高尾山は東京を代表する低山だ。東京界隈に住む人で、「山歩きをしてみたい」と思う人は、まず真っ先に高尾山を目指す。そんな場所だ。
僕にとっては、観光客が多すぎてゴチャゴチャしていて、楽しい山だとは思わない。以前高尾山に登ったときの記録が、このサイトでは記事になっている。
しかし、何やかやでこの地を訪れているのは、「滝行体験ができる」やら「ビアガーデンならぬビアマウントがある」と、いろいろなアクティビティがあるからだ。そして何よりも、京王線に乗れば都心から電車で一本、という利便性が素晴らしい。
「最寄り駅から登山口までバス」なんて面倒だけど、高尾山なら最寄り駅が即登山口だ。
そんな高尾山から西に連なる稜線歩きは、とても楽しい・・・ということを以前から知っていた。歩き続ければどこまでもいけそうだけど、もっぱら「陣馬山」という山と高尾山との間を歩くルートが有名だ。
高尾山の雑踏から解き放たれ、奥多摩の樹林帯の中を縦走できるのだそうだ。
訪れてみたい、とずっと思っていたのだけど、なかなか訪れる機会がなかった。というのも、「微妙に近くて、微妙に遠い場所」だからだ。交通の便が良い場所にある、という油断から、ついつい事前の準備がおろそかになる。最悪、当日朝起きてからでもいいや、なんてナメた考えでいて、結局朝起きられずに断念することになる。毎度そうだ。
これが「北アルプスに行きます」なんてことになれば、入念に荷造りをするし、登山届を事前に提出する(長野県警はネットで登山届を受け付けてくれる)。登山届を提出してしまった以上、引くに引けなくなってしまい、「面倒くさいなあ」とぼやきながらも登山をすることになる。
それが高尾山だと、完全に油断するのだった。「ま、今日がダメでもまた来週にでも」とか、「冬でも登れる山だし」とか、適当な理由をつけて、朝寝坊してしまうのだった。
これじゃいかん、ということで、自らを奮い立たせるためにオフ会形式にしたのが今回の発端だ。一人で行こうとするから、途中で面倒くさくなるんだ。誰か仲間がいれば、やる気が出てくる。
そんなわけで企画したのがこれ。
当初は、高尾山の中腹にあるビアガーデン「高尾山ビアマウント」の今シーズン最終営業日にあわせて、10月の14日に開催する予定だった。陣馬山をスタートしててくてく稜線を歩き、ゴール地点の高尾山で祝杯をあげよう!という計画だ。
しかし、山には雨がつきもの。この日はまんまと雨が降ってしまい、登山は中止となった。かわりに、山麓のトリックアート美術館で遊び、ビアマウント宴会をやってお開きとなった。
しかしこのままではいられない。改めてセッティングしなければ、ということで、11月18日に再設定をした。これ以上日程を後ろにずらすと、下山時刻が日没時間に迫ってしまう。僕一人ならともかく、オフ会参加者を引率する団体となると、ちょっと危険だ。
しかし、この日程もまんまと雨が降った。あー。まあ、しょうがない。また来年以降、機会があればやりましょう・・・ということでこの企画はボツになった。
とはいえ、一度昂ぶった僕の気持ちは納まらない。せっかく重たい腰が持ち上がったのに、来年まで持ち越しというのは悲しい。そこで翌週、僕一人でオフ会の計画どおり、陣馬山から高尾山まで縦走することにした。
この縦走ルートには、あちこちに茶店がある。山麓の集落まで近いこともあり「山小屋」は存在しないのだけど、茶店が多い。折角なので、この茶店を全店舗巡り、それぞれのグルメを楽しむ、という課題を自らに設定した。
行き倒れるのが先か、食い倒れるのが先か。そんな縦走旅。
事前の調査によると、茶店は陣馬山山頂、影信山山頂、小仏城山山頂、そして高尾山山頂にあるようだ。少なくとも、4店舗。中には山菜の天ぷらが名物という茶店もあるようだ。天ぷら!?山の上で揚げ物をやるのか。常時油を温めておかないといけないので、燃料をかなり消費する。なんてぇ豪快さだ。それだけ、大量のお客さんがやってくるという証拠だろう。
食べ歩き、という動機付けがあったからこそ、一人でも「よしやるぞ」という気になる。あと、これ以上寒い季節に山を歩くのはしんどい、という追い詰められ感もある。ほどよい緊張感とともに、一人縦走企画が始まった。
場所をおさらいしておこう。
高尾山というのは、東京の西にある。その名の通り、中央線高尾駅の南東に位置している。
標高599メートル。日本全国見渡しても、全然珍しくない高さの山だ。
一方、スタート地点となる陣馬山はここ。
高尾山から西北、東京都と神奈川県の県境にある山だ。標高は857メートル。
この二つの地点を縦走しよう、というのが今回の企画となる。想定するルートとコースタイムは、
陣馬高原下(09:00)・・・新道登山口(09:30)[休憩 5分]・・・陣馬山(陣場山)(10:35)[休憩 20分]・・・奈良子峠(11:25)[休憩 5分]・・・明王峠(11:40)[休憩 5分]・・・底沢峠(11:55)[休憩 5分]・・・堂所山(12:20)[休憩 5分]・・・景信山(13:25)[休憩 20分]・・・城山(小仏城山)(14:45)[休憩 20分]・・・大垂水峠分岐(15:25)[休憩 5分]・・・高尾山(16:00)[休憩 20分]・・・高尾山駅(16:55)
