屯田兵になった【北海道ハタケ仕事2】

作業が終わったのは、19時だった。日没が遅い時間だということもあって、日が暮れるまでひたすら農作業に没頭していた。途中食事休憩があったとはいえ、朝からずっとよくもまあここまで働いたものだと一同感心する。

札幌泊の人をレンタカーに乗せ、札幌へ1時間の移動。

すでに車窓の外は真っ暗で、北海道情緒とか旅情といったものはほとんど感じられない。ただ、時折見える道路標識が見慣れない北海道の地名になっているくらいだ。

「また今回もひたすらハタケだねえ」

と笑いあう。今日はもう宿についたら、ゲームオーバーだ。前回のように、あらためて集まってどこかで食事、ということは無理だった。時間的にそれだけの余裕がないし、そもそも15時過ぎにご飯をいただいたので、おなかが微妙に空いていない。

「観光気分殺しだ」

今日午前中、支笏湖ドライブ!っていう話が中止になっているし、夜は夜で日没まで作業。ハタケ仕事に集中する環境をがっちり作ってもらっている。「観光気分殺し」といっても、誰一人それに不満があるわけではない。むしろ、望むところだ。ただ、「容赦ないなぁ」と苦笑してしまっているだけだ。

明朝は、5月の遠足同様に札幌にある菊地珈琲の焙煎工房を訪れるという段取りがすでに井川さんによって決定していた。

「前回ハタケに来ていない人がいるし、菊地珈琲に行っていない人がいるでしょ?」

という配慮からだ。それが終わってから、ハタケに全員移動して帰りの飛行機の時間までまた農作業を続行するということになる。

「さすがに二回連続で菊地珈琲はないだろう、と思っていたのだけど」

あれこれ2日目午前の行き先を検討していた僕がぼやく。菊地珈琲に行くのは大歓迎なのだけど、まさか5月に引き続いて7月も行くことはないだろう、と思っていた。だから、「もし2日目午前がぽっかり暇だったら何をしようか」と事前にあれこれ作戦を練っていたからだ。

もし井川さんから2日目午前について何も提案がなく、「じゃ、フリータイムで。昼にハタケ現地集合ね」といわれたとき、途方に暮れるのはいやだった。せっかく北海道まで来ているのに、ノーアイディアで時間ばっかり過ぎていくのは惜しすぎる。だから、あれやこれやと考えてはいたのだが。井川さんと接する場合、頭の切り替えを瞬時に行わないといけない。これまで考えてきたことに固執せず、すっと新しいアイディアに乗り換えていく機敏さが求められる。または、事前にあれこれ下準備なんてせず、当日その場で判断していくスタイルにするのもありだ。

札幌のホテルを巡回し、同乗者を次々とおろしていく。最後、僕がホテル提携の駐車場に到着したのは21時を回っていた。やあ、すっかり夜が更けた。安い宿にしておいてよかったとつくづく思った。

駐車した場所はコインパーキングなのだけど、ホテル名を告げると割引の証明となる紙を渡された。これで一泊1,000円となる。

宿に到着。男性専用のカプセルホテル、「ソーレすすきの」だ。

「スパホテル」を標榜しており、大浴場があるのがうれしい。どうせ一人泊、旅先での楽しみというのは大きな風呂場でゆっくり過ごすことだ。部屋でうじうじしていてもうれしくない。その点ここは大満足だ。

宿代は1泊朝食付きで3,000円ちょっとだったと思う。さすがカプセルホテル、と思うが、これでも「デラックスキャビン」を予約している。そう、この俺様が「デラックス」の部屋なのだ。分不相応とも思えるが、値段だけ見るととってもお得で、散財の罪悪感を微塵たりとも感じずに済む。ちなみに、「スタンダードキャビン」だともう少しお値段が安くなり、2,500円くらいで泊まれたはずだ。

カプセルホテルなので、夏は観光シーズンでかきいれ時だから!と割高になっていることがないようだ。さらに、早割ということで14日前までに予約を入れると、割安だった。そんなわけで、ちょっと心配になってしまうくらいのお得さで今晩は豪遊することに決めた。なにせ、「デラックスキャビン」だもの。いわゆるカプセルホテルのファーストクラス、ということか。そうでなければスイートルームか。

僕自身、カプセルホテルなるものに宿泊したことは一度もない。外泊は過去数多くやってきたが、温泉旅館を愛しているため、ビジホやらカプセルホテルの類のお世話にはあまりなっていないからだ。しかし、そうこうしているうちに、齢40に達してしまった。さすがにこの歳になると、蜂の巣みたいに密集したカプセルにもぐりこんで寝るのにはやや抵抗が出てきている。ああ、歳取るってやだねぇ、新たな挑戦をしなくなるねぇ、と思っていたところだ。

