、ずらりと並べられている。これを建造した人が、波に対して恐怖感を抱いていることがよくわかる。こんなコンクリートの塊って、放射性廃棄物を埋めるときくらいしか無いんじゃないか?

「あ!でも、これビジターセンターで見たぞ。台風の影響で防波堤のコンクリートブロックが一個まるごと飛んでしまいました、っていうやつ」

・・・言われてみれば、あったぞ、それ。そのパネル、写真撮影してたので覚えている。

「げえっ、あの塊が丸ごと吹き飛ばされたのかよ。信じられねぇ・・・」

「よく見ろ、一番左端のコンクリートブロックだけ、色が違う。後から修復したんだろう」

なるほど、確かにそうだ。新しい感じだ。

太平洋、恐るべし。われわれは薄ら寒い気持ちになりながら、恐怖から逃げるように現場を後にした。天気は随分と回復したが、急にがばっと高波が襲ってくるような恐怖感を覚えた。

[No.43 名号墓 2005年05月02日 11:55]

名号墓

藍ヶ江港からちょっと脇道に入ったところに、名号墓という名所があるようだ。「本当にこんなところにあるのか?」という、急斜面だらけの小さな集落を車で走らせたところに、それはあった。

「墓ねぇ。もう石碑とか墓とか、そういうのはおなかいっぱいなんですけど」

名号墓解説

写真でも解説文は読めるので、文章書き起こし省略。

「要するに、何だかわからないお墓ってことだな」

「それ、要しすぎ」

「長楽寺の住職、って昨日永見大蔵について教えてくれた、あの人か」

「へー」

とりあえずお祈り

「トビウオがいっぱい捕れますように」

とりあえずお祈りしておこう。別に自分たちがトビウオ漁をするわけではないのだが。

[番外編 TEPCO地熱館/地熱発電所/風力発電所 2005年05月02日 12:06]

地熱発電所

今日のお昼は、樫立集落にある「いそざきえん」という郷土料理屋に行くことにしていた。そのため、このままぐいぐいと観光名所をクリアしていき、樫立から遠ざかっていくのは効率が悪い。

時は既にお昼。とはいっても、すぐにお昼を食べたい気分でもない。もう少しこのあたりを満喫したい気分だ。

ということで、観光地図には記載されているものの、観光名所認定されていない東京電力の地熱発電所に行ってみることにした。

八丈島という孤島で、地熱発電というのがミスマッチでとても面白い。さすが温泉がでる島だけある。ただ、地熱だけではエネルギーが賄いきれないのか、風力発電も併設しているようだ。現地に到着してみると、なにやらごうんごうんと音がするのでよーく目をこらしてみると、霧の中で風力発電のプロペラが回っていた。(写真でも、僅かに風力発電の姿を見ることができます)

地熱館

発電所の傍らに地熱館はあった。

つくづく感心するのだが、電力会社というのはどうして発電所の脇にこういうのを作るのだろう。しかも結構なお金をかけて。自分たちの事業PRという点では理解できるのだが、それにしても投資対効果をどの程度で見積もっているのか、広報担当の人に聞いてみたいものだ。山奥のダムの傍らにも立派な施設があったりするし、この八丈島でも施設があるとは意外だった。

無人で運営してもいいんじゃないか、と思うのだが、必ずこういうところには受付の人が常駐している。暇でしょうがないんじゃないかと思うが、きっとそれなりに仕事があるんだろう。

受付で、へんなメダルを貰う。中で使う機会があるそうだ。

中に入ってみると、すでに先に入館していたしぶちょおが「うーむ」と唸っている。しぶちょおの居る場所に行ってみると、「地下の圧力を体感しよう」というコーナーだった。

メダルをはめこむ

どうやら、ここで先ほど貰ったメダルをはめこむらしい。

TEPCO八丈島地熱館、と書かれて八丈島の島影が描かれたメダルをはめこむ。

そして、ふたをしてスイッチオン。

傍らにある圧力メータがくいっと動く。どうやら、地熱発電で使っている蒸気の圧力をこっちまで引っ張り込んでいるようだ。で、その地下の圧力のすごさをぜひ体感してほしい、ということらしい。

ふたを開けてみたら、メダルが原型を留めずくちゃくちゃになっていたりするのだろうか。解説によると、10MPa(=100気圧)ということなのだが・・・

僅かに出っ張りができた

あれ。

何だか僅かに出っ張りができた程度なんでスけど。

「よく見ろ、八丈富士と三原山のところを出っ張らせたらしい」

「ああ・・・山を意識してるのね、これ。八丈島地図に立体感が出るということか」

「でも、微妙にずれちゃってるんだよ、このでっぱり」

「うーむ」

あ、なるほど、さっきのしぶちょおの「うーむ」はこのことだったのか。自分も思わずうなり声をあげてしまった。

地学のお勉強

その他、いろいろな展示物を見て、地学のお勉強。

「いやー今日は勉強だなあ。午前中で二つの施設で勉強しちゃったよ」

悪口言われまくりの観光名所巡りではあるが、歴史、民俗、科学技術、風景、文学、登山、グルメとあらゆるジャンルを包含していて、なかなかに楽しいのである。

でんこちゃん

入口のところででんこちゃんを発見。最後の記念撮影はでんこちゃんと一緒に、と思ってゴソゴソを向きをいじっていたら、職員さんが出てきて「せっかくだから日付の入ったパネルも一緒に」なんて気をきかせてくれた。

