
15:34
正面に見える割引岳。
その手前に、巻機山山頂へ続く登山道が伸びている。
正確に言えば、登山道そのものが見えるというより、笹が刈り取られた細い帯がくっきりと浮かび上がっている。遠目でもはっきりと「道」だとわかる。
これがまた、けっこうな登りだ。標高差にしておよそ150メートルほど。
日帰りで登る人なら、この光景を見て「うわ、まだ結構あるな」とため息をつくかもしれない。
でも僕は大丈夫。この坂の手前に避難小屋がある。まだ姿は見えないが、そこが今日の終点だ。

それにしても、この登山道の整備ぶりには感心する。
木道がきっちりと敷かれていて、実に歩きやすい。豪雪地帯の山でこれを維持するのは、相当な労力だと思う。冬の間に雪で相当傷みそうだから。

15:39
避難小屋が近づいてきて、気持ちに少し余裕ができた。そのせいか、自撮り写真が増えている。
自己顕示欲というより、どうにも撮らずにいられない光景が広がっているのだ。しかも360度、誰もいない。絶景を独占するこの瞬間。
風景だけを撮っても、だんだん物足りなくなる。そこに自分が写っていないと、ただの「きれいな写真」で終わってしまう。旅の記録としての手応えが薄い。
僕にとって写真とは、一人称でもあり、三人称でもある。その両方がそろってようやく、自分の旅の証になる。
それにしてもこの山は面白い。山頂目前だというのに、谷を隔ててその山頂を横目に見ながら歩いている。
すごくいい。見渡す限り、何もかもがいい。
虫が多いことを除けば。

避難小屋が見えてきた。
チキンレースのように最後の最後まで標高を稼いできた樹林帯の陰、そのすぐ上に小屋がぽつんと姿を現した。
よかった。無事、到着だ。

15:41
小屋に向かいながら、次に気になるのは水場の様子。
事前情報があいまいだったせいで、今日は節水モードで登ってきた。下山までの分は足りるが、水が豊富ならそれに越したことはない。
残雪の白と、その下のしっとりした地面。うーん、水場はどこだ?

あたりは牧草地のように下草しか生えていない。6月を過ぎてようやく雪が溶けるような場所だ。笹さえも生える余裕がないのだろう。

15:42
巻機山避難小屋は登山道のすぐ脇に建っていた。黒い二階建てのしっかりした建物だ。
避難小屋といっても形はさまざま。ブロック塀で囲まれただけのものもあれば、管理人が常駐しているのに名前だけ「避難小屋」というケースもある。
ここ、巻機山避難小屋は、小屋の中にトイレが備わっているというびっくりするスペックを誇る。それがどのようなものなのか、今から楽しみだ。

到着。
本日の行程、終了。
所要時間はおよそ5時間半。一般的なコースタイムより少し遅めだ。まだまだ力不足を感じる。
それにしても、これを日帰りで登って下って車を運転して帰る人たちの体力には驚かされる。
6月でも十分暑かった。7月、8月ならもっと厳しい登りになるだろう。今の季節でちょうど良かったと思う。
ただし、虫が・・・多すぎる。
6月だから多いのか?それとも、7月以降はトンボが増えて虫を食べてくれるのか?

15:47
小屋の中へ。
おっ、誰もいない。今日はこの小屋を独り占めできるらしい。
この時間から登ってくる人は、もういないだろう。早い時期に来た甲斐があった。
中は几帳面に整えられ、床もつややか。雑多さがまったくない。

玄関の方を見ると、建物全体が頑丈につくられているのがわかる。

土間にはバケツが並び、中には雪が詰め込まれていた。
溶けて水になったものもあれば、まだ氷のままのものもある。最近、管理の人が訪れたばかりなのだろう。
用途は不明だが、防火用水か、トイレ掃除用の水かもしれない。
(つづく)

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