
宿にチェックインした際、ご主人から渡された「お泊まり3点セット」。
おけ、シャンプー、そして滝の湯の鍵。
「いいですか、夜は私がいなくなるんです。朝までの間、いざというときはこれで自分の身を守って下さい。生きて明日朝、お会いしましょう」
なんてやりとりがあれば映画的だが、「これ、使ってくださいね」と簡単な説明があっただけ。さすがにこんなところでドラマティックな展開があったら、こっちだって困る。療養に来たんだっつーに。殺されるんか、わし。

滝の湯には石けん類はないし、おけも置いていないらしい。みんな、おけを籠がわりにしてマイ石けんやシャンプーを入れて滝の湯にやってくる。だから、備え付けのものなんていらない、というわけだ。なるほど。
浴衣に着替え、準備万端だ。それにしてもユニクロ様々だな、ヒートテックという技術のお陰で、こんな格好のままこの真冬に外に出撃することだってできる。ヒートテックがない頃は、もっと厚着をしていないといけなかっただろう。
なにしろこっちは、一日何度も思い立ったらすぐに風呂に入ろうという腹づもりだ。その都度着替えて、厚着して、脱衣所で脱いで、風呂入った後はまた厚着を着用して、部屋に到着したら脱いで・・・っていうのはイヤだ。

部屋の障子をあけてみたら、ちょうど目の前が滝の湯。なんという便利の良さ。

早速滝の湯に行ってみる。手にするは、「那須温泉浴場組合」の木札がくくりつけられた鍵。青いプラスチックのメダルのようなものが付いている。これ、単なるキーホルダーのようなものかと思ったら・・・。

ICチップなのだった。扉の脇にあるリーダーにこのメダルをかざせば、扉の鍵が開放されるという仕組みになっている。すげー。
いや別に今更これくらいの技術で驚くほどじゃないんだろうけど。現にアンタだって、会社じゃ首からICチップ付きの社員証をぶら下げて、ビル入り口とか居室入り口の出入りの都度認証をやってるだろ。
しかしこういう共同浴場で採用しているのって、ちょっとまだ先進的な取り組みだと思う。恐らく、あたらしもの好き・・・というより、冬は鍵穴が凍るとか、温泉成分のせいで鍵穴の金属が腐食しやすいとか、そういう問題があるからだと思う。好きこのんでICチップを採用しているというわけではあるまい。

滝の湯に潜入してみる。
2泊3日を通じて、ご一緒する入浴客はほとんどいなかった。平日ということもあるのだろう。なんたる穴場だ。これまで「那須湯本は混む」という先入観を持っていたが、考えが改まった。

温泉成分の分析表。
酸性含硫黄・カルシウム・硫酸塩温泉(硫化水素型)、と書かれている。源泉温度は68.1度で、pHは2.53。「知覚的試験」という欄に、
「無色澄明で強い硫化水素息および酸味を有する」
と書いてある。なんだか漢字がいくつも間違っていてとても残念な内容だけど、字は奇麗だ。根はまじめは人なんだろう。
このあたり一体は谷ということもあってか、ずっと硫化水素の臭いが充満している。風向きによっては臭う、とか源泉周辺だけが臭う、というわけではない。周囲数百メートル規模で硫化水素くさい。この地を訪れただけで、なんだか別世界に来感じがして、癒やされるような気がする。こんな空間に滞在してれば、そりゃあ療養効果は高いだろう。きっと。
と勝手に思っているのだけど、この地を訪れて数分後には臭いに慣れてしまい、すっかり硫化水素の臭いには鈍感になってしまった。トイレの中にいると、臭いを感じなくなるのと一緒だ。
まあ、臭いで癒やしってのはあんまり期待しないでおこう。それより風呂だ風呂、それが一番の目当てだ。
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