「雪ん洞」で大爆おにぎりを食べたチームアワレみ御一行様は、いよいよ本題となる場所へと向かった。利き酒ができる、「越乃室(こしのむろ)」だ。
毎年毎年、飽きもせずによくもまあ、と思うが、飽きるものか。何しろ、越後地酒が100種類以上だ。毎年5杯ずつ飲んだって、20年はかかる計算になる。
・・・いやー、それまでにはハワイ遠島の刑、申し受けたいなぁ。
僕はお酒を全く飲まないけど、ここで仲間が神妙な顔をしてお酒をあれこれ試しているのを眺めるのが大好きだ。自分が飲めない分、「どう?どんな味?」と味の感想をせがむ。
それにしても、「お酒を飲むんだから、先におにぎりをおなかいっぱい食べたら駄目でしょ?」と僕は忠告したのだけど、みなさん「いや、先におなかを満たしておきたい」と仰る。あ、そういうものなのか。ここは「さあて、酔うぞー!」という場所ではないのだな。神聖なる利き酒コーナーだ。
500円で5杯の利き酒ができる制度は一貫して変わりない。僕がここを初めて訪れたのがかれこれ20年近く前だと思うが、その時から同額だ。
儲け度外視で、越後銘酒のPRのため、と蔵元・施設ともども割り切っているからこそできるのだろう。本当にありがたいことだ。
他の「酒どころ」と呼ばれるところでは、同様の施設ってあるのだろうか?広島の西条とか、京都の伏見、兵庫の灘といった地域。多分大きさの違いこそあれ、似たようなものはあると思うが、なにしろ100種類超えの品揃え、っていうのはなかなかないだろう。
あくまでも「利き酒」。なのでおちょこ一杯はとても小さい。でもそれがいい。
しっかり飲んでしまうと、あれこれお試しができない。
事前に僕が、全員を前に
「ええと、諸君が昨年もっとも高評価だとしたお酒はこれですよ」
と入れ知恵する。そして、
「今年も、2017年版『オレ的越後銘酒No.1』を決めてもらいます」
と勝手に宣言する。毎年こうやって継続していけば、きっと面白いと思う。幸い、昨年と全く同じメンツが今ここにいるわけだし。
たっぴぃさんは、おちょこを傾けながら「うーん」と首をかしげている。
「最近、而今(じこん。三重県のお酒)や豊盃(ほうはい。青森県のお酒)といった美味いのを飲んでるからなあ、それと比べると、ちょっと」
と仰る。たぶん、越後のお酒も相当美味いのはあるのだろうが、さすがにこういうコーナーで試飲できるお酒はグレードが限られてしまう。要冷蔵の高級酒などはあまりおいていないだろう。
「絶品の酒を求めて」という期待を込めて飲むと、舌が超えているたっぴぃさんだとなかなか満足いく一滴には出会えないだろう。
なにしろこの人、東銀座でこだわりの清酒を出す居酒屋の店主と馴染みで、珍しいお酒がお店に入荷するたびにお店から連絡が入るという人だ。うまい酒は詳しい。
しかし、酒蔵もいろいろ考えているものだな。
昨年と似ているようで、よく見ると並んでいるお酒が違う。酒蔵そのものは新設されていないはずなので、新商品開発に余念がない、ということだ。
写真は、福顔酒造の「ウイスキー樽で貯蔵した日本酒。」というお酒。
昔ながらの清酒醸造方法ではアカン、もっと21世紀にあった新しい発想でないと!という気概が感じられて、とてもおもしろい。しかも、タイトルに「。」が付いているあたり、モーニング娘。的だ。こういうネーミングも、21世紀ならではだ。
昔なら、ありえない名前だった。あったとしても、「なんだか、まずそう」という印象を消費者に与えただろう。奇をてらいすぎて、味はそっちのけなのではないか?という印象だ。
それが2017年だと、むしろうまそうな酒に見えてくるネーミングになっている。
昨年同様、
「わたしは純米吟醸のお酒しか飲まないの」
と言うおやびん。ずらっとコインロッカーのように並ぶ清酒サーバーを見て回り、純米吟醸を探していた。
「あら、これメダルが3枚いる、って書いてある」
昔は一律1杯100円で利き酒ができていた。もうちょっと高いお酒は、コーナーを分けて、別の場所においてあった。しかし2017年バージョンのぽん酒館は、まだら模様に「このお酒は1杯100円」「こっちは200円」「いやいや、うちは300円ですよ!」と値段が異なっている。
さすがに、いくら宣伝のための利き酒コーナーとはいえ、1杯100円で出すには限界があったのだろう。
ちなみにこれ、おやびんが飲んだお酒。
妙高酒造の「妙高山 蔵囲い十五年熟成酒 純米大吟醸」だって。一杯につきメダル3枚(300円相当)が必要になる。ひええ。くいっとやったらたった一口なのに。
・・・まあ、ここで「くいっと」お酒を飲み干す人なんて、いないと思うけど。なにせ利き酒コーナーだ。
それはともかく、いろいろ考えるものだねえ、15年も熟成させたか。「2000年醸造」とラベルには書いてある。まるで紹興酒のような熟成だ。
清酒の世界でもぼちぼち古酒という概念が出てきているけど、まだまだこれから伸びるジャンルだ。3年以上の熟成を経た清酒を「古酒」と呼ぶけど、15年も寝かせたら一体どんな味わいになるのだろう?
