巻機山(避難小屋一泊) / おかでんさんの活動データ | YAMAP / ヤマップ
2023年6月。
標高の高い山々もようやく雪が解け、山肌が少しずつ春の色を取り戻してきた。登山者にとっては、ようやく「開幕」の季節だ。
さて、今年も日本百名山を登っていこう。
2022年は浅間山(前掛山)と恵那山を登った。


あらためて山の楽しさを感じた一方で、同時に体力の衰えという現実を突きつけられた。山頂では達成感よりも「なぜここまで疲れる?」という驚きのほうが大きかった気がする。
僕はかつて「死ぬまでに百名山すべてに登る」というささやかな人生目標を掲げた。だが、今のペースでは「死ぬまでに」というより、「死ぬほうが先」になりかねない。老いが逆走して若返ることはないのだから、現実的に考えねばならない。
もっとも、天寿を全うして登りきれないならまだいい。だが登山の途中で滑落や遭難、そんな終わり方だけはごめんだ。体力不足のまま無理を続ければ、それは「万が一」ではなく「近い将来」になる。
だから2023年は、寒い1月から登山を始めた。
これまで冬は完全オフシーズンだったが、今年は「毎月1回登る」と決めた。登山好きの人からすれば甘い目標かもしれないが、2歳児の父親をやりながら頻繁に山へ行くのは無理がある。
登山計画はすでに5年、6年先まで立ててある。
未踏の百名山は、北は利尻岳、南は屋久島まで、日本地図に広がる点のように散らばっている。「どうやってアプローチすればいいんだ?」という山が多く、計画を立てるたびに地図とにらめっこになる。
登山シーズンは6月から10月までのわずか数か月。1年に登れるのはせいぜい4〜5座だ。だからこそ、登る山の地域はできるだけ分散させたい。北海道ばかり、北アルプスばかりでは偏る。
理想は「北海道・東北・関東上信越・アルプス・その他」と、年ごとに各地方から1座ずつ。全国スタンプラリーのようなものだ。
そうして練った2023年の山行計画はこうなった。
- 6月:巻機山(新潟県)
- 7月:斜里岳(北海道)
- 8月:御嶽山(長野県・岐阜県)
- 9月:火打山・妙高山(長野県・新潟県)
1年で5座。まずまずだ。毎月登るようになる最初の年なので、あえて難易度の高い山は外した。まだ身体が“登山モード”に切り替わっていない。
こうした計画は春先にはすでに立案済みで、航空券も宿も早々に手配した。北海道行きのチケットは半年前に予約したので、ずいぶん安くついた。
登山でいちばんストレスを感じるのは、実は登っている最中ではない。「行こうかな、でも面倒だな」と逡巡している時間だ。
頭の中で「行かない理由」を並べ立てているうちは、まだ登山者になりきれていない。
だが今年は、シーズン前からすべて予約してしまったので、もはや後戻りできない。そうなると腹も据わる。「行くしかない」と思えば、むしろ気が楽になる。
定期的に山へ行くと、装備の扱いもこなれてくる。
食料やガス、電池といった消耗品の残量を常に把握でき、荷造りが格段に楽になる。装備が手に馴染むと、登山のリズムが整ってくる。これは登山者にとって静かな喜びだ。
そして、2023年最初の山は巻機山(まきはたやま)。標高1,967メートル。
名前の美しさに似合わず、あまり知られていない山かもしれない。場所は越後湯沢から東へいった場所で、谷川岳の北にあたる。
登山口から山頂までの標高差はおよそ1,200メートル。縦走には向かず、多くの人がピストン登山を選ぶ。口コミでは「ひたすら登りがきつい」と評判だ。
できれば、今年最初の山にそんなストイックな選択はしたくなかった。しかし、残雪の少ない山をセレクトすると、結果的に巻機山が残った。いわば「残りくじ」的な選ばれ方だ。
標準コースタイムは往復9時間前後。人によってかなりブレがあるらしい。
朝6時に登り始めて下山が15時。となると、前泊するか、深夜に東京を出て早朝登山口着を狙うしかない。六日町から登山口まではバスもあるが、ダイヤ的に前泊必須だ。
当初はテントを担いで登山口のキャンプ場で一泊するつもりだった。だが、山頂近くに避難小屋があると知り、計画を変更。
荷物を減らして避難小屋泊に切り替えた。初日に避難小屋まで登り、翌日に山頂を往復して下山する。
「きつい山」も、1泊すれば疲れを分散できる。これならいけるだろう。
避難小屋といっても種類はいろいろだ。
管理人がいない素泊まり型のものから、「本当に緊急時だけ使え」というタイプまである。巻機山の避難小屋は前者で、協力金を支払えば誰でも利用できる。
さて、どんな登山になることか。
雪解けの山道を、自分の足でどこまで登れるか。
年齢を言い訳にせず、ただ一歩ずつ足を運んでいく——その繰り返しの中に、きっとまた何かが見えてくるはずだ。
2023年06月18日(日) 1日目