「あ、いや、そんな大層な写真を撮ろうとしているわけじゃないんスけどねあはは」

なんて急に恥ずかしくなってしまいつつも、そそくさと写真撮影。

「なあしぶちょおよ」

「なんだ?」

「でんこちゃんって、あれ、等身大か?」

「だとしたら相当小さいな、身長120cmくらいしかないんじゃないか?」

「顔が童顔だけど、体も幼いんだな」

多分違うと思う。

[No.45 梅辻規清墓 2005年05月02日 12:55]

梅辻規清墓を目指す

本日の午前の部最後は、地熱館から島周回道路に戻る途中にある梅辻ナントカさんのお墓参り。これが終われば、お昼ご飯だ。早く終わらせたいところだ。ビールビール、ビールが待っている。

墓ということでちょっとイヤな予感はしたのだが、案の定見つからない。いい加減な地図を片手に、中之郷小学校近辺をぐるんぐるん探して回った。危ない、このままだと溶けてバターになってしまいそうだ。

何しろ相手はお墓だ。そんなもの、1坪も必要としない。民家の裏庭にあってもいいし、道路脇の空き地にひょっこりあってもおかしくない。

何度探しても見つからないので、いい加減諦めムードになってきた。昨日、永見大蔵という実在しない観光名所があったということもあるし。われわれが単に発見できていないだけなのか、それとも地図が間違っているのか、それとも現在は実存しないのか。わからん。

捜索範囲を、地図上にプロットされている場所からは明らかに違うところまで拡大して調べてみることにした。さすがに、ここで発見できないとお昼ご飯も美味くない。

すると・・・あった。墓地があり、そこには↑梅辻規清墓、の表示が。なんでぇ、やっぱり地図が違っているんじゃん。

梅辻規清墓

「頻繁に場所が移動になっていて、地図が最新化されていないだけなのかもしれない」

「お墓に限ってそれはあり得ないと思う」

探し求めた梅辻くんの墓はこれ。さすがに周囲のお墓と比べて、古く風化している。しかし、きれいな花が添えられており、現在においても篤く敬われていることがわかる。

墓地

この人、幕末に神道を推進して儒教をけなした上に、勤王派だったということで幕府に目をつけられ、島流しになったそうだ。思想犯ということだ。それくらいで島流しかと思うと、怖いモノがある。

しかし、そういう思想犯(=知識豊富)な人がたくさん流人としてやってきたからこそ、八丈島文化が栄えたというのだからこれはこれで面白い。

[番外編 いそざきえん 2005年05月02日 13:07]

いそざきえん看板

さあお昼ご飯だ。

われわれは素朴な民宿に宿泊しており、観光旅館に宿泊しているわけではない。だから、朝晩の食事が「地のモノ尽くし」的な、いかにも観光客が喜ぶ料理が並ぶわけではない。と、いうわけで、郷土料理を楽しもうと思ったらお昼に限る。さあ、今回は樫立にある「いそざきえん」に行こう。ここは、「御赦免料理」と呼ばれる郷土料理を食べることができるという。

御赦免とは、その名の通り、島流しを免じられ、江戸に戻ることが許されること。そのお祝いに食べた料理だという。快気祝い、出所祝いのお食事、といったところだ。

いそざきえん玄関

観光ガイドブックによると、築100年以上は経つ建物らしい。何やら味わいがある。

通されたお座敷

通されたお座敷は、なぜか夫婦、カップルといった男女ペアばかり。僕らだけですか男同士というのは。

熱い友情を再確認した次第。

このお座敷の変なところは、壁側が石垣になっているというところ。しかもその石垣に草が生えている。一体何でこうなってしまったのか、謎。増築した建物っぽいので、石垣がある山際のところに無理矢理建物を建てたのだろうか。

いそざきえんお品書き

お品書きは、和紙に毛筆で記されていた。

「いそざきえん」というひらがなの店名が、何だか脱力感を伴っていてほのぼのしている。なかなか興味深いメニューなので、列記してみる。

黒潮料理 1,575円
さしみ、あしたばこんにゃく、海苔、煮物、ぞうすい、漬物(二年漬)

寿料理(二名様より) 2,625円
黒潮料理、姿づくり又は塩釜

しよめ料理(二名様より) 3,675円
黒潮料理、姿づくり、塩釜

御赦免料理(二名様より) 5,250円より
しよめ料理、魚の揚げもの

伊勢海老 時価
塩釜 2,100円より
姿づくり 2,625円より
さしみ(一人前) 1,675円
あしたば料理(要予約) 時価
磯焼 840円
島づくし(要予約) 1,500円より
磯汁 525円
むろあじ酎干し 525円より

ビール(大) 730円
日本酒(一合) 420円
冷酒(一本) 630円
島酒(一合) 420円
ジュース類 210円
果実酒(自家製) 520円
パッションジュース(自家製) 520円

御赦免料理を食べるぞー、と意気込んではいたものの、5,250円という料金設定にはちょっとびびった。まあ、僕の場合こういうところでお金を惜しまない散財癖があるのでいいとしても、しぶちょおにとってはキツかろう。今回、わざわざ名古屋から新幹線で出てきているし、羽田で前泊しているし。

「ええと、あの、寿料理を」

黒潮料理、という一番安い料理にしなかっただけ、ちょっと頑張ったと言えるかもしれん。それでもお昼ご飯で2,625円ってアンタ。しかし、しぶちょおから後で「何で御赦免料理にせんかったん?」と言われ、あれっ、しぶちょおは御赦免料理で行くつもりだったんかい、とびっくりしてしまった。

「まあ、御赦免されてお祝いって事で寿料理をね」

とまあ、適当な回答を返しておく。

塩釜にしますか、姿づくりにしますか、と聞かれ、しばらく逡巡したが、姿づくりをセレクト。ではよろしくお願いします。

ああっ、忘れていた。ビール。ビールも持ってきてください。

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