一方、妙高酒造はこんな変わったお酒も出していた。
モンメル フォレ ドゥ・フリ。
はああ?いよいよカタカナ、しかもフランス語だぞオイ。
ラベルを見ると、どうも「モンメル」というのは山のことっぽい。じゃあ「フォレ」はforestで「森」、「フリ」はフルーツ、なのだろう。「山の森の果物」?
今、適当に推測してるので、合っているかどうかはわからない。
ただ、ラベルにはメロンとかぶどうといった果物が描かれているのは間違いない。どうなってるんだ、清酒だろ?リキュールじゃないんだろ?
いやあ、清酒は常に進化してる。
吟醸香(ぎんじょうか)はフルーツの香りがする、と形容されることがあるけれど、まさにそういうお酒なのだろう。とはいえ、フルーツを全面に打ち出すとは。なんて大胆な。
「セルフお燗」コーナー。
おちょこをお湯に漬けるための、お玉とヘラを足して二で割ったような道具を使う。
これでお酒を温めると、また違った味わいになるらしい。ちょっと時間がかかるけど、お燗がつくまでしばらく待てる方は、ぜひ。
POPも面白い。昨年、こんなのはなかったと思う。「濃くて美味い!」と力強い。
「マンゴーを思わせる甘い香りとジューシーな飲み口」だって!
これだけ見ても、カクテルかリキュールとしか思えない。とても清酒の宣伝には見えない。
さて、各自が5杯飲んだところで、各自の「今年のベスト越後地酒」を発表してもらいましょう。すいませんね、ただ一人シラフのひとの趣味に付き合わせちゃって。
ずらっとお酒が並んでいる場所なので、どれがどれだかわからない。記念撮影をする際は、自分がおすすめする銘柄を指差してもらった。
「まるで犯罪者が、警察官の言われるままに犯行現場で証拠写真を取られているようだ」
とたっぴぃさんが苦笑いする。
「ああ、下着泥棒とか、そんなやつですね?」
「下着泥棒、言うなー!」
そんなたっぴぃさんが選んだ今年の銘酒は、
高千代酒造 「Takachiyo 愛山 純米吟醸」。
真っ黒なラベルに、ローマ字で「Takachiyo」と書かれている。しかも、赤字で。ワインのラベルならまだしも、清酒でこんなものがあるとは!
この髙千代に限った話でなく、ここ数年でみるみるいろいろな清酒のラベルが「今風」になってきている。昔ながらの、毛筆書体の演歌チックなものから脱却を図りつつある印象を受ける。
とても良いことだと思う。いつまでも伝統芸能の世界で清酒が居座っていてはダメだ。もっと、21世紀の今を楽しませる、和ませるお酒であってほしい。そのためにも、お酒の名前だって、ラベルだって、なんなら容器だって、変わっていってしかるべきだと思う。
おやびんは、先程の「妙高山 蔵囲い十五年熟成酒」をチョイス。さすが、独特の風味でおいしかったらしい。
よこさんは、原酒造「越の誉・純米大吟醸無濾過生原酒 和醸蔵 寒仕込搾り」。
おやびんが古酒を選んだのに対して、よこさんはフレッシュな寒仕込みを選ぶ。こういういろいろな楽しみ方ができるのが、清酒の面白いところなのだろう。
それにしてもタイトルが長い!というか、どれがタイトルなのか、思わず探してしまう。
よーく探すと、「越の誉」という、このお酒本来の名前がひっそりと書いてある。
清酒って不思議な世界だ。「純米大吟醸」などと、製法がラベルにバーンと書いてあって、肝心のお酒のタイトル自体は探さないと見つからない。
おーまさんは、高千代酒造の「越後秀山 巻機 純米吟醸 無濾過生原酒」。
高千代酒造、つえーなー。たっぴぃさんに次いで、二冠達成だ。
毛筆手書き書体で、昔ながらのデザイン・・・と思いきや、淡い水色の背景。これもまた、地味に今風になっている。
「飲み足りない!もっと飲むぞ!」と次なるコインを握りしめ、二巡目・三巡目に突入する人はいないか?と期待したのだけど、現れなかった。えーなんでー。せっかくだから飲もうよ、そのほうが見ていて楽しいし。
「いや、でもこのあとまだいろいろ行くでしょ?」
そりゃそのとおりだ。何しろ今日はこのあと、本日のメインイベントとして「八海山」の蔵元に行くんだった。また飲むぞー。まだまだ飲むぞー。今日は観光だ。のっとれ!前夜祭で前祝いだ!もちろんハワイのな!
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