14:11
沢はだんだん水量を減らし、わずかばかりの水量になってきた。
この上流に「藪沢小屋」という名前の建物があるから、おそらくこの沢の名前は「藪沢」なのだろう。
秋になると雪解け水が底を尽くので、沢水は少なくなる。
でも沢は、水が流れているギリギリのところまで草が茂っている。雪解け後は比較的安定した水量なのだろう。この沢の源流は、仙丈ヶ岳山頂直下のカールということになる。
14:15
谷底から谷の上を見上げたところ、
濃い緑の針葉樹林と色づき始めた紅葉樹林が入り混じっていて、美しい。
そして、手前の木々は全ての葉を落とし、既に冬の装いになっている。
14:32
水流はか細くなり、登山道は水のすぐ脇を通っている。
沢といえばジメジメして、湿気から草木が生い茂り視界が悪く、アップダウンが激しいことがおおい。しかし、ここは開放感があって心地よい空間だ。雨さえ降ってなければ、もっと楽しい山歩きになるだろう。
ちなみに、写真だとさほど傾斜がない緩やかな道に見えるけど、実際は結構きつい坂だ。一歩一歩ゆっくりと歩いていく。
14:36
ふと背後を振り向いてみる。これまで歩いてきた沢と、その奥にちょうどいいアングルで甲斐駒ケ岳の荒々しい岩山が見えた。なんてぇ素敵な景色!
ちょうど雲が晴れてきたというのもナイス。
標高が高い山に登ってる感がビシビシ伝わってきて、楽しい。
それにしてもなんだあの甲斐駒ケ岳。小淵沢側から見えている美しいシルエットと違い、仙丈ヶ岳側から見るとやたらといかめしいじゃないか。まるで山が怒っているかのようだ。
「うわ、怖い山だな」とその外見を見て感じたのは、剱岳以来だ。
槍ヶ岳のてっぺんは「おお、これがあの『槍の穂先』か!」という感慨の方が強く、山の無骨さにビビるということはなかった。でも今回はちょっとビビった。
14:47
ついに登山道らしき道はなくなり、もはや岩に赤いペンキ書き込まれた矢印をたよりに前に進んでいく。
わかるかなあ、地味に傾斜がきついぞ。でも道はできるだけジグザグせずに標高を稼いでいく。きっついけど、これだけ見晴らしがいいなら許す。
山の標高以上に高い場所はないんだ。どうせ登らなくちゃいけないなら、アップダウンを繰り返して疲労を蓄積させられるより、ぐいっと登っちまった方が楽だ。
14:52
このあたりの木は、もう息も絶え絶え感がある幹の太さだ。そんなに無理しないで、もう少し標高の低いところでのんびりと育てばいいのに・・・と思うけれど、そこじゃ生存できないからわざわざここまでやってきているのだろう。
山の斜面からにょきっと水平に幹が出て、そこからハッと我にかえって重力に逆らうように垂直に生えている。この90度ターンにはどういう心境の変化があったのだろう。標高の高い木だから生育は遅い。何年もかかって、「おい、このまま水平に育つとまずくね?」と気づいて軌道修正したのだろう。
すっかり寒々しい景色になってきた。北沢峠から登山開始わずか1時間。こんな短時間でぐるぐると景色がかわっていくので、飽きさせない。
おっと、そんな裸の木々の隙間から、なにやら登山道らしきものが見える。左手からこちらの道に合流するルートだ。
14:53
正解だった。
分岐を示す看板が目の前に現れた。
右に向かうと「馬ノ背ヒュッテ・仙丈小屋・仙丈ケ岳」。
そして左に向かうと「大滝の頭(5合目)・北沢峠」
と書かれていた。
藪沢小屋への道との分岐でもある。
この分岐が現れた、ということは、馬ノ背ヒュッテはあともう少し。よーしよーし、本日の宿までカウントダウン開始だ。
そういえばこの案内標識の裏側に、黒いホースが見える。馬ノ背ヒュッテのための取水場になっているのだろう。
14:56
ここから急に沢を逸れ、急斜面を一気に登る。これまであんなに親しく連れ添っていた沢なのに、まるで興味を失ってしまったかのようだ。
14:58
標高を一気に稼いだところで、登山道は向きを変え水平移動になる。
このあたりは登山道沿いに防獣ネットが張り巡らされている。呆れた、標高2,600メートル近くなのに、自然を荒らす害獣が出るのか。温暖化の影響だろうか。
15:00
15時ちょうど、霧の中から人工建造物が見えてきた。本日のお宿、馬ノ背ヒュッテだ。
山小屋のシルエットが見えてくるといつも思うこと、それは「あれっ、小さいぞ」ということ。もちろん北アルプスの人気山域にいけば、巨大な山小屋はある。でも、そういう例外を除くと大抵は思っていたよりはるかに小さい。
特に、山行の計画を立てる際に山小屋の収容人数を一応チェックしているので、「えっ、あれっ?」と目を白黒させることになる。
ちなみにこの馬ノ背ヒュッテ、公式のスペックは「収容人数100人」だ。遠くから見ると、一軒家のようなサイズ感に見えるけれど(さすがにそれは大げさだけど)、今晩は寝苦しい熱い夜が展開されるのだろうか?
(つづく)
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