13:28
越後湯沢駅を出る。
ひゃん!という感じの寒さを感じ、一瞬身構えてしまう。とはいえ、雪はずいぶん少なくなっている。道路は完全に雪がないし、少し先にある山も、完全に真っ白というわけではない。
昨年ほど雪が少ないというわけではないけれど、豪雪!ザ・雪国!という雰囲気はない。
しかし、それはここがまだ越後湯沢だからだ。これが十日町、まつだいへと山奥に向かっていくと、もっと雪が深くなる。今年はどうなんだろう。
頭をよぎるのは、昨年のレースにおけるバッドコンディションだ。僕らは「レースを楽しむ」とか「好成績を残す」なんてことをあんまり考えていないので、「できるだけ楽に、最短距離で」ゴールしたいと心底願っている。そんな中、グッズグズの雪質で、一歩歩くたびに足腰に負担がかかる昨年は相当しんどかった。さらに、レースコースがいつもよりも長くなってるし!
「どうか雪がたくさん降っていますように」
それが我々の願い。
これまで3回は、越後湯沢からそのままほくほく線に乗ってまつだいに向かっていた。これまでの宿泊地が天下の名湯・松之山温泉だったからだ。
しかし今年の宿は六日町。越後湯沢とまつだいの間に位置する場所だ。ほくほく線で宿に向かうことも可能だけど、なにかと車があった方が便利だ。このため、ここからレンタカーを1泊2日で借りる手はずになっている。
越後湯沢駅からちょっと歩いたところに、ニッポンレンタカーがある。そこで車を借りる。
5人が乗るために借りた車。普段はコンパクトカーしか乗らないので、この手の車には乗り慣れていない。
なによりもびっくりしたのが、安全装備関連の充実だ。スバルが売りにしている「アイサイト」が搭載されていて、それを初めて使ったのだが、「うおっ、気持ち悪ぃ!」と思わず声を上げてしまった。
というのもこの車、前の車を追走する機能が備わっているからだ。衝突安全機能があって、前の車に接近しすぎたら自動的に減速する機能というのは理解の範疇だ。しかし、前の車が加速したら、勝手にこっちの車も加速するというのは、わかっていても慣れなくて気持ちが悪い体験だった。
「加速=悪、減速=正義」というイメージが、乗り物の運転で安全を確保するためにあるけれど、その「悪」の行為が自動的に行われているのだ。頭が混乱してしまう。
同じ印象は、後にハンドルを握ったたっぴぃさんも感じたようで、「きもちわりー」とぼやいていた。
今これを書いているのが2017年。あと10年後くらいにこの文章を読み返すと、「馬鹿じゃね?当たり前でしょこれくらいの機能は」って思うのかもしれないけど。
14:03
今日の目的は、夜までに六日町の宿に到着すること。越後湯沢から六日町は、さほど距離が離れていないので車で30分程度だ。もっと時間を短縮したければ、高速道路にのればいい。さらに5分は短縮できる。
宿には、17時にはチェックインしたい。おそらく18時からご飯だろうから、それまでに温泉に浸かろうと考えると、だいたいそのくらいの時間の到着が目安だ。
つまり、3時間以上は時間に余裕があるということだ。
観光するしかあるまい!!
いや、そんなに力強く「観光!」と鼻息を荒くすることはないのだけども。
あれこれ欲張り出すときりがないので、「宿に向かう道中に、さりげなくある施設に、しれっと立ち寄る」というコンセプトにとどめておくことにした。本当は、雪国まいたけの工場見学とか、いろいろアイディアがあったのだけど。それはまた今度に。
まず最初に訪れたのが、「道の駅 南魚沼」。
このあたりは内陸部の谷間にあたる場所なのに、かなり広い平野がある。そしてその平野部のほとんどが稲作のための田んぼなので、冬の間は広大な雪野原になっている。視界がものすごく広い。
そんな中に、ボーン、と急にでかい建物が建っているので、「なんだありゃ!?」となる。そんな場所が、道の駅南魚沼。
建物がでかいだけじゃない。広場や付帯施設も含めると、かなり贅沢な土地の使い方をしている。えっ、地図の上に描かれている建物って、農産物などを売る売店じゃないんですか?観光交流館?
診療所も併設している、というのがおもしろい。
全国1,000カ所以上も道の駅があるご時世。どこも創意工夫で勝負をしているのだけど、どうしても似たり寄ったりの雰囲気になりがちだ。なので、後になってみるとあんまり印象に残らない道の駅、というのは多い。
でもそれは当然か。スーパーが町中にたくさんあるけど、それぞれがインパクト大というわけではないのと一緒だ。もう今や、道の駅というのは観光地というよりも、お買い物をする日常的な場所、といえるくらい数が多くなっちゃった。
そんな中、この道の駅では何やら攻めているぞ。
ハバネロとかジョロキア、といった激辛の唐辛子が売られている。このあたりの農家さんで、激辛好きがいるのだろうか?
