最近、経営に行き詰まった温泉旅館を買い取り、リノベーションした上で格安宿として再生を果たす事例が多い。団体旅行をフォーカスした、昭和時代の大型旅館というのは平成の時代において完全に時代遅れの大艦巨砲主義だ。図体がでかくてコストがかかるし、建物は老朽化するしで、完全に行き詰まった施設は全国にたくさんある。
そんな宿を精力的に買い上げているのが、「大江戸温泉物語」「伊藤園ホテルズ」「おおるり」などだ。あれよあれよと、勢力を拡大させている。「大江戸温泉物語」なんて、REITを組成して東京証券取引所に上場を果たし、買収資金を市場から調達しているくらいだ。
大江戸温泉物語には、僕は鬼怒川で宿泊したことがある。
宿の値段と、宿そのもののグレードが不釣り合いで、やたら割安だったことに驚き、喜び、そして困惑したことをよく憶えている。冬の平日泊だったとはいえ、こんなに安くていいのか?とびびったものだ。
なにしろ、宿をイチから建てる、という初期投資がいらないのだから、その分宿泊料金をお安くできる、ということなのだろう。
「できるだけ、ひと月に一回は温泉旅行に行きたい」ということでお出かけを繰り返している僕だが、さすがに毎月豪華な旅行ができるほどの財力はない。旅行資金はちゃんと予算化されていて、その中でやりくりをしなくちゃいけない。となると、必然的にお安い宿を探すことになるのだが、そこで目に留まったのが「おおるり」だった。
「おおるりグループ」。栃木県を基盤とする温泉旅館だ。もともとは自社で宿を運営していたと思われるが、現在は各地の経営が傾いた宿を買収し、勢力拡大中。群馬の草津温泉や、静岡の熱川温泉などにも系列旅館があるらしい。
一泊二食付きで、5,500円前後だったと思う。今これを書いているとき、当時の予約情報が残っていないので正確な金額は憶えていない。でも、6,000円未満だったはずだ。失禁してしまいそうなほど安い。民宿でも、二食がついて5,000円台の宿というのはあまりない。
しかも強烈なのが、この「おおるり」は食事がバイキングであるということ、しかも飲み放題付きだということ。バイキングの方が宿としてはラクだ、という事情もあるだろうけど、客からすると「うひょう!腹一杯ご飯が食べられるぜ!」という高揚感と背徳感がセットで得られる。さらに飲み放題付きときた日にゃあ、飲んで食べて、この世の極楽ではないか。
もうこの時点で、クオリティなんて正直どうでも良い。「冷凍食品ばっかりでいまいち」なんていうヤツがいたら、宿にかわって僕が説教してやる。安すぎるんだから、文句を言うなと。
宿の予約画面に、こんな記述があった。
夕食時バイキングにて、アルコール飲み放題
☆★☆クリアアサヒ☆日本酒☆サワー☆ハイボール☆★☆
なんと、イタリアンワインまで飲み放題!
[ホテル指定のお食事時間内に限り]
すがすがしいな、「クリアアサヒ」(第三のビール)であることを明記しているところが。そりゃそうだ、値段が値段だけに、ホンモノの生ビールなんて出せる訳がない。
それでも、ワインまで飲み放題に含まれているのだから、すばらしい経営努力だと思う。
僕なんか、仕事の関係で立食パーティーの幹事を任されることがあるんだけど、安く抑えようとすると飲み放題にワインはつかない。さすが立食パーティーなのでホンモノのビールが出るけれど、あとはせいぜいウイスキー水割りが付く程度だ。
それだけではない。
この「おおるり」グループの宿は、首都圏から激安の送迎バス「湯けむり号」を運行していることでも有名だ。その値段、なんと540円。片道運賃じゃないぞ、往復運賃だぞ。冗談きついぜ。嘘みたいな値段だ。いくら自分とこの宿にお客さんを集めるためとはいえ、目を疑うような値段だ。騙されて、どこかに人身売買されるんじゃないかと心配になってしまうくらいだ。
540円だったら、レンタカー/カーシェア派の僕だけでなく、マイカー所持者であっても選ばない手はない。ガソリン代よりも高速道路料金よりも、安いからだ。もちろん、宿泊の前後の自由行動はできないので、その点は割り切りが必要。でもこの値段を前に、そんな煩悩や欲望は沈黙せざるをえない。安さは正義。あまりに安すぎてびびるけど。何かからくりはありそうだけど・・・。
