
「へえ、笹の花ってパステルカラーっぽい紫色なのか」
と呑気に感心していたが、よく見ると笹の葉の隙間からひょっこり顔を出していたのはリンドウだった。
これまで、山で紫色の花を見かけたら「とりあえずトリカブトだね!」と言っておけばいい、くらいの雑な解像度で生きてきた。でもそれは僕が夏の終わりから初秋にかけて山に登ることが多かったからだ。6月はもっといろんな高山植物が咲く季節。トリカブトの出番じゃない。
以前、もう少し人生のあらゆることに意欲的だった頃、植物図鑑を買って草木の名前を覚えようとしたことがあった。けれど、高山植物の種類の多さと、山ごとに違う植生を知って心が折れた。到底覚えられそうになかったのだ。・・・そして今に至る。

14:41
きつい登りだなぁ・・・。
直登ではなく、等高線を斜めに登るルートにはなっているものの、気分的にはほぼ直登だ。

14:48
おっ、また例の標識があった。
そして、ご多分に漏れずに、これもなぎ倒されている。
何合目か確認しそびれた。そんな余裕もないほど、ただいま疲弊中。

この界隈は、またぬかるみの道だった。
粘土質でヌルヌル・・・ではないだけ、まだ救いがある。

ミヤマキンバイさん、こんにちは。
たぶんミヤマキンバイだと思う。けど、この手の「山で出会う黄色い花」は似た者同士が多すぎる。「ミヤマキンポウゲ」だの「シナノキンバイ」だの、似たような名前がずらり。
もういい、今日からあなたはミヤマキンバイだ。そう決めた。

14:52
見た目は、眺めがよくて清々しいおだやかな登り道。
でも実際は、日差しが照りつけて暑いし、虫は相当な数がまとわりつくし、坂は地味にキツいし、これまでの疲労も抜けきらない。つまり、けっこうしんどい。

6月の亜高山って、これまであまり登ったことがなかったけれど、新緑の美しさは格別だ。
グダグダになりかけている登山の、唯一の癒やし。

木に赤い花が鈴なりになっている。
遠くから見たときは実かと思ったが、近づくと花だった。
Googleレンズに聞いてみたものの、答えはバラバラで調査を断念。
それにしても、笹に囲まれた木の限界ギリギリ地帯で、なんでこんなに元気いっぱいなんだ?
「いまだ!ブルーオーシャンを攻めろ!」とでも言わんばかりの勢いだ。

15:00
見てくださいよ、この傾斜。
一応、階段の体をなしているけれど、実質ハシゴですよこれ。
一歩一歩が踏み台昇降トレーニング級の段差で、足腰にダメージが蓄積していく。じんわりじゃない、筋トレ系の疲れ。

15:02
きつい坂の中盤に「巻機山八合目」の標識。
ははは。乾いた笑いが出る。
なんなんだ、この合目の計算。もう9合目くらいの気分なんだけど。
「キツい登りはむしろご褒美。山頂に一気に近づけてくれるものだから、ありがとうを言おう」
そんな殊勝な気持ちで登っていたのに、やる気がスーッと抜けた。あーもうやめやめ。

15:05
ふてくされて一休み中。
ほら、ぱっと見はニセ巻機まですぐに見えるでしょ?
「休まず頑張れよ」と我ながら思うけど、あと一歩が出ない。
そもそも見えてるピークが“ニセ巻機のニセ”かもしれないし。
休憩中も虫の攻撃は止まらない。
写真を見ればわかるけど、左目のあたりのメッシュに虫が張り付いている。これが常に視界に入って羽音を立てているのだから、反射的に手で振り払ってしまう。
何日もここで過ごせば、そのうち慣れるんだろうけど、一日やそこらじゃ全く無理だ。
(つづく)

コメント