08:20
この時間になると、下界からどんどん人が登ってくる。日曜日の朝だというのに、なんてぇ人の数だ。
ああそうか、この時間に登ってくる人というのは、仙丈ヶ岳を日帰りで踏破しようとしているんだな。夕方には北沢峠まで下りて、そこからバスに乗って帰るのだろう。
この人たちは、朝、北沢峠に到着したバスに乗っていたのだろう。山小屋泊だとしたら、もっとバラバラに登ってくるはずだ。
登山道はここから北沢峠に向けて急降下だ。峠までの道が見晴らしがよいというのが、気持ちいい。
08:24
今まで歩いてきたところを振り返ってみた。
このあたりはハイマツがびっしりと山肌を覆っていて、まるで美しく管理された日本庭園の苔のようだ。
小仙丈ヶ岳に向けて、人が鈴なりになっている。改めて、なんてぇ大勢の人が登ってるんだ。朝8時に、こんな山奥だぞ?
08:25
この辺りになるとハイマツが登山道を覆うように生えていて、足元の視界が悪い。
これだけハイマツが多く生えているのだから、雷鳥も住みやすいだろう。さすがにこれだけガツンと晴れると、いくら警戒心が薄い雷鳥とはいえ、人前にノコノコとは出てこない。今回は残念だけど会うことはできなかった。
08:26
6合目に到着。
登ってきた人は一様に息が荒い。ぜえぜえ言いながら、ここで一息ついている。どうやら、ここまでとここからとでは山の様子が変わるようだ。
6合目だからといって、侮るなかれ。稜線上にある場所で、視界は完全に開けている。北沢峠から登ってきた人は、「ひゃー」などと言ってこの眺望の良さを喜んでいた。
そんな人のなかのひとりに、「あそこに見えるのが仙丈ヶ岳のてっぺんですか?」と僕が歩いてきたところを指さして問われた。いえ、仙丈ヶ岳どころか、小仙丈ヶ岳でさえないです。そういうことをやんわりと伝えたら、残念そうな顔をしていた。
そうだよな、樹林帯を歩いてきて、ここでばーんと視界が開けるんだ。もう山頂は目と鼻の先、くらいに思ってしまう。
08:34
6合目を境に、ここから北沢峠までは樹林帯となる。
急にガツンと木が生えてくるので、「おい、どうした?一体なにがあった?」と声をかける。植物にとって、暮らしやすい環境というのはちょっとした差なのだろう。
樹林の幹が太くなるのは、一歩一歩無事に下界に降りてきている証拠。
喜ばしいことなのだけど、これまでの絶景が見えなくなったので残念だ。
木々が生えていない、岩場
↓
樹林帯
↓
コンクリートとアスファルトの街
と、この山歩きは木がない場所、ある場所、そしてまた木がない場所と移り変わっていく。
当初予定では、北沢峠を13時30分に出るバスに乗ればいいやと思っていた。
しかし、このペースだと9時45分北沢峠発のバスに間に合いそうな感じになってきた。
急いで下山したからといって何かいいことがあるわけではないけれど、ギリギリ乗れそうなら乗っちゃおう、という気持ちになるのが人の気持ちというものだ。いかんな、発想が都会における通勤電車的発想だ。全然思考回路が大自然にシフトできていない。
ついペースが上がる。
08:41
前方に、人が大勢いる。
何の変哲もないところに、人がたくさんいるということはありえない。たとえ「おっ、ここは休むのにイイカンジの平地やんけ!」だったとしても。ましてや、樹林帯の中ならなおさらだ。
ということは、あそこが水場か、それとも五合目かのどっちかだ。
男性が立ち小便をするとき、つい木や電柱といった「なにかの目印」を探すように、人は休むときに何らかの口実が欲しい。「●合目」なんていうのは、格好の休憩ポイントだ。
08:42
案の定、人混みの中に突入してみると、そこは5合目だった。別名、「大滝頭」。標高2,519メートル。
ここで分岐があって、藪沢小屋を経由して馬ノ背ヒュッテに向かうことができる。
そういえば大滝って聞いたことがあるな、と思ったら、昨日登山道が崩落のため通行止めになっていた場所だ。藪沢大滝というのが正式名称だけど、その大滝があるところの一番登りつめたところがここ、ということなのだろう。
ここから藪沢小屋まで50分、馬ノ背ヒュッテまでさらに15分。
でも、馬ノ背方面に向かう人は一人もいなかった。ここにいる人たちは、僕がたどったコースと逆の、時計回りでぐるっとカールを回っていく道を選んでいるのだろう。
08:56
4合目到着。
「●合目」というのは、山によってはまったく信憑性がない。お前これ適当にナンバリングしただろ?という山は、確実にある。
それはともかく、こうやって目印が山の途中にあると励みになるのは間違いない。上りのときは、「まだここまでしか進んでいないのか・・・」という絶望の象徴となるけれど、下りのときは軽快に進んでいる象徴となる。
(つづく)
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