
14:00
徳沢園のみちくさカフェで、アフォガードを買う。
アフォガードなんて、普段は食べないものだ。しかし、徳沢園に来るとつい食べてしまう。
「ソフトクリームも食べたい、コーヒーで一服したい」という旅人の願望を一つに束ねた夢のコラボ。
ただ、アフォガードという食べ物(飲み物?)が本当に美味いものなのかどうかは、毎回この地で食べるたびに考えてしまう。
ソフトクリームを食べているうちにコーヒーの熱で溶けるし、ブラックコーヒーが飲みたいのにだんだんミルク入りのコーヒーに味が変わっていくし。
ああそうだ、バカみたいだけど、「だったら、ソフトクリームとコーヒーをバラバラに買えば済むじゃないか」ということに気がついた。なにを今更。

いしがウッキウキでかばんからクッキーを取り出す。
先ほど、「カフェ・ド・コイショ」で買ったお菓子だ。
「食べましょう!」と勢いよく言う。字面は「お誘い」なのだけど、実態は「たべるぞ、オイ」という宣言だ。
このころのいしは本当に甘いものに目がなく、僕はその姿をとても微笑ましく見ていた。お菓子を前にすると、たとえアルフォートやルマンドといった安いお菓子であっても、歓喜の声をあげていたからだ。その無邪気さがとても可愛く思えたものだ。
時は流れて2025年、この文章を書いている現時点では、いしはすっかりヘルシー志向になってしまった。朝はサバ缶とおから入り味噌汁で、夜は大根おろし汁を欠かさず飲んでいる。お菓子をたべる機会も量も減った。そんなストイックになってしまったパートナーを見ると、僕はちょっと残念だ。

話を2021年に戻す。
キャンプ場の傍らに、何やら見慣れない建物が建っている。えっ、以前はあそこ、空き地だった場所なのに。なんだ?
しかも、遠くからみてもイイカンジの雰囲気を醸し出している。
徳沢園の旅館建物とはつながっておらず、独立した建物になっている。
テラス付きの建物で、二階建て。

「TOKUSAWA-BASE」と書いてある。
こちらのスペースは「ぶらキャン」参加者、徳沢園宿泊者専用のラウンジとなります。ご利用の際は、徳沢園フロントにて受付をお願いします。
だそうだ。ラウンジなのか!贅沢だな。
徳沢園は「山小屋」とは違う。立派な旅館だ。どうやら相部屋もあるらしいが、こうやって宿泊者専用ラウンジを外に作るなんてすげえ、と思った。というか、作れるんだな、国立公園の中なのに。

ラウンジに興味津々だけど、中に入るわけにはいかない。なので踵をかえしてキャンプ場内を歩く。
おや、ここにも新しく見慣れないものが。
ドラム缶を改造した、水色のベンチ。「I ❤ TOKUSAWA」と書いてあった。こんなものも作ったのか。
座面のところには、「カラス注意」という張り紙が貼ってあった。

14:51
徳沢から明神に戻る。四季折々、美しい道だ。
僕らはとても楽しんで歩けるけれど、槍ヶ岳や涸沢が目的地の人、またはそれらの場所から下山してきた人にとっては、横尾~徳沢~明神~上高地の間の道はタルいことこの上ない。
僕はまだ涸沢に足を踏み入れたことがないので、いずれは行くことになるだろう。その時は、早く涸沢に到着したいものだから、この光景を邪魔くさく思ってしまうのかもしれない。

15:15
明神の「山のひだや」に戻ってきた。今日の宿だ。
背後には明神岳5峰がくっきりと、美しくそびえている。こうも見せつけられると、いつかは登ってやりたいという気にさせられる。でも、ロープワークができないと無理な山なので、僕の実力では一生登る機会はないのだろう。残念だ。
上高地周辺には、「こんなに近いのに!こんなにそびえているのに!」というのに登るのが困難な山がいくつもある。
さて、僕らの服装だが、朝とうってかわって軽装になっている。ふたりともモンベルのフリースを着ているのだが、いしはシャミース、僕はクリマプラス100の生地を使ったフリースだ。要するに、ラインナップの中でも薄手。そして下はジオラインでもヒートテックでもないTシャツ。
昼どきであれば、上高地の10月末でもこの程度で十分だった。とはいえ、朝はダウンを羽織っていたように、寒暖の差が激しい。
ほら、この写真を見て欲しい。まだ15時を過ぎたばかりだというのに、すでに僕ら、そして宿の建物が薄暗くなりはじめている。日が本格的に傾いてきているからだ。このあと、サーッと冷気が辺りを満たすことになる。

寒くなる前に宿に入る。
正面玄関から入るのは初めてだ。以前、クリスマスパーティーに参加した際は、カフェ・ド・コイショの入口が宿全体の出入り口だった。
夕食は18時、朝食は7時。消灯は21時だ。あれ?消灯?
この宿、まったく電気が使えないランプオンリーの宿だと思っていた。電気、来ているのか。
そりゃまあ、宿を営む上で電気は必要だろう。
クリスマスパーティーのときは、夜になるとヘッドライトの明かりで過ごしていたのだけど。

宿のロビーから玄関方面を見たところ。
客室は階段を登った二階。
ロビーは寒いので、ここでくつろいでいるお客さんはいなかった。

客室が連なる、二階廊下。
(つづく)
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