16:35
利き酒を終え、ある人はお酒を買い、ある人は甘酒や豆乳を買い、みんなほくほく顔で雪室を退却した。
駐車場の傍らに、売店らしき建物がある。こちらも立ち寄ってみよう。うどん屋、蕎麦屋にはさすがに立ち寄らないけど。ええと、「つつみや八蔵」という名前のお店らしい。
「つつみや?」
よくわからない概念だ。「蕎麦屋」「うどん屋」というのは蕎麦やうどんを食べさせるのを生業(なりわい)にしたお店だ。では「つつみや」とは何ぞ。
「包装紙のお店かな?」
最近は観光地なんぞで、マスキングテープを売るお店がある。その延長線で、包装紙を売るお店があってもおかしくは・・・いや、おかしいだろ、東急ハンズとかホームセンターで包装紙を売るなら、ともかく、こんな林の中にある施設で、包装紙を売ったとして誰が買う?
中では、バウムクーヘンなどのお菓子や、米が売られていた。あれ、単なるお土産物屋さん?
「つつみや」という名字の方が営んでいるお店だったか、さては。
店員さんに話を聞いてみたら、ここでは熨斗(のし)などの包装を承っているのだそうだ。ああなるほど、お酒というのは、冠婚葬祭に密接に関係しているものだ。なので、のしというのは大事な要素だ。
デパートやら酒屋さんでお酒を買っても、それなりの包装はしてくれるだろう。しかし、バシイッとキマったのしを作って欲しいとなると、プロの手を借りることになる。それがここ、というわけだ。酒蔵が包装屋さんもやっている、というのが面白い。
最近は、100円ショップで買ったのし袋を使うことが多い。お祝いのときでも、お悔やみの時でも。袋にのしが印刷されたものだったり、安っぽくテラテラと光る水引だったり。
「そういうものだ」と思っていたけど、いざ実物の包装を見るとびびる。すごい迫力に圧倒される。立体感が素晴らしい。これは確かに、お世話になった人やお祝いごとに使いたくなる。
面白いのは、熨斗鮑が「熨斗稲」になっているということ。そもそも、あわびをのしたものを包装紙に貼り付けたことが「のし」の由来のはずなのに、その鮑がいなくなり、かわりに稲穂が取り付けられている。さすが米どころ。五穀豊穣ということでおめでたい象徴なのだろう。
つつみや、ということで、昔からののしだけではない。
バウムクーヘンのラッピングには、ランドセルを模した入れ物が用意されていた。あっ、これ欲しい!
姪へのプレゼントとして使ったら、喜ばれそうだ。バウムクーヘンを食べた後は、小物入れに使えるだろう。
ミニのバウムクーヘン2個が入って、ランドセル付きで795円。安いと思うが、理由は忘れたけど結局買いそびれた。どうしてだろう。
17:37
八海山雪室がある「魚沼の里」を後にする。このほか、そう遠くない場所に「八海山泉ヴィレッジ」という施設があり、そこではクラフトビールが楽しめるらしい。あわせて訪れてみたかったけど、冬の間は営業をしていないので今回はパス。ビールだと体が冷えるでしょうが!・・・というわけではないと思うので、そもそも冬はこのあたりに観光客があまり訪れないのかもしれない。
我々は、また六日町に戻ってきた。今晩の部屋飲み用に、飲み物食べ物を買い込んでおくためだ。ちょうど六日町の駅前にスーパーがあったので、そこでお買い物をする。
僕はこれまで知らなかったのだけど、六日町は「温泉郷」を名乗るくらい、湯の里らしい。町中のあちこちに足湯がある。
時間がどうしても余るようなら、市街地内の足湯巡りをするのもいいな・・・と腹算用をしていたのだけど、さすがにそのオプションプランが実行されることはなかった。もう夕暮れだ、早く宿に向かわなくては。夕飯前にフロはもう時間的に無理。夕食後になる見込み。
六日町駅からやや南に向かったところに、今晩の宿がある。
宿の手配はたっぴぃさんがしてくれたので、僕はノータッチだったのだけど、宿の名前を聞いて「変わった名前だな」という印象を持った。というのも、名前が
「六日町温泉郷 彩食一心 金誠館 -グレースコート・レアリス-」
というものだったからだ。
温泉旅館だと聞いていたので、前半部分までは理解できる。しかし後半だ。カタカナで名前がついている。これはなんだ?サブタイトルだろうか。それとも、「金誠館」と書いて、「グレースコート・レアリス」と読ませる、キラキラネームなのだろうか。謎だ。
17:46
カーナビの指示に従って車を走らせる。ナビが「目的地周辺です。案内を終了します」と自信たっぷりに宣言したときに目の前にあったのは、この建物だった。
「おい、ラブホじゃないかこれは?」
「さすがに場所を間違えたんじゃない?」
車内から困惑の声。「金誠館」という名前からは想像もつかない、洋風な建物が建っていたからだ。ラブホ呼ばわりするのは宿にかわいそうだが、本気でそう思ったのだから仕方がない。
「ええ?本当にここ?ここでいいの?」
「もし違ったら、ダッシュで逃げよう」
そんな話をしながら、駐車場に車を停めて降りる。
すると、駐車場の奥には洋風の小さなお屋敷があった。ややや?なんだなんだ?
