実りの大地【北海道ハタケ仕事3】

支笏湖にどうしても行きたかったというわけじゃない。新千歳空港からさほど遠くない場所で、スッと行ってスッと帰ってこられる観光地って何かないだろうか?と探していた時に見つけたものだ。何かスゲえ施設があったり、グルメがあったりするわけではない。

地図を見ると、新千歳空港の南側に大きな湖があることに気がつく。それが支笏湖。ああ、ちょうどいいじゃないか、湖畔に行けば何かお得感というか、観光した!って気になるじゃないか。・・・その程度で決めた行き先だ。

「とりあえず海を目指そう」と苫小牧に行っても良いのだが、マメヒコの井川さん曰く「苫小牧には何もない」という。また、ハタケの近くには「ノーザンホースパーク」という観光施設があるようだが、うかつにハタケに近いと、明日の午前などに全員で行こう!なんて展開になったときに困る。ハタケに近すぎても、遠すぎても困るわけだ。その点、支笏湖はちょうど良かった。予測不能のマメヒコ側の行動であっても、さすがに明日午前に「支笏湖に観光に行こうぜ」という話にはなるまい。

支笏湖のにぎわい

10:41
地図で見れば空港からすぐそば、の支笏(しこつ)湖だが、恐るべき北の大地だけあって実際に車を走らせるとそれなりに時間がかかる。地図の縮尺概念が、本州と全く異なることから発生する「錯覚」だ。なんやかやで、空港でみんなが集結してから、支笏湖畔まで小一時間を要した。

ドライブは、ハンドルを握る立場としてすごく楽しかった。ワクワクがとまらなかった。見慣れない北の大地をドライブしてる!これまで住んだり行動しているエリアと明らかに違う!というのがビシビシ風景から伝わってくるからだ。支笏湖はカルデラ湖なので、山の上に向けて登っていくのだが、ちょっと登ればすぐに植生が弱々しくなっていく。日本とは気候が違うんだな、ということがそのことからもわかる。

過去2回、ハタケ遠足に訪れた際にもハンドルを握っていた。しかしハタケ周辺は屯田兵のみなさまによって完全に開拓されており、一面の畑なのだった。せいぜい、防風林が所々にある程度だ。ハタケもしくは林、という光景はとても人工的であり、それはそれで北海道の一風景ではあるものの「自然を満喫してます感」というのはあまり感じなかった。

そんな中での今回の大自然ドライブ。ワクワクしてしまったのは当然だ。

「すげえ!僕ら、3回目の北海道でようやく観光している気がする!」

興奮のあまり思わず口走る。そりゃそうだ、これまではひたすらハタケ仕事なんだから。

井川さんからすれば、「当たり前だろう、北海道に何しにきたんだ?ハタケ仕事でしょ?観光は別の時に好きなだけ時間をとってやればいいじゃない」ということなんだろう。実際その通りだと思う。しかし小市民おかでん、「折角北海道に(ハタケ仕事で)行くのだから、あわよくば観光も織り込みたい」と思うのは仕方がないところで。

今思えば、ハタケ遠足の前後1日くらいに有給休暇を組み込んで、もう一泊ゆっくりと過ごしても良かったと思う。そうしたら観光も楽しめただろう。しかし、たった一人で北海道に放り投げ出されて、ボクは一体何をすればいいの?というのも事実だ。

ハタケ遠足のご一行様は、ハタケとは完全に逆方向・逆コンセプトの支笏湖畔に到着でございます。てっきり、がらんとした、湖畔の展望台くらいしかない場所だと思ったのに駐車場脇は土産物屋がずらりと軒を連ねる一大観光地になっていた。すいません、完全にみくびってました。

そもそもここには活火山があることもあり、支笏湖温泉がある。温泉泊、というだけでもここを訪れる価値があるということなのだろう。

車中、すっかり観光気分になって浮かれていた我々は、「そういえばみんなって北海道みやげをどうしてる?」という話題で盛り上がっていた。

「シャケを口にくわえた木彫りの熊って、そういえば新千歳空港で売ってたっけ?」
「見てない」

みんな一同に首を横に振る。いや、あれだけ広い敷地に、何十店舗と土産物屋があるのだ。売っていないはずはない。たとえもう「ブームが去った」土産物だとはいえ、完全に消滅しているはずはないからだ。きっと、もう僕らの眼中に入らないくらい、僕ら自身が「木彫り人形」には興味を持っていないんだと思う。時代は変わった。昔はどこの家庭にでもあったものだ。

「大抵、玄関先の下駄箱の上に置いてあったよね」
「あれ、なんでだろう?床の間とか、テレビ台のところに置いていてもいいのに」
「一説によると、あの木彫りの熊が朝横倒しになっていたら、『今晩OK』という奥さんからのサインだとかなんとか」
「えー、うそー?なんでおかでんそんなの知ってるの?」

いや、なんでといわれても。いざ聞かれると、答えに窮する。

そんな話も既に都市伝説化しつつあるような気がする。部屋に、旅先のペナントをべたべたと貼るという人も減ったし、こけしをずらりとテレビ台に並べる人も少なくなったはずだ。そういう「モノ」よりも、今じゃ地元特産品の食べ物でも買って帰った方がよっぽどお土産として楽しい、という雰囲気だ。

