
さて、避難小屋の中をひととおり見て回ったので、次の仕事は水の確保だ。
ザックからハイドレーションを取り出して残量を確認する。登りのあいだ、ほとんど飲まなかったので、まだ1リットルほど残っていた。とはいえ、水場に行って補給しておこう。僕は心配性なので、たっぷり入っていないと落ち着かない。
「怪我したとき、傷を洗う水もいるでしょ?」
などと余計なことまで考えて、どんどん荷が重くなるタイプだ。

16:10
小屋の外に出る。
地図を見ると、小屋から20メートルほど下ったところに水場の記号がある。だが、見渡してもそれらしい場所がない。「→水場」といった親切な標識も見当たらない。
んー、どこだ?
目を凝らしても見つからない。仕方がない、歩いて探そう。

おっ。
地面の一部に、トラロープが張ってあるのが見えた。つい最近まで雪に埋もれていました、という雰囲気のあたりだ。おそらく、これが水場への案内。ロープに沿って進む。

途中で避難小屋を振り返る。

雪解け水が小川になっている。
が、これはちょっと飲用にはしたくない。さすがにこれを「水場」とは言えない。

もう少し下ると、溶けた残雪の水が集まって流れている場所に出た。だが、これも微妙に濁っている。保留。さらに先へ。

距離はたいしたことないのに、「どこまで行くんだ?」という不安が出てくる。道があいまいだからだ。というか、そもそも道じゃない。

いや、違う。やっぱり道だ。
再びトラロープを発見。狭い岩の間を抜け、さらに奥へと続いている。この先は谷で、雪渓が見える。どうやら、そこが水場らしい。

谷。
わーーーー。
一面の雪渓だった。まだここは雪が溶けていない。

「たぶんダメだろうな」と思いながらも、雪渓のギリギリまで下ってみた。
やはり水はない。雪渓の下に川が流れている様子もなく、氷はガチガチ。しかも見た目もよろしくない。とても飲む気になれない。退却だ。

谷から登り返すと、確かに人工的に整えられた道だとわかる。来るときは「本当に道なのか?」と疑っていたが、なるほど、ここが正式な水場だったわけだ。
砂漠でオアシスを探しあてたものの、そこがすでに廃墟だったーーそんな探検家の気分である。

避難小屋の見える斜面に戻ってきた。
あとは、途中で見た水たまりや小川のうち、どれを選ぶか。できるだけ綺麗そうなところを探さねば。

雪を溶かすのはさすがに気が進まない。土の汚れがひどすぎる。
それにしても、日当たりの良い斜面なのにまだこれだけ雪が残っているのは驚きだ。あと半月もすればほぼ消えてしまうだろう。6月ならではの光景だ。
「ほらご覧、谷間の雪があんな遠くに!」ではなく、手を伸ばせば触れそうな距離に雪がある。贅沢な風景だ。

雪解けの地面は、公園の芝生のように整っていて美しい。だが虫が多い。
おそらく、この湿った地面が温床になっているのだろう。絶景と虫害はセット販売らしい。

しばらく斜面をうろうろし、一番水量の多いところを選んで汲むことにした。
最初はハイドレーションを持って探していたが、まともな水は見つからず。一度小屋に戻ってジェットボイルを取ってきた。煮沸しないと、何が混じっているかわからない。
虫の卵とか幼虫とか、想像したくもない。山の水はロマンだが、現実はたいていこんなものである。
(つづく)

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