圧巻の山、圧倒する虫【巻機山】

16:00
レンタカーを給油し、無事に返却。越後湯沢駅には余裕をもって戻ってきた。

平日の午後。いつも僕が利用する3月の週末とはまるで違い、駅構内は人が少なく静まり返っていた。

3月の越後湯沢は、東京駅より人が多いのでは?と思うほどの賑わいだった。まるで「金鉱山はここにあったのか」と言いたくなるほど。しかし、スノーシーズンを外すと一転して落ち着きを取り戻す。それでも、ガランとしたデパートの平日とは違い、ほどよい人の気配がある。さすがは越後湯沢だと思う。

とはいえ、冬と夏でこれほど繁閑の差があると、商売は難しいだろう。かきいれ時に人を雇っても、夏はその人が余ってしまう。観光地商売の宿命だ。

それはさておき、今日は3月には人が多すぎて見られなかった駅ナカを、ようやくゆっくり見て回れた。

目に留まったのは「魚沼イタリアン」を掲げる店。聞き慣れない言葉に足を止める。魚沼とイタリアン――米粉パスタに清酒ソースでも出てくるのだろうか。そんな想像をしながらメニューをのぞくと、普通に小麦のパスタやピザが並び、棚にはワインボトル。なるほど、「魚沼の素材を使ったイタリアン」ということらしい。

今回は平日一人旅。空いている今こそ、こういう店に入る好機だったかもしれない。でも、さきほど山菜をお腹いっぱい食べたあとでは、もう何も入らない。次回、魚沼駒ヶ岳から下山したときに立ち寄ることにしよう。

おもしろいものを見つけた。みやげ物売り場の一角に、湯沢町のふるさと納税ができる自販機が置かれていたのだ。

最初は意味が分からず、寄付金の証明書をどうやって受け取るのかと首をかしげたが、よく見ると本当にタッチパネルで住所入力をして決済まで完結する仕組みだった。

販売されているのは「ありがとう湯沢 応援感謝券」という商品券で、寄付額の3割分が地元で使える。1万円寄付すれば3,000円分の券。決済後は湯沢町から寄付証明書が郵送されるという。

湯沢の宿に泊まる予定がある人には、これはかなりお得だろう。訪れたその場で寄付して地元を応援できるのも面白い発想だ。

ただ、こうした地域振興券の難点は、使える店の一覧が把握しづらいこと。せっかく買っても「ここでは使えません」と言われたり、「お釣りは出ません」と注意されたりすると、妙に損した気分になる。結局、僕はこの手の券は買わないことにしている。得よりも手間と小さなストレスのほうが勝ってしまうのだ。

ぽん酒館の売り場には、「道の駅南魚沼」で見かけた徳用せんべいが並んでいた。ただし種類は少ない。

もし「どれにしよう!」と迷う楽しさを味わいたければ、道の駅南魚沼まで足を伸ばす価値がある。

16:24
越後湯沢駅発の上越新幹線「とき」に乗車。いい時間だ。まるで僕にとっては「保育園のお迎えにちょうど間に合う」よう逆算したかのような便。いや実際逆算して決めたんだけど。

新幹線の車内で、ノンアルコールビールを開けて乾杯。ようやく一息つけた。

登頂して一安心。下山して一安心。そして帰りの電車に乗って三たび安心。登山にはこの三段階の安堵がある。

下山しただけでは、まだ気は抜けない。車で来ていれば運転という最後の任務が残る。下山後の運転は、疲労やぼんやりした頭で事故のもとになりかねない。その点、電車旅は気楽だ。座席に体を預けた瞬間、旅の安全が確定する。

ここまで来れば、もう自分の責任で事故を起こすことはない。ようやく心の底から「終わった」と思える。

窓の外を流れる山並みを眺めながら、心地よい疲れが体に広がる。朝の山の冷気、稜線での風、そして越後湯沢の静かな午後。そのすべてが一日の記憶として穏やかに混ざっていく。

日常へ戻る前のわずかな時間。缶を片手に過ぎ去る風景を見送る。この「帰り道の安堵」こそ、登山という旅の最も贅沢な瞬間なのかもしれない。

・・・あれ?「過ぎ去る風景」を見るつもりだったけど、大清水トンネル(22.2km)のせいで窓の外が真っ暗だ。なんだよ。

帰宅して、パートナーのいしが戻ってくるまでのあいだに台所に立つ。

「道の駅南魚沼」で根曲竹が売られていたので買ってきたのだけど、これがなかなかの量で、しかも早くアク抜きをしないと味が落ちそうだった。そこで中華鍋を出し、バーンと一気に茹でる。もちろん、今夜の夕食は根曲竹だ。

・・・あっ、しまった。今日の昼は山菜をしこたま食べたばかりだった。夜もまた山菜系メニュー。まあ、ドンマイ。

本日の戦利品。山から帰ってきた人の荷物とは思えないようなラインナップだ。中身はひたすら、せんべい、あられ、おかき。

それでも、いしは大喜びしてくれた。あれこれ説明しながら袋を開けていく時間が、旅の余韻をいっそう豊かにしてくれる。

一泊を山中で一人きりで過ごし、今こうして家族のもとに帰ってきた。疲れよりも、「やれやれ、無事でよかった」という安堵のほうが大きい。山での静けさと、家のぬくもり。その落差が、旅の終わりをはっきりと実感させてくれる。

これで2023年シーズンの日本百名山登山は、まずは良いスタートを切れたと思う。足に負担のかかる山を登って下りてこられたことで、少し自信もついた。

これから先、まだまだ手ごわい山々が待っている。それでも、焦らず、安全第一で登っていきたい。

登るたびに思うのは、山頂の景色そのものよりも、こうして帰宅して日常の食卓に戻った瞬間こそが、登山の本当のご褒美なのかもしれないということ。

湯沢の風、稜線の光、そして台所の湯気。そのすべてがひとつの線でつながって、今日という一日を締めくくっている。

また次の山へ。
そんな気持ちで、根曲竹の香りをもう一度味わった。マヨネーズとともに。・・・お陰で、香りがわからなくなった。

(この項おわり)

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