
18:11
宿の廊下に、カラーボックスの本棚があることに気がついた。これまで何度もここを歩いていたのに、足早に通り過ぎていたから見落としていた。漫画や雑誌が置いてあるらしい。
山小屋でもユースホステルでもそうだが、ざっくばらんとした宿ではこういう「置き土産型」のミニ図書館がよくある。善意で宿泊者が読み終わった本を寄贈していく。
パソコンなんて宿に持ち込まないで、こういう蔵書を一日中ぼんやり眺めることができりゃ上出来だ。それは僕にとっては悟りの境地であり、少なくとも今回の2泊3日療養では無理だ。少し改善したとはいえ、まだまだあくせくしている。
現に、「明日はもう帰京しなくちゃいけない」とこの時間にして焦りを感じている。
今このタイミングで焦っていたのでは、一泊二日の旅行なんて無理だ。思わず苦笑いしてしまう。

で、どんな本があるのかと思って手にとってみたら・・・。
おや。フランス書院。すっごく久しぶりに見た。昔は本屋でもこの黒背表紙が本棚の一角を占めていたし、キオスクなんかにも必ず売られていたものだ。最近でもそうなのだろうか?
文章で味わう淫靡な世界。昔は、一文字一文字に興奮したものだ。それは未熟者だからなのか、それとも想像力豊かだったからなのか。巧みな比喩表現や当て字に感心しながらも、自分の心拍数が昂ぶった記憶がいまでもよみがえる。
果たして今これを読んで、往年のような興奮は得られるのだろうか?・・・たぶん無理な気がする。大人になると見えなくなるファンタジー世界。大人しか読んじゃいけない本ではあるけど。やっぱりこういうのは、背徳感があることでより一層盛り上がる。
どんな中身なのか、読んでみればよかった。「へえー、こんな本があるのか!おっと写真写真」と写真を撮るだけ撮って、そのまま本棚に戻してしまった。恥を知れおかでん!昔は、こういう本を手にしたら、「裏山の秘密基地」に隠したくらい大事にしていたのに。雨で濡れてページ同士がくっついた本を、そーっとそーっとはがしたり、若い頃のお前は一体どれだけ頑張ってきたというのか。それが今やこの体たらく。
「年相応に落ち着く」っていやな言葉だな。もっとソワソワしていたいものだ。
あっ、そうやってソワソワしているから、こうやって療養生活に追い込まれるのか。

19:13
雪が降る那須湯本。滝の湯がぼんやりと照らされている。
こんな屋外でも、ストーブでぬくぬく暖まってからだと体が冷える前に滝の湯に到着できる。外湯といっても内湯に限りなく近いのは本当に素敵。

22:21
とはいっても外はこれだけの雪だ。僕が那須湯本に訪れてからも結構な降雪だ。
テレビで、「フィンランド人はサウナが大好き。サウナでのぼせたら、外に出て雪にダイブしてほてりを冷ます」というのを見たことがある。ここでもそれができるな。滝の湯でのぼせたら雪にダイブ。・・・たぶん、心臓発作を起こすと思う。やめとけ。病院のお世話にならないように自主的に療養に来たのに、結果的に病院送りって、ばかばかしい。

22:24
一日に何度もお風呂に入っていると、回数を重ねるたびに気持ちが緩むのがわかる。しかも手に取るように。
やっぱり、こういうのは二泊三日以上の日程を確保するのが大事だ。2日目が、丸一日ゆっくり過ごせるからだ。一泊二日だと、くつろげない。特に僕の場合、「さあ風呂にも入るし、宿の中を探検するし、メシも満喫するぞ。寝ている暇なんてない!」となる。しかし二泊以上になれば、探検しようが満喫しようがのんびりとできる。肝心の風呂なんて、何度も入ってりゃ新鮮味がなくなり、最後のほうになれば仏頂面しての入浴だ。その「興奮がなくなる」ときこそが、真の療養スタートだ。
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