パッキングを一通り済ませて、試しにザックをかついでみたら、やたらと重たい。
現地で水場を探すのが面倒なので、僕はいつも水を自宅から持参する。登山地図に水場を示すマークが記載されていても、あまり信用していないからだ。
だとしても重い。そう思って体重計に乗せてみたら、13.5キロもあった。道理で肩が悲鳴を上げるわけだ。
トレランをやる人をはじめ、軽量化こそ正義という時代の潮流は知っている。おっさんおばさんが時代の流れについていけず、重たい装備をあれもこれも持参している――そんな姿が少しみっともなく映ることも知っている。もっと軽くできるはずだ、と頭ではわかっていても、体が昔の感覚を手放せない。
僕が若い頃、団塊世代の諸先輩方で「見るからに重たそうな皮の重登山靴、ニッカポッカをはじめとする分厚い生地の服」をよく見かけた。頭に被っている帽子までもが重厚で、どこか“山の甲冑”のようだった。
なんでこんな重たそうな格好なんだ、と思ったものだが、今の僕がまさにそれになっている。服の素材は進化して軽くなっているのに、荷物だけは昔のまま。きっと若い世代から見れば、昭和の残り香を背負って歩いているように映るのだろう。

07:22
1日目の朝は、登山がある割にはのんびりしている。昼前に登山を開始し、16時までに避難小屋に着けばいいや、というタイムスケジュールだからだ。
それでも、新幹線に乗るためにやってきた上野駅は、まだ朝の7時。遠方へ向かう旅というのは、結局のところ「早起きの儀式」から始まる。
まずはここで、朝ごはんを食べることにした。駅構内に「ハミングカフェ」という店があり、モーニングセットが人気だと聞いたからだ。

別にモーニングを食べなくてもよかったのに、と思う。
でも「さあ、新潟に行くぞ」と思うと、どこか気分が昂る。あるいは「登山前に栄養をストックしておかないと、山の中でハアハアと疲労困憊してしまうかもしれない」という不安が頭をもたげたのかもしれない。そのどちらだったのか、今となってはよく覚えていない。

バタートーストのプレートをチーズベーコントーストに変更したものがやってきた。
もともとの価格が540円で、トーストの変更で+50円。合わせて590円。サラダもミネストローネも付いて、この価格。朝から財布にやさしく、心にうれしい。

07:52
長い長いエスカレーターを下って、上野駅地下深くの新幹線ホームへ。
7時54分発、とき305号・新潟行きに乗る。

09:08
越後湯沢駅に到着。
ここは「のっとれ!まつだい城」に参加するため、毎年3月に訪れている場所だ。この10年で10回以上は来ている。実家帰省の際の最寄り駅の次に、馴染み深い駅といっていい。
そんな越後湯沢駅といえば、なんといってもおそろしく巨大で充実した土産物コーナー。「CoCoLo湯沢」と呼ばれるエリアは、地方駅とは思えない規模だ。
ショッピングモール併設の駅ビルは全国にあるが、ここまで土産物屋だけで構成されている場所は珍しい。地方中核都市ならともかく、越後湯沢という“ローカル”な駅でこの規模。まるで雪国の夢を全部詰め込んだような賑わいだ。
……もっとも、朝9時ではまだ営業していなかった。売り場の棚が茶色い布で覆われて、開店前の静寂が漂っていた。

立ち食い蕎麦の「湯沢庵」も、この時間はまだ営業していない。駅の立ち食いそばは早朝から開いている――そんな固定観念を裏切る静けさだった。

その代わり、「らーめん」と書かれた幟がひらめいているのが見えた。
近づいてみると、奇妙な形の自動販売機。大型液晶には「調理ロボがラーメンを作るよ」とある。
ああ、これニュースで見たやつだ。現金は使えず、完全キャッシュレス。時代がどんどん“現金を拒む方向”へ進んでいるのを感じる。

メニューは「札幌味噌」「東京醤油」「九州とんこつ」の3種類。
そして驚いたのが「LINEのお友だち追加で1杯無料」の文字。えっ、タダ!?
心が動いた。だが、さっきトーストを食べたばかりだし、このあと登山前にもう一軒立ち寄る予定もある。ここで一杯やったら、体が重たくなって、山登りがさらにキツくなる。冷静に判断し、ここはスルーした。

09:11
レンタカーを借りに行くため、一旦駅を出る。
今回は路線バスでの現地入りをやめて、車を借りることにした。乗る時間は短いのに、借りるのは2日分。割には合わないけれど、自由が効くことの快適さには代えがたい。
たまには、こんな贅沢も許してほしい。
(つづく)

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