
17:33
上高地バスターミナルにある、早起きのお店たちはすっかりシャッターを閉めていた。開店が朝早い分、閉店もとんでもなく早い。

それもそのはず、17時半にもなると上高地は人がほとんどいない。見てよ、この閑散としている様を。
「ほとんど」という表現を使ったのは、唯一ベンチに一人だけ座り込んでいる人がいたからで、このひとがいなければ「皆無」だった。
上高地タイム、というのはこんなものだ。
マメヒコの安曇野遠足を一人立ち去る際、井川さんから「もう帰るの?もっとゆっくりしていきなよ」と言われたけれど、「いえ、もう戻らないと日が暮れるんですよ」と答えた。「えー?」と怪訝そうな顔をされたし、我ながら何を言ってるんだ、15時台にサヨウナラしておきながら・・・と思ったものだ。
しかし、現実はこれ。幸い、小梨平ではまだ食堂も売店も風呂もやっているので助かるけれど、それもあと1時間の世界。さて、早くテントに戻らないと。

17:38
河童橋あたりにさしかかると、まだまだこの界隈は人がいた。
バスターミナルに人がいないでここには人がいる、ということは、この人たちは五千尺ロッヂなどのホテルで一泊する人たちなのだろう。
中にはTシャツ1枚のツワモノもいるけれど、大半の人がダウンジャケットやレインウェアを兼ねるハードシェルを羽織っている。上高地一泊ということで服装の気合いが違う。

17:39
明神岳をまじまじと眺めてみる。山塊なので、どれが主峰で、2,3,4,5峰なのかわかりにくい。しかも明神岳主峰から奥に向かうと前穂高岳だ。
答え合わせをすると、写真中央のピョコンと飛び出た岩峰が2峰で、右側のゆったりしたシルエットのピークが5峰、らしい。駄目だ、覚えられる気がしない。
そして、2峰の左奥に見える白い雪を纏ったピークが前穂高岳。距離がある程度遠いので、少し低く見えるけれど実際は明神岳よりも高い。

それにしても岳沢と穂高連峰の美しいことよ。いくら見ても飽きない。
岳沢の下のほうでは、谷の一部が茶色に染まっていた。雪崩が起きて土砂が崩れたのだろう。

17:40
振り返って、焼岳。この時期の夕焼けは焼岳方面に沈んでいく。空気が白く霞んできはじめた。

18:01
テントに戻り、いろいろ身支度をする。風呂に入る準備、買い出し準備、それから日没までの時間を楽しむためのツール類の準備。
すでにテント内は薄暗いので、LEDランタンをテントの天井から吊るす。
この吊り下げられたランタンは、手に取ると懐中電灯にもなるし、逆さにすれば自立する。明るさ調整は無段階。便利だ。筒状のシェードを伸ばしたり縮めたりすることで、明るさの拡散度合いをコントロールできる。

18:13
風呂?いや、まだまだ!風呂はギリギリまで待ちたい。入浴可能時間30分前まで耐えて我慢して、そこでバーンと風呂だ!
というのも、お風呂に入ってしまうと俄然「一日の終わり感」が出てきてしまう。18時過ぎにまったりと終わりモードに入るのはあまりにもったいない。
日が暮れるまで、まだ黄昏の明るさがこの空間に残っている時間はとっても貴重。なので今のうちに上高地満喫をしよう。
そこで、まずは売店に行ってインスタントコーヒーを買ってきた。僕は夜の眠りが妨げられるのを嫌うので、夕方以降にはコーヒーを飲まない。でも今日は飲んじゃう。お酒を飲まない以上、「ある程度間が持つ飲み物」というのはホットコーヒーに限る。

いろんな種類のスティックが売られていて目移りしたけれど、今日は「ネスカフェエクセラ」をいただく。ブラックで。
たぶん規定の容量よりもかなり多くのお湯を入れたと思うけど、まあいいや。カップスープにしてもコーヒーにしても、つい取説にかかれている分量よりも多くしてしまうんだよな。貧乏性というかなんというか。

18:17
岳沢を見上げながら、読書を楽しむ。静かな時間だ。
ガサガサした音がほとんどなく、耳に入ってくる音、目に見える景色、五感すべてがマイルドだ。幸い、まだ寒さは本格的ではないのでその点でも快適。
これだよ、これがやりたくて上高地に来ているんだよ。大絶景を眼前に、一人静かに過ごす。
(つづく)
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