とした。途中の茶店に立ち寄っては食べる、という企画なので、要所要所で休み時間を確保している。そのため、スタートとなるバス停からゴールの高尾山駅まで、8時間近くかかる見込みだ。標高は低いけど、素人向けではないルートとなる。ただし、さすが里山だけあって、いたるところに麓にエスケープできる道がある。「やばい」と思ったらいつでも下山できる、というのは安心材料だ。
この縦走路は大変によく歩かれる道だけど、多くの人は今回の僕と同様、陣馬山から高尾山を目指す。それには理由が二つある。
- 標高が高い陣馬山から、標高が低い高尾山に向かった方が楽だ。
- 陣馬山にゴール後、バスに乗ろうと思ってもバス便が少ない。逆に高尾山なら、いくらでも帰る手段はある。
高尾山から陣馬山を目指す人も中にはいるけれど、それは決してマゾ気質とかそういうわけではない。
「陣馬山からせっかく山歩きを楽しんだのに、最後のゴール(高尾山山頂)で大勢の人がいるのはがっかりするから」
という意見もある。それも一理あると思う。
今回はとにかく、陣馬山のふもとからスタートだ。
2017年11月25日(土)
08:02
朝8時、JR高尾駅北口。
高尾駅北口は、古い駅舎風に作られていて、風情がある。駅の看板も、大きな木製だ。その背後に、駅前のマンションが見えるというのが不思議な光景だ。
東京近辺に住んでいると、オレンジ色の電車・JR中央線で「高尾行き」というのをよく見かける。なので、「高尾」という地名は知名度が高いはずだ。じゃあその高尾が大都会なのかというとそれは違い、駅前からしてのどかな光景が広がっている。
高尾というのは、近くて遠い場所だ。東京駅からだと、だいたい1時間~1時間10分ほどかかる。勝手なイメージとして、もっと近いものだと思い込んでいるので、「えっ、こんなに遠いの?」と若干びびる。
ちなみに、新宿~高尾間というのはJR中央線と、私鉄の京王電鉄が併走して走っているのだが、運賃がかなり違う。JRが550円なのに対し、京王線が360円。馬鹿にできない金額差だ。豆知識。
高尾駅北口は狭い。ちゃんとしたロータリーがあるわけでもなく、バスやタクシーが優雅に発着できるようなスペースは用意されていなかった。
陣馬山の登山口である、「陣馬高原下」行きのバスはどこから出発するのだろう・・・?
周囲を見渡して、すぐにその場所を把握できた。なんだありゃ。すごい人混みができているぞ。朝8時なのに。みんなあれ、陣馬山を目指すんかい。
関東近郊の山で、週末に登山口を目指すバスというのは大抵激混みだ。それはわかっていたのだけど、まさか11月末にもなろうというのに、この混雑を目の当たりにするとは思わなかった。朝8時だぞ?いや、そんなに早朝ではないかもしれないけど、僕なんかこのために朝5時過ぎに起きてるんだぞ?それでこの混雑かよ。
バスに乗れるのか不安になる光景だったけど、今更あわててあの行列の最後尾に並んでも時すでに遅しだ。ならば、やるべきことを済ませてから、堂々と並ぼう。
ちなみに1本バスを遅らせたら、とうぜんその後の行程に影響が出る。ゆっくりとしたペース配分で計画を立てているとはいえ、予定では16:55下山のつもりだ。いやー、さっきのバスに乗りたいなぁ。乗れなかったらまずいなあ。途中の茶店で料理を食べ歩く、という計画は中止にしなくちゃいけないかもしれない。
そんなことを気にしながら向かったのは、駅の近くにあるセブンイレブン。
何故かというと、登山届を印刷していなかったからだ。往来が多い山道だし、道迷いの心配はあまりしていないのだけど、なにせ単独行だ。証跡はきっちり残しておかないと。
ただし、道中に登山届を提出するポストを見つけられなかった。時々、折角丁寧に登山届を書いたのに、投函するポストが見つけられず無駄になることがある。最近はインターネットで提出できることが増えてきたので、できるだけネットで手続きを行った方が良いと思う。
登山地図は今やスマホで閲覧できる時代になった。電波が入らない場所でも、事前に端末側に地図データをダウンロードしておけば、困ることはない。昔はガーミンなどの「登山専用GPS装置」を持ち歩くのがステータスだったけど、今や随分とスマホに置き換えられてしまった。
とはいえ、紙でざっと現在地やこれから向かう方向の地理を確認するのは最高に便利だ。やっぱり登山には紙の地図を持参したい。
08:07
バス停に戻ると、相変わらずの有様だった。
「鉄道が事故のため運休となりましたので、バスで振り替え輸送を行っています」
というシチュエーションなのか?と疑いたくなる人の数。
なにせ、行列が長すぎて、途中で折り返している有様。
全員が登山客というわけではなく、軽装の地元民らしき人も混じっている。地元民からしたらいい迷惑だろう。すいません。
ザックを背負っている人たちの装備を見ていると、結構まちまちだ。11月下旬ということもあって、結構冷え込んでいる。じっとしていると、寒い。とはいえ、歩いていると暑くなってくるので、「脱いだり着たり」を繰り返しながら、体温調整をしていくしかない。
そのため、夏ならばもっと軽装で済むはずの山だけど、着替えやらなんやらの都合でザックが膨らんでいる人が多かった。また、僕のように縦走を企んでいる人と、陣馬山だけ登ろう、という人が混在していて、それによって装備が結構違っていた。
(つづく)
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