しかし今回の「デラックスキャビン」は、カプセルでありながらも個室感覚がある部屋だという。机と椅子、そしてクローゼットが各カプセルごとに用意されている。寝る前に撮影した写真をPCで整理したり、メールのチェックなどをやりたいと思っていたので、「机と椅子」があるカプセル、というのは渡りに船だった。よし、これで僕も今回晴れてカプセルデビューだ。

建物8階にフロントがあり、そこでチェックインを行う。日帰り入浴施設のような受付だ。館内着をピックアップし、部屋へと向かう。

8階がフロントと浴場、7階がレストランと休憩所、6階以下は宿泊部屋になっているようだった。デラックスキャビンがあるフロアは6階。

6階のフロアレイアウトを見ると、まるで個室が並んでいるかのような配置になっている。しかし、よく見ると1つのブロックに2つの部屋番号が書かれており、これが「上段」と「下段」に部屋が分かれているよ、ということの証でもあった。

窓がなく暗い建物。カーテンで仕切られた部屋がずらっと並ぶ。雰囲気としてはネットカフェに近いものがある。重たい空気。そして、人の気配が身近にするけど、静かだという。

ここが普通のカプセル部屋とは違うのは、あの「蜂の巣状の部屋」がどこにも見えないということだ。厚手のカーテンで仕切られた先が、わずかな個室スペースと、キャビンになっている。

館内ははだしで歩くので、硬い床の上を音もなくすすすっと歩く。

自分の部屋に到着。デラックスキャビン、下段。

通路のような狭いスペースの突き当たりにカウンターテーブルがあり、椅子と照明がある。そして、左側の壁には穴があいていて、その中にはベッドがしつらえてある。

カプセルホテルという概念が軽くひっくり返す作りだ。面白い。

必要最低限のスペースで、必要最低限の装備。うん、「宿に泊まるのが楽しみでしょうがない」という温泉旅行なんかとは違うわけだし、この割り切りはとても心地よい。大変に気に入った。

この部屋は「下段」だが、「上段」を選ぶと、作りは同じだけどベッドの位置が高い場所になる。ハシゴで壁を登る必要がある。下段の部屋と上段の部屋が立体的に組み合うことにより、スペースの効率化が図られているというわけだ。

ロッカーキー。

風呂場にはロッカーがない。また、当然この部屋にも「鍵付きの扉」がない。あるのは廊下と仕切っているカーテンだけだ。ではこの鍵はなんのためにあるのかというと、デラックスキャビンの部屋についているクローゼット用のものだ。

カプセルホテルの宿泊で不安なことといえば、「盗難」と「他人のいびき、騒音」だ。このクローゼットがあるおかげで、少なくとも盗難の心配はない。それがとてもありがたい。自分の部屋があって、その部屋内にセキュリティが担保されたエリアがあるというのは大きな強みだ。財布とかパソコンとかスマホとか、そういったものを部屋に置き去りにできる気楽さよ。

カプセルホテルの不安といえば、以前どこかでホモものの漫画の一こまを見たことがある。気に入った男性を見つけ、その男性がカプセルに納まったところで襲い掛かるというものだったと記憶している。狭いカプセル、出入り口をふさがれたら当然逃げ道がない。やべえ。閉所恐怖症ではないものの、狭いスペースに男二人がぎゅうぎゅう詰めになるということを想像しただけでぞっとする。

待望のカプセル初体験。

カプセル、といってもそのような感じはあまりない。布団の横幅はそこそこあるし、出入りするための口が布団横に広く開いているからだ。

ためしに横になってみる。

おや、足元にテレビがあるのだな。ベッドに横になりながら、仰向けでテレビが見られる仕様なのか。思ったより快適やんけ。

ただ、やはり圧迫感があるのは事実。ベッド周りだけでなく、部屋、そしてフロア全体が暗いので重たい印象を受けるし、壁の色が暗い。そしてベッドの天井が低いので、若干息が詰まる。そりゃそうだ、このすぐ上に別の人が寝泊りしているのだから。お隣の部屋、デラックスキャビン上段の人が自分のわずか数十センチ上空に寝ているとなると熱い友情を感じずにはいられない。うっかり天井を蹴り上げたりしたら、「何だてめぇコラア」と怒鳴り込まれるかもしれないので気をつけないといけない。

なにしろ、廊下と自室を仕切っているのはカーテンだけだ。怒鳴り込まれたら、部屋の鍵を閉めて立てこもるなんてことはできない。だから近隣住民とは極力友好的に接したいものだ。いびきなんてもってのほかだ。

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