ただいま、わが愛しの山小屋泊【焼岳】

焼岳小屋入口

14:09
さて。素知らぬ顔をして山小屋素通り、というわけにもいかないので、折り返して、エヘンエヘンと咳払いでもして、いざ焼岳小屋へ。

14時に山小屋入り、なんて僕のこれまでの登山経験でももっとも早いと思う。でも、今シーズン初の本格登山なので、これくらいのんびりした行程の方がいい。

「1泊2食付き、1名でお願いしたいんですけど」

と小屋のお兄さんに声をかけたら、

「えーっと・・・」

と若干戸惑ったような声を出す。

「予約は・・・?していません?ああ、そうですか。えーっと」

あれっ、この小屋は予約無しで泊まれるはずだ。公式サイトにもそう書いてあったはずだが、ルールが変わったのだろうか?

最近、「予約必須」とする山小屋が随分と増えた。昔は「来る者拒まず」で予約なんてなしで泊まれる宿が多かったのだけど、最近は違う。山の上でも携帯の電波が入るような時代になってきたこともあり、「だったらあらかじめ予約を入れてくれよ」という山小屋が増えた。定員をきっちり決めていて、定員オーバーになると予約を断る。

宿としては、何人来るかわからない客のために寝床の工面をしたり、料理の準備をするのは大変だ。特に寝床問題は山小屋では恐ろしく大事なことだ。

「客が来るだろう」と見込んで、部屋の隅からギュウギュウに客を押し込んでみたら、客が来なくて一部がスカスカになった、とか、その逆で寝床の間隔をあけてゆっくり寝て貰おうとしたら、団体客がドカッとやってきて寝る場所がない、なんてことも起きうる。予約は、山小屋だからこそ大事、ともいえる。

とはいえ、焼岳小屋でのこの塩対応はちょっと困った。今にも「泊まらせないぞ」と言われそうな気配すらあったからだ。やべー。

「今から山頂へは・・・」
「えっ、山頂は明日の朝登る予定なんですが・・・」

ご冗談を、まだ2時過ぎとはいえ、今から山頂往復で2時間かかる。16時過ぎには戻ってこられるとはいえ、山小屋着としては遅い時間だ。しかも、あわよくばそのまま下山してくれたら、という気配がおにーさんから漂ってくるわけだが、16時からさらに下山、というのは勘弁してほしい。18時半くらいに上高地バスターミナルに到着しても、寝るところなんてもうない。

おにーさんも困惑、僕も困惑して何やらちょっとだけ気まずい空気になったが、それもわずか数秒。すぐに、受け入れOKの答えを貰うことができた。ふー、セーフだ。

周囲を見渡すと、まだこの宿に宿泊する人はいない。早い到着だと思ったけど、それでも宿泊を躊躇されるのだな。それだけ、「定員25名の山小屋」というのはキャパシティが厳しい、というわけだ。

そりゃそうだよな、だって外から見てもこの山小屋、すごく小さいんだから。よくここで寝るだけでなく食事もできるものだ、と思う。しかも従業員も寝泊まりするわけだし。

焼岳小屋食堂

焼岳小屋の1階部分。畳敷きで、長机とざぶとんが並べられていた。朝夕は食堂になる場所だという。

ざぶとんが長机一辺に対して4枚。

長机が2列で、この「食堂」はいっぱい。つまり、お誕生日席にも座ってもらっても、合計20名しか座れない食堂だということになる。

「定員25名」はダテじゃないぜ。

焼岳小屋カウンター

お座敷と、厨房との間がたたきになっていて、そこに小屋番さんが陣取っている。

小屋番、といってもこの小屋には「ヌシ」みたいな人はおらず、全員若い人だった。ここは松本市営の施設なので、個人経営の山小屋とはちょっと違うらしい。

小屋番さんがいる場所のすぐ右にホワイトボードがある。そこには8月のカレンダーが記されていて、

8/1 1,3,2
8/2 1,2,2,2
8/3 2,1,5,2,2

などと謎の数字が書き込んであった。

おそらく、予約を受け付けた人数とグループなのだろう。8月1日の場合、3組の予約が入っていて、単独行、3名グループ、2名グループということなのだと思う。

なんだ、やっぱりみんな電話予約をしているんだ。やべー、僕もやっておけばよかった。予約不要、と謳っている山小屋でも、事前連絡をしておいた方がいいんだな昨今は。

焼岳小屋軒先のドリンク

山小屋といえば、軒先にドリンクが並んでいる光景は結構おなじみだ。この焼岳小屋でも、そうなっていた。

しかし、水が張られていない。渇水なのか節水中なのか、ドリンクを冷やすための水が一滴たりとも入っていなかった。あらら。おかげでドリンクはぬるい。こんな光景は初めて見た。