そんな話をしながら到着したのが、支笏湖畔。支笏湖温泉があったり、ビジターセンターがあったりする場所で、ちょっと栄えていた。・・・いや、かなり栄えているぞ。土産物屋がずらずらと湖岸まで連なっている。しかも場末感漂う土産物屋ではなく、結構活気があるっぽい。

「すげー!これぞ観光じゃないか!信じられるか?僕ら、今観光してるぞ北海道で」
「そうだねえ、これまで全く観光らしい観光ってしてこなかったしねえ」
「菊地珈琲には行ったけど・・・あれは観光、じゃないよね」
「なにしろ、空港からハタケ直行だもんね。すこしくらいこうやって観光したいよね」

みんなそれなりに喜んでいる。あ、やっぱり全員「ハタケ仕事万歳!ハタケのために北海道に来たんだから、観光なんてもってのほか!」という委員長タイプの堅物じゃないんだな。

ところで、喜び勇んで駐車場最寄りのお土産物屋さんを眺めてみたら、その店頭にまさに「木彫りの熊」が置いてあったので大笑いしてしまった。あ、やっぱりあるところにはあるんだな。

「一体いくらするんだろう?」
「3,500円だって」
「うわ!やっぱり高い!」

なお、小さいのが3,500円であり、大きくなると20,000円というものもあった。そりゃ手間がかかるものだからそれくらいするのは納得だが、欲しいかと言われるといらん。

支笏湖1

湖畔に出てみた。

「うっわ!なんだこれ!」

当初、なんのことはない普通の湖だと思っていた。だから、「とりあえず湖畔にやってきました。記念写真を撮影しました。以上おしまい。じゃあ次のところへ。」という展開になるのだとばかり思っていたのだが、いやいや、この支笏湖はなんだか不思議な、別世界の湖だぞ。

カルデラ湖だからというのもあるだろうが、神秘的でとても不思議な雰囲気を身に纏っている。ここに何かの神様が住んでいたとしても、何らおかしくない。

「お前が落としたのは金の斧か銀の斧か」という神様がいたのは、実はこの支笏湖だったんやー!あの話はイソップ童話ではなく、アイヌ伝承だったんやー!と言われても信じてしまいそうだ。

支笏湖2

今日は風が強く、まるで海のように湖面が波打っていた。水はものすごく透明で、はっとさせられる。

「あれっ?」と感じた違和感は、まさにこの透明度なのだろう。カルデラ湖なので水が濁る要素がないのだろう。後で知ったが、田沢湖に次いで透明度が高い湖なんだそうだ。

さらに言うと、ものすごく深い湖なので、湖として保持している水の量は琵琶湖に次いで日本二位なんだと。すげー。知らなかった!

支笏湖3

もうね、山容に釘付けですよ。怪しい、怪しすぎる。

俗にまみれたスワンボートはこの地でも健在だが、その奥に見える山の形がいびつで興味深い。右側の山は「風不死(ふっぷし)岳」という名前で、その名前だけでご飯三膳はいける。これもアイヌ語に漢字を当てはめたものだとは思うが、風は死なない!という漢字は強い。確かに、山にすっぽりと囲まれているはずのこの支笏湖畔でさえ、かなり風が吹いているので、山の上だと強風だと思う。

そして何よりも風不死岳の左。なんだありゃあ。ぼこっと、台形のでっぱりがある。本州あたりだったら、「天狗の踊り場」みたいな名前が付きそうな、怪しいシルエット。火山がなせる技だ。これは「樽前山」(標高1,041m)と呼ばれている。

湖畔から見て魅力まみれの山で、今すぐにでも車の同乗者たちをほっぽり出して登りにいきたいくらいの気持ちにさせられた。山を見上げただけでそんな気持ちになったのは、ほぼない。それくらい、心に突き刺さる山だった。

帰京後、あらためて樽前山をGoogle画像検索してみたら、びびって腰が抜けそうになった。すげええええ、日本の山でこんな日本離れした景色って存在するのか!と。まるで宇宙のどこか惑星のようだ。煙をふくドーム、荒涼とした大地。そして遙か向こうに支笏湖。

いずれこれは登りにいくしかあるまい。そう決心した。幸い、新千歳空港から近いので、交通の便は良い山だ。

ダイビングができるとは

ダイビングもやっている湖なんだな。びっくりした。でも、夏でも相当寒そうだ・・・。カルデラ湖だし、いっきに水深が深くなりそうだ。

湖底には、立ち枯れになった木が水没したまま残っていて、ここで溺死した人はその木に引っかかってしまい、二度と浮かんでくることはない・・・ということから「死骨(しこつ)湖」と呼ばれ、それが転じて「支笏湖」になったという説もあったらしい。もちろんそんな縁起のわりー名前をそのまま現世に残すなんてことはあり得なく、後からでっち上げた俗説だけど。ここもアイヌさんたちのテリトリーだったので、アイヌ語で「大きな窪地」を意味する言葉に漢字を当てはめたものらしい。



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