しかもその右隣には、独特の建造物が。
「あー、これ、結婚式場ですわ」
それ以外考えられない。
我々一同、珍しいものでも見に行くように、この邸宅に通じる鉄柵にへばりついて中の様子をうかがう。
「うお、プールがあるぞプールが」
「すげえ、地元の人はここで結婚式を挙げるのか」
大興奮。
いやちょっと待て、ここがラブホではなくて結婚式場なのはわかった。で、そこに今晩は一泊する、ということかね?
「温泉旅館部分が『金誠館』で、結婚式場部分が『グレースコート・レアリス』なのかな」
なんとなく状況が飲み込めてきたけど、それにしても変わった作りだ。
「もし間違っていたら逃げよう」
という思いを新たにしながら中に入ると、ちゃんとここは我々の宿だった。
フロントがあり、そこでチェックインを行う。
「まさかあそこが我々の夕食会場じゃないだろうな?」
たっぴぃさんが指を指す。
そこは、ガラス張りの部屋で、喫茶店のような作りになっていて外から丸見えだ。どうやら、式の参列者向けのウェイティングルームらしい。
その部屋の中央に、なにやら食事の準備がされている。カセットコンロの上に鍋がのっているし、温泉旅館の食事で必須アイテム、固形燃料もちらっと見える。
椅子の数は・・・ああ、5つある。僕らのっぽいな。
「さらし者みたいですね」
まあそれもまた楽しい。道行く人に見せつけてやるさ!僕らの大宴会の様子を!
とはいっても、車社会のこの地において、外を徒歩でてくてく歩いている人なんて滅多にいないのだけど。
チェックインの手続きが行われている間、フロント周りを見て回る。
「温泉旅館」だと思って見ると、不釣り合いなものがいっぱいあるので面白い。そう、ここはあくまでも「結婚式場」だ。
仰々しい扉、そしてその頭上にはシャンデリア。
この奥に、結婚式場があるのだろう。中をのぞいてみたかったけど、勝手にそれをやるのはまずいのでやめておいた。
「最幸の日のために整顔エステ」と書かれた黒板が掲げられたバスタブ。
そうか、新婦は結婚式に向けてあれこれ準備があるんだな。
ウエディングドレスが飾ってあったりもする。
ええと、僕ら温泉旅館に泊まりに来たんだよな?
この違和感がむしろ楽しい。ついさっきまで、「お風呂お風呂、温泉温泉」と口走っていたのに。お出迎えしてくれたのはウエディングドレスだもんなぁ。
「邸宅貸切ウエディング」だって。あ、さっき駐車場から見えた建物だ。
「一軒家をまるごと貸し切って楽しんじゃおう♪」と書いてある。ホームパーティー感覚で楽しめる、ということか。でも一体どうやって楽しむんだろう?
「ちょっと風呂に入ってくるわ」とか、「眠くなったから二階で寝てくる」とかそういうの、ありなんだろうか?
ちなみに10名様貸切で500,000円。高いのか安いのか、相場観を僕は知らないのでよくわからない。しかしご時世だな、「結婚式というのは、両家の一族郎党がずらりと並ぶので大人数になる」という時代は過ぎにけり。10名様プランをこうやってバーンと提示するのが当たり前の時代だ。10名ってことは、新郎新婦それぞれ5名ずつの友達や家族しか呼べない、ということになる。両親が存命なら2名、そこに兄弟を足したら、友人なんてほとんど呼ぶ余裕がない。
結婚式を大々的に挙げたくはない、でも一応けじめとしてコンパクトには開きたい、という人向けなのだろう。こういう選択肢を式場も用意しているというのは良いことだと思う。
あ、このパンフレット、施設名は「グレースコート・レアリス」になっている。さすがに「金誠館」という名前は出てこないんだな。
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