山小屋は大きなものから小さなものまで、全国各地に千差万別で存在する。しかし、規模やゴージャスさにおいては北アルプスの山小屋は他を圧倒しており、標高3,000m近くで毎朝パンを焼いている山小屋があったり、アルペンホルンの生演奏をする小屋があったり、ウナギが夕食にでる小屋もあったりする。

それから比べると、この宿は何もかもがこじんまりとしている。やはり、いくら百名山の山頂近くにあるロケーションとはいえ、日帰り登山客が多い場所柄なのだろう。

ちなみに2018年3月、松本市議会はこの焼岳小屋を2019年に建て替えることを決議したそうだ。築50年近くが経つため、老朽化による建て替えで、今小屋がある場所の隣に建てるのだという。床面積は30平米広がって100平米!というからおおお!と思ったが、100平米って10m×10mだ。しかも「延べ床面積」だから、二階建てであることを踏まえるとやっぱり相当狭い。大きなものを作ろう、ということは今後もないということがこれではっきりとわかった。ちなみに定員は建て替え後も25名のまま。

焼岳小屋カップ

軒先で、カラフルなマグカップが売られていた。ホーロー製?誰が買うんだ、これ。1,300円。

焼岳小屋宿泊料金

ちなみに宿泊料金だが、1泊2食で8,000円。

最近の山小屋は人件費や輸送費上昇のあおりで9,000円やら9,500円といったところがザラにある。そんな中で、8,000円はかなり安い部類だと思う。

素泊まりだと5,500円。メシをカロリーメイトだとかカップ麺で済ませても良い、というならばちょっと安くできる。なお、ここはキャンプ地がないので、一泊登山をしようと思ったら山小屋泊しか選択肢がない。または西穂山荘のテン場まで行くか。

焼岳小屋正面

14:19
小雨が降ったりやんだりを繰り返す。だんだんガスが深くなってきたし、これから天気は悪化の一途らしい。

とはいえ、できるだけ外には出ておきたいものだ。なにしろ、小屋の中にいたんじゃ、せっかく山に来たという実感がないから。

小屋の斜め向かいに、ベンチと机があったので、雨が本格化するまではそこで過ごすことにしよう。

焼岳小屋トイレ

トイレ。

個室は3つあり、一番奥は男性用になっている。

一般的な山小屋でもよくあるように、「通りすがりの人はチップ100円、宿泊客は無料」という扱いになっている。

焼岳小屋ベンチから焼岳小屋

ベンチから見た焼岳小屋。

いやー、小さい。これで25名の定員って、どうやって寝るのか、未だに想像が付かない。

物置にも不自由しているようで、小屋とトイレの間、そしてトイレの奥に農機具でも入っているかのようなビニールテントがこしらえてあった。

コーラで乾杯

ここから夕ご飯まで、ひたすら長い時間を過ごすことになる。時刻はまだ14:22。夕飯、そして消灯時間まで長い長い。これが山小屋の醍醐味だ。

昔は祝杯でもあげて酔っ払っていたものだけど、今はお酒を飲まないのでそういうわけにもいかない。450円でコカコーラを買い求め、それで暇つぶしをすることにした。

ちなみに水は400円、ビールは550円。ノンアルコールビールはないかな?と思って探してみたけど、売られていなかった。まだそこまで市民権がある飲み物ではないようだ。

でも、ノンアルコールビールを頼まなくて正解だった。

ぬっるいコカコーラを飲んでみたのだけど、ぬるい上に標高が高くて気圧が低い。泡だらけですよもう。

「ひゃあああ」

登山をしてきて疲れたおっさんとは思えないような甲高い声を上げる。

(つづく)

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