
12:25
山頂に到着した。
山頂には小さな祠があった。後で調べてみると「奥白根神社」という神社らしい。
ロープウェイ駅の近くにあったのは「二荒山神社」だったので、それとは違う神社の名前だ。しかし大元は同じ神様を祀っているものだろう。
日光白根山の東側に前白根山という山があるのだが、そこには「前白根神社」が山頂にあるそうだ。
日光湯元温泉から日光白根山山頂を目指した場合、前白根山を経由して登ることになる。しかし我々は反対側の群馬県丸沼高原から登山を開始したので、前白根山はまだその姿を確認していない。

12:26
不思議なのがこの祠の周りには人が密集していないということだ。
山頂がゴツゴツした岩場なので、ゆっくりと休憩できる場所はない。なので皆さんは周辺の少しでも平らな場所・くつろげる場所を選んで休憩をしている。
とはいえ、普通山頂であれば記念写真をとったり、遅れてやってくる仲間を待っていたりするので、人は滞留するものだ。その人たちの姿が見当たらない。
おかしいな?と思って周囲を見渡すと、自分たちがいる岩峰とは別の岩峰のてっぺんに人だかりができているのを発見した。んー、どうやらあちらの方が標高が高そうだ。つまり、今僕らがいるところは山頂ではなかった、ということだ。
危ない!うっかりここを山頂と勘違いして、大満足してしまうところだった。
登山客が少ない平日で、なおかつ周囲がガスって視界が悪かったら、「おかしいな?山頂の標識が見当たらないけれど・・・でも、ここが山頂なんだろうな」と強引に自分を納得させて下山したかもしれない。あぶねー。山頂間際でリタイアじゃん。

12:28
ここまでの登頂でみんなかなり疲れているのだが、山頂にたどり着くまでもう少しの努力が必要だ。一旦崖を下り、そしてまた山頂がある岩峰に登り直すことになる。
そういえばロープウェイ駅からこの山を見上げた時、漢字の「山」の字のようにピークが三つあったっけ。日光白根山の山頂はその真ん中に位置している。だから、我々は今いる祠のあるピークから下って、もう一度登り直しをすることになるわけだ。

12:29
最後の登り。仲間たちに「がんばれがんばれ、今度こそ最後だ」と声をかけながら登っていく。
もう山頂に着いたと思って一瞬気を抜いた人にとって、この登りはきつい。
しかも山頂直前ということもあって、登山道を整備した人は「あともう一息なんだから一気に登ってしまえよ」とばかりにほぼ直登ルートを用意してくれていた。
これを最後の最後に登るのは肉体的にも心肺能力的にも大変だ。

12:31
そんな最後の試練を乗り越えたところにあるのが、日光白根山山頂。標高2,578メートル。
今度こそ山頂の標識が見えた。
溶岩ドームによって成り立っている山頂のため、岩がゴツゴツとしている。そしてその岩の隙間があちこちにバックリと開いているので、目の前に山頂標識があってもすぐにそこにたどり着けない。
迷路、というと大げさだけど、岩を迂回したりよじ登ったりしながら山頂を目指すことになる。
手前に日光白根山の標識が見えるが、人だかりができているのはその奥にある別の標識だった。
確かに僕の標識の方が標高が高そうだ。
やはり登山をしたからには、山頂付近に到着すれば OK なのではなく、山頂の中の山頂・これ以上高いところはない!というところにたどり着きたいものだ。なのでその標識を目指す。

12:33
先ほどの写真の奥に見えた標識がこれ。
白根山、と書かれている。
「日光白根山」と表記されていたり「白根山」と表記されていたり記述に統一性がない。
ちなみに何故あえて「日光」白根山という言い方をするのかというと、これとは別に「草津白根山」という山があるからだ。
こちらも火山で、何年か前に噴火しその際に何名かがお亡くなりになるという痛ましい事故があった。
草津白根山も日本百名山の一つで、僕ははるか昔に登ったことがある。
百名山に限ったことではないが、日本は火山が多い。なので「登れるうちに登っておいた方が良い山」というのは案外多い。
今、火山活動がなくても来年とか数年後後には噴火して、年単位のレベルで立ち入り禁止になる可能性がある。
記憶に新しいところでは木曽御嶽山が噴火したし、百名山なら他にも鹿児島県の霧島連峰、長野県の浅間山などは立ち入りが規制されている。岩手県の岩木山、早池峰も入山制限がかかるときがある。
こういう山は、難易度が高かろうが低かろうが、登れるうちに登っておいたほうがよいと思っている。「定年退職してからじっくり」なんて思っていると、運が悪いと自分の寿命が尽きるほうが先になるかもしれない。
ということで、僕にとっては56番目の日本百名山・日光白根山を登頂完了。

なぜかわからないが、この山頂には白根山の山頂表記がいくつもある。
先ほどの写真とは別の場所に看板があったので、これも写真を撮っておく。
ここからだと、遥か遠くに猫耳の形をした山・尾瀬の燧ヶ岳がよく見えて美しい。
おそらく狭くて不安定な岩峰の上にある山頂のため、記念写真をとりたい人が山頂標識周辺に密集すると危ない!ということで複数の看板を用意したんだと思う。記念写真をするならばどれでもお好きなものをどうぞ、分散してね!というわけだ。
この写真を見れば分かるが、左下に赤いザックを背負った人の姿が小さく写っている。それくらいこの山頂直下は高度差があって、一気に岩場を下るような場所になっている。とてもじゃないがここで長居をする気にはならない。
ゆっくりご飯を食べたり水分補給をしようと思ったら、山頂から少し離れた場所を探すことになる。
道理で先ほどの通過した岩場で、人々がバラバラと散らばって休憩を取っていたわけだ。山頂には居場所がなかったからだ。

12:33
僕から遅れること数分、仲間たちがやってきた。
こういう時気を付けなければいけないのは、「もう山頂だよ!早くおいでおいで!」と声をかけないことだ。
というのは、必死になって山を登ってきた人は上り詰めた先に、不意に山頂の標識が見えたその時が最高のカタルシスだからだ。
なのに、先に行った仲間が「ここに山頂があるよ!」と余計な入れ知恵をすると、カタルシスを大きく阻害することになる。それはかわいそうだだから僕はあえて目の前に山頂があることを告げず彼らの到着をじっと待った。
話が脱線するが、僕がある学校の受験で合格発表を見に行った時、合格発表を既に見終えて学校を後にする友達とすれ違った。そのとき「おかでん、合格しとったで」と告げられ、喜びよりもむしろガッカリした。僕のドキドキを返せ!と思ったものだ。それ以降、人のリアルタイムの感情をいうのはできるだけ阻害してはいけない、と思うようになった。

12:35
全員が揃ったところで、三角点に向かう。
この三角点を軽く靴底でちょこんと踏む、ということで山頂に到着した証としている。
みんなで形式的に、三角点を踏み山頂の到着を祝う。

12:39
ということで山頂に到着した4名で記念撮影。
写真の構図を見てもわかるように、本当に岩の上に山頂がある。だから写真を撮り終わったら場所を移動する必要がある。
山頂のある岩場は周囲を見渡してもくつろげそうな場所がなかった。うっかり荷物を広げると、岩を転がってはるか下に落下しそうだ。それは危ないので、となりのピークに移動することにした。日光白根山にある三つのピークのうち一番北にあるピークへの移動だ。
(つづく)
コメント