出発時間が気になりながら、風呂から出る。もっとゆっくりと漬かっていたかったのだけど、このあとお土産を買おうと思っている上に時間に厳格なLCCに乗る予定だ。かなり余裕を持っておかないと、危ない。特に新千歳空港のような巨大施設ならなおさらだ。
帰りの便は、初めて利用するバニラエアだ。お作法がどうなっているのかよくわからないので、より慎重になる。
ガラガラとスーツケースを引きずりながら構内を歩いていたら、吹き抜けの広場のところで大きな看板を見かけた。「北海道フィギュアみやげ」だそうだ。「新千歳空港限定」というところが惹かれる。
見ると、マニアックなフィギュアがガチャガチャで出てくるらしい。北海道にゆかりある初音ミクはまだわかるが、「疾走するサラブレッド」とか「躍動感あふれるシャチ」なんてのはマニアックだ。中でも、「ジンギスカン鍋でじうじう焼かれるジンギスカン」というのがしびれる。欲しいか欲しくないかといわれると、すげえ欲しい。特にジンギスカン。
お値段、400円。ちょうどさる女性へのお土産を考えていたところだったので、これにしようかと思った。「食べ物よりも形に残るものがいいです」と言っていたので、じゃがポックルでお茶を濁すわけにもいかなくて思案中だったんだ。
でも、女性にこんなフィギュアを贈っても、まず喜ばないだろうな。しかも「北海道土産です」っていう但し書き付きなら、なおさらだ。うっかり札幌時計台のフィギュアなんて引き当ててしまったら、贈られるほうもいらないし、贈るほうもいらん。
・・・無駄になりそうなので、ガチャガチャをまわすのはやめておいた。
結局、その妙齢の美女へのお土産は「ラベンダーの柄が描かれた紫色のハンカチ」になった。うわ、チャレンジ精神のかけらもないのぅ。
というわけで、職場やら友人やら自家消費用やらのお土産を買い込んでからバニラエアのチェックインカウンターへと向かう。さすがにLCCだけあって、成田空港同様に空港の隅っこにボーディングブリッジとチェックインカウンターがあるらしい。広大な空港なので、たどり着くまでがかなり遠い。
ジェットスターは便数が多いこともあり、開き直って最果てのボーディングブリッジである0番を独占しているようだ。
半円の弧を描く建物を延々と歩く。本当にこれでよいのだろうか、とやや心配になるくらいの距離だ。ANAやJALのように空港一等地に目立つカウンターは作られていない。
前方にジェットスターのカウンターが見えてきた。ジェットスターは場所こそ辺鄙だが、大きくて目立つオレンジの看板が遠くからでも頼もしい。で、僕が目指すバニラは・・・ここじゃないのか。もう建物の突き当りが見えてきたが、本当にこれで大丈夫だろうか。何もバニラらしき看板が見えないのだが。
突き当たりまで行ってしまい、バニラエアの看板を発見できなかったので首をひねりながら折り返した。どこかで見過ごしたらしい。すごいな、見過ごすくらいのサイズしかないチェックインカウンターなのか?
慎重に戻っていると、一階に下りる階段の手前にバニラエアのイメージカラーである水色の看板があることに気がついた。あ、これだこれだ。
よく読むと、チェックインカウンターは1階にあるのだという。あ、そうなの?道理で見つからなかったわけだ。普通なら、チェックインカウンターは2階にあるものだ。なぜなら、1階は到着フロアだからだ。でも、「1階にひっそり居を構える」ことでコスト削減を実現しているのだろう。涙ぐましい。
階段を下りてみたら、確かに黄色い看板でバニラエア、と書かれたブースを発見した。レンタカー屋のカウンター程度のサイズだ。これを見て、航空会社というのは見栄を張ったりラグジュアリーな空間と時間を提供する時代じゃなくなったんだな、と実感させられた。
正直、かなりチープだ。荷物を預けようにも預ける場所すらまともにない。本当に、単なる「受付」だ。紙とペンと端末と電話くらいしかないような感じ。これだけ割り切れるからこそ、新千歳と成田を8,000円台で提供できるわけだな。
いやいや、感心している場合じゃない。荷物、どこに預ければいいの?
地上職員さんが僕の背後を指差し、「ANAのカウンターで預けください」と言う。あ、もう荷物については他社にアウトソーシングしちゃうのか。
アウトソーシング、というのは、多くの場合は大きな企業が、よりコストの低い小さな企業に業務の一部を渡すという形態をとる。しかし、バニラエアの場合は、自分よりもはるかに大きな会社に仕事を投げているのだから面白い。
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