15:30
水場から、馬ノ背ヒュッテを眺めたところ。建物左側、せり出した場所玄関がある。
建物を上から見たらL字型で、横から見たら4階層あることがわかる。
そして別の横から見たら、建物の形は将棋の駒みたいに天井に向けて幅が狭まっていっていることがわかる。不思議な作りだ。
だからどうした、と言われればそれまでだけど、こういう極地の建物というのは制約や条件があってこそこういう作りになっているはずだ。それが一体なんなのか、考えながら時間を過ごすのが楽しい。どうせ暇なんだし。
15:28
水場すぐ脇にあるベンチ。
さすが「南アルプスの女王」の呼び声高い仙丈ヶ岳だ、山並みが緩やかで雄大に広がっている。そして、うっかり洗濯機で脱水と乾燥をやりすぎたシャツのシワみたいな、ゴチャゴチャした山が周囲にない。
晴れていればかなり眺めがよい、開放的な空間なのだろう。今日は完全にガスっていて、あまり視野がよくない。
女王様だけあって、下々にはそのお姿を見せないということか。くっそう、こんなところに身分の格差がッ!
15:28
馬ノ背ヒュッテのトイレ。
屋外にあるので、夜はヘッドライト持参でトイレに行くことになる。足元注意だ。もっとも、「屋外だから足元注意」というのはちょっと違う。というのは、狭い山小屋においては人々が密集して寝ている。しかも真っ暗な中で。うっかり他の人を踏みつけないよう、布団から這い出たところから細心の注意が必要だ。
寝ぼけていて、うっかり足元がふらついたら最悪だ。二歩・三歩ヨタヨタっとした瞬間、誰かの頭か足にあたってしまう。
歳を取ってからの登山は大変だな、と思うのはこういうシチュエーションだ。山に登るだけの体力も必要だけど、寝起き早々、平衡感覚を保ちながら歩く試練もある。それができないなら、山小屋泊はしちゃダメだ。
それはともかく、この屋外トイレは個室が4つ用意されている。
一番左が男性専用。真ん中2つが男女兼用。そして一番右が女性専用となっていた。しかし、男女兼用の個室1つは故障のためか使用禁止になっていて、使えなくなっていた。
宿泊定員100名に対してトイレ4つ。なんだ、余裕じゃないかと思うかもしれないが、みんなトイレに行きたい時間というのはある程度固まっている。並ぶことを覚悟で、便意を催したら早め早めにトイレにいくように心がけないといけない。面倒がって、オシッコが漏れそうなギリギリまで粘るなんて何も良いことはない。
あと、山でウンコするのはやめよう。生理現象だから無理っぽいけど、それが社会生活を営むエレガントな生き様というものだ。・・・マジか?
なお、宿泊客は当然利用が無料だけど、通り過ぎるだけの人の場合、1回あたり200円のお支払いとなる。お金を投入するための赤いポストが用意されていた。
遠い未来は、こういうのもぜんぶ電子マネーとかQRコード決済になるのだろうか?いや、無理だな、少なくともあと10年後程度じゃ、そうはならない。(小屋利用料の精算や売店での買い物の精算がキャッシュレス化するかもしれないけれど、トイレ料金がキャッシュレス化するとは思えない)
小屋入り口近くには、水が張られたたらいが置いてあって、そこにはペットボトルのジュースやお茶、缶ビールなどが入っていた。
山小屋の受付脇には、そんな飲み物のサンプルが並んでいる。なかなかに面白いラインナップで、「あれっ?」と思う。普通の山小屋なら、ビールは一種類だ。ときどき気が利いていて複数の銘柄を置いているところがあるけれど、だとしてもオーソドックスな銘柄に限る。
それがここはどうだ、アサヒスーパードライ、キリン一番搾り信州に乾杯、秋味、水曜日のネコ。ビールだけでも4種類ある。
そして、「ほろ酔い」が2種類あって、角ハイボールもある。
ライトに酔いたい人からガチ酔いしたい人まで、缶のアルコール飲料がいたれりつくせりだ。しつまみ類だっておいてある。早く小屋に到着しちゃったら、ここで飲んでぼんやり時間を過ごすとさぞや心地よいだろう。
おっ!さりげなく、ワインボトルの横にノンアルコールビールの「零一(ぜろいち)」が置いてあったぞ。へー、最近の山小屋はついにノンアルコールビールを置くようになったのか。感慨深いなあ。
さっきからお酒関係の写真だらけだ。
こっちは、大ジョッキがずらりと並んでいる。いいねえ、生ビールをやってるぞ、この山小屋。しかも、大ジョッキ900円中ジョッキ600円と二通りのサイズがある。
「みなさんの体調や飲みたい気持ちにあわせて、好きなだけ飲んでいってくださいね!」という山小屋側の声が聞こえてくるようだ。
この生ビールは藪沢にある雪渓から氷を削りとり、それをサーバーの中に入れて冷やしているそうだ。こりゃまた乙なものだな。天然の氷で冷やされたビール。
おつまみは、
枝豆、酒蔵の粕汁、さば缶、おでん、〆のペヤングというラインナップ。緩急織り交ぜた面白いラインナップだ。ペヤングも酒のつまみか。
この山小屋のご主人の酒好きがよくわかる。酒の種類が豊富なだけでなく、酒粕まで手に入れてそれで粕汁を作るだなんて。
もちろん、清酒だって置いてあるよ。
どぶろく、千功成、一瓢、白馬錦、山女、黒松仙醸。
といったお酒が置いてある。
そうか、今更だけど、川魚の「ヤマメ」って、「山女」って書くんだよな。山の女か。良い名前だな。
17:09
食道の脇はストーブがカンカンに焚かれていた。
雨が降ってるせいもあって気温はかなり低い。ストーブの存在はずいぶんとありがたかった。この食堂を出て、階段がある廊下に出ると、屋内であってもかなり寒かった。
ストーブの脇に水タンクが置いてある。
水とお湯は500ml50円、1リットル100円で売られていた。
山小屋によっては、「宿泊客は無料だけど、外来の人は有料」とするところがあるけれど、ここは誰でも有料となっていた。
それもその筈、屋外の水場で汲める水は煮沸が必要なものだ。ストーブの上に置いてある大きなやかんは、ひっきりなしにお湯を沸かし、それを冷まして飲料水を作っているのだろう。
「ストーブの付近には立たないで下さい」という事が書いてある。小学生に対する注意書きのようだが、こういう注意書きがなければ、実際にストーブ前に立って暖をとりたい気温だ。そして、濡れた服を乾かすためにもストーブ前でグルグルと360度回転したい気分だ。
(つづく)
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