最近の僕は、旅行の計画そのものはきっちり立てるものの、その詳細については敢えて一切調べないことにしている。ネットで調べれば限りなくネタバレ情報が手に入るため、旅行がつまらなくなるからだ。「行き当たりばったりの旅」をしたいとは思わない。僕にとってちょうど良いのは、「計画はガッチリ、でも詳細はスカスカ」の状態で旅立つことだ。
今回の「おおるり」の激安についても、殆ど調べていない。安いからには、きっと訳がある。ボランティアじゃないんだから。でもそれを調べちゃあおしまいだ。実際に現地に行って、体験して、「なるほどそういうことか!」とその場で納得したい。
今回は、激安が故にワクワクしている。激安だからこそ、探検気分だ。こういう旅行も、いいもんだ。大枚をはたいて、貴重な体験をするなんてのは「自分にとって知らなくて良い贅沢」だと思う。
というわけで、今回の旅は、栃木県の塩原温泉にある「ホテルおおるり」に一泊、ということに決めた。
塩原温泉といえば、以前奥塩原温泉に一泊した際に立ち寄ったことがある。
1年半ぶりの訪問だ。
2016年09月16日(金) 1日目
08:09
千葉県松戸市。JR常磐線で、東京都から江戸川を渡って最初の都市。旅行初日の朝は、ここからスタートする。540円の送迎バス「湯けむり号」の乗り場がここにあるからだ。
湯けむり号は
横浜駅、千葉駅、池袋駅、新越谷駅、さいたま新都心駅、西船橋駅、松戸駅
の7カ所から出る。その中から、家から一番近かった松戸駅をセレクトした。
湯けむり号の利用を希望する場合、予約を一週間前にする必要がある。しかし僕らが予約したのは、出発日の5日前。既に締め切りが過ぎていた。公式サイトのweb予約画面では、一週間前かどうかを問わず湯けむり号の予約ができるので、ひとまずダメもとで予約を入れてみた。ダメだったら何か連絡があるだろう。
・・・2,3日待ってみたが、返事がない。オッケーなのか、ダメだったのかがわからないので、宙ぶらりんだ。ダメなら、レンタカーを手配しなくちゃいけないわけで、むしろこっちの方が焦った。
結局、宿に電話して、直接交渉して、湯けむり号に乗れることになった。ギリギリのときは、面倒がらずに電話で予約をとるべきだな。話が早い。
松戸からの出発は、松戸駅西口側にある「松戸市民劇場」の横からだ、という。
このあたりは以前、「ラーメン二郎松戸店」に通うために何度となく訪れたことがある。
松戸店で食べたのは1回限りなんだけど、臨時休業やら早じまいのために何度も空振りをしている。その際、駐車場を探してこのあたりをウロウロしていたものだ。今思うとバカだなー。片道1時間&外環道の通行料500円、さらにはガソリン代。それでラーメン食べるのを空振りしてるんだから。
08:14
到着してみると、「おおるりに行くっぽい」人が道路にふわふわと集まっている。観光ツアーではないので、旅行代理店の添乗員さんがいるわけではなく、まとまりがない状態だ。
松戸発の湯けむり号は、まず西船橋を出発して、松戸を経由し、そこから宿を目指すルートらしい。なので、若干時間は前後する。
松戸市民劇場前の道路は、湯けむり号に限らず観光バスの発着場としてよく使われていた。ひっきりなしに、いろんな会社のバスがやってきては、客を乗せて出発していった。その都度、「おおるりに行くっぽい」人は、「すわ、あれが我々の乗るバスか!?」とザワッとし、違うことがわかって、またくつろぐ、ということを繰り返していた。僕らも、そう。
08:23
バスの到着を待っている間、道路の向かいにあるセブンイレブンでホットコーヒーを買ってくる。
このセブンイレブン、店頭の軒先で野菜を売っているという変わったお店だった。元々青果店だったお店が、ジョブチェンジしてコンビニ業態に切り替わったのだろうか?
ド深夜でもこうやって野菜を売っていたらびっくりだけど、どうなんだろう。闇夜に乗じて、酔っ払いに野菜を盗まれそうだからさすがにそれはないか。
(つづく)
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