ししとうや青唐辛子を売っている道の駅、というのはあちこちで見かける。一袋どっさり入って100円、なんて値付けがされていることが多く、僕もよく買って帰るものだ。しかし、ハバネロ、さらにはジョロキアまで売っているのは初めて見た。
「山古志村あたりが唐辛子の産地ですね」
たっぴぃさんが教えてくれる。たっぴぃさんは、以前中越地震の際の復興支援などで、このあたりのことについては詳しいそうだ。山古志村といえば、2004年に発生した中越地震のために村に通じる道が分断して孤立し、村自体も大きな被害を受けたことで知られている。今は、長岡市と合併して自治体としては残っていない。「旧山古志村」「山古志地区」という言い方になっている。
そんな場所で、唐辛子が有名だったとは。
新潟=米どころ、という先入観がある。でも当たり前だけど、このあたりの人は米だけ食べて生きているわけじゃない。また、稲作に向かない土地だっていっぱいある。だから、野菜も作るし、生きていくための一通りの営みはやっている。
そういう話を聞くと、なんだか唐辛子系のものをお土産にしたくなる。中越地震の復興も兼ねて。
そんなとき、見かけたのがこれ。「かぐらすこ」。
山古志地区の神楽南蛮の熟したものを使って作った、タバスコソースのようなもの。
原材料は酢、塩、神楽南蛮。
食べ方・使い方は普通のタバスコと一緒。ピザとか、パスタにかけて食べるとよろしい。
ラベルを見ると、凶悪な辛さのペッパーソースに見える。なにしろ、唐辛子自らが、「カラィィィ」と悶絶しているのだから。でも、そこまで辛いものではない。しかし、タバスコの素っ気ない味わいと比べると、こちらの方が遙かに濃厚で、うまい辛さだと思う。
150mlの小瓶で600円くらいするので、安いものではない。さすがにワールドワイドに大量生産しているタバスコと値段を比較するのはかわいそうだ。でも、値段なりのうまさはあるので、「辛さはほしい。でも、タバスコはいやだ」という人はどうぞ。
それにしても驚きなのが、この光景よ。
米どころ新潟なので、当然おかき・せんべい・あられのたぐいがたくさん売られている。しかし、だからといってこんなに山積みになっちゃいますか?というレベル。
よこさんの身長を超えるところまで、積み上がっている。
これ、売れ残って在庫が山積み、というわけじゃないですよ。それだけ売れる、ということなのだろう。材料があるから豊富に作れるし、作っただけ売れる!というわけだ。
実際、よこさんたちはここのせんべい(だったっけ?)を買っていた。かさばるので、旅人がお土産に買って帰るにはちょっと邪魔にはなるけれど。
それを考えると、柿の種ってのはすごいよな、お土産に適したサイズだ。亀田の柿の種みたいに小袋に少量ずつ入れてあってもいいし。
つくるす、という謎の袋があった。
なんだこれ?
しばらく、点滴の袋みたいなものをムニムニと触って考えてみて、ようやく気がついた。あ、ピクルスを作るための酢か!「作る、酢」だな。
酢のほかに、いろいろな香味野菜が入れられている状態になっていた。ちょっと惹かれたけど、重たくなるから今回はパス。
「ほほう」
農産物直売所の隣にある飲食店のメニューを眺め、一人つぶやく。若干そわそわしてしまう。先ほど「大爆おにぎり」を途中で飽きるまで食べたというのに。
今日一緒に行動している仲間となら、「僕、ちょっと腹が空いたのでメシかっこんできていいッスか?」といえば許してくれるだろう。ついでに、「じゃあ僕も」という人が出てくるかもしれない。
なんでそんなことを考えてしまったのかというと、お店の名前に依るところが大きい。
「ちゃわんめし たっぽ家」。
「ちゃわんめし」って、当たり前のことを言っているにすぎないけど、店名に冠されると、なんだか食欲が沸く。どうしてだろう。逆に、「どんぶりめし たっぽ家」という店名だと、それはそれで魅力的だけど、よっぽど空腹でもないとそそられないと思う。
妻有ポークの角煮定食などがうまそうだ。
さすがに「ほほう」と言ったっきり、そこから足は先に進まなかった。今晩は宿メシも待っているし、これ以上あれこれ食べるのはやめておこう。
この道の駅南魚沼、農産物直売所の裏側にある建物が巨大。
これも・・・道の駅の一部、ということなのか?
今泉記念館、と観光交流館、と地図には書いてある。今泉?誰、それ。
物珍しさに、館内に迷い込んでみる。
中では、五人囃子に笛太鼓で我々をお出迎え。
小さな喫茶スペースがロビー部分にあり、そこではコーヒーが注文できた。
「南魚沼の名水が生み出す深い香りとコク。」
だって。もう、水がうまいとチートモードだよな。「名水で淹れたコーヒー」だけじゃなく、「名水で炊いたご飯」「名水で煮た煮物」とか、なんでもありだ。「名水で打った蕎麦」というのもありだし。
「こういうチートモードはけしからんので、飲んでおかないと」
頼んでみることにした。しかも、せっかくなのでトールサイズで。
雪野原を見渡すことができる、大きなガラス張りの席で、名水コーヒーを楽しむ。うん、良き哉。
それにしても、こういうガラス張りの建物だと、暖房を止めた瞬間から室温がシューッと下がっていくんだろうな。空調代がかなり高くつきそうだ。
この建物の名前の由来となっている、「今泉隆平さん」のことについてお勉強しておく。
長ぐつのレンタルをやっている、というのが面白い。
僕らみたいな、普段は雪をみない都会モンが「ふわー、雪だー!」とテンションが上がった時用、ということなのだろう。靴を借りて、つぼ足になるような雪原を走り回ってみないかい!?というわけだ。
・・・んー、パス。
途中、「ぽん酒館」の利き酒コーナーで常時ランキング上位に位置する銘酒、「鶴齢(かくれい)」の蔵元の横を通ったりしながら、北上を進めていく。
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