疲れ果てて雪国【那須湯本】

滝の湯

15:56
滝の湯の浴室。全面板張りで気持ちよい空間。思ったよりも広々としており、共同浴場でありがちなギュウギュウ詰めではない。浴槽は真ん中で仕切られて二つある。湯温の高低を使い分けができる仕組みのようだ。

カラン

注意深くこの見慣れぬ光景を観察し、この場における「お作法」を学んでいく。

えーと、壁側におけが置いてあるぞ。そのおけめがけて、やや高い位置にあるパイプから温泉がじゃばじゃば供給されている。えーと、これは打たせ湯かな?あぐらをかいて打たせ湯を使うにはちょっと低すぎるので、床に仰向けになって使うというのはどうだろうか。

いや、ダメだダメだ、冗談でもそんなことをやってみろ、後からやってきた人に「大変だ!のぼせて倒れている!」と救急車を呼ばれてしまう。それ以前に、こんな酸性のお湯を打たせ湯にしたら、水しぶきが目に入ってギャース、ということになる。目の殺菌をしたいのでもなければやめとけ。

壁には、

「温泉にはすぐれた洗浄力と殺菌力がありますので、石ケンボディーシャンプー等は使用しないで下さい」

と書いてあった。あ、なるほど、だからさっき宿で渡された「三点セット」には石けんが入っていなかったのか。シャンプーだけが用意されていて、なんだこりゃ?と思ったのだけど。何かのトンチなのではないか、としげしげとシャンプーのパッケージを熟読してしまった僕の深読みした労力を返せ。

ちなみにこの滝の湯、ボディーシャンプーはNGだけど頭のシャンプーはOKとなっている。

お湯の調整1
分水嶺

浴槽に目をやる。二つの浴槽の間に、独特の形をした木の樋が伏せるような形で置いてあり、その穴から温泉が供給されていた。左右両方の浴槽にお湯が注がれているのだが、その穴には木製のすりこぎみたいな棒が突き刺してある。なんだろう?と思ったら、この棒の突っ込み方次第で湯量を調整する、というものだった。ぐっと奥に押し込めば、やや流量が減る。緩めると、お湯の量が増える。非常にローテクだ。

お湯の調整2

ただし、蛇口でもなんでもない「穴に木の棒を突っ込んだだけ」では到底根本的な湯量調整はできない。なので、さすがに大本のところにバルブがあった。この赤いバルブをひねれば、二つの浴槽に注ぐお湯の量が増減できる。

で、大本をコントロールした後、左右の「すりこぎ棒」の突っ込み具合を調整すれば、「左の浴槽は熱め(注がれるお湯の量が多い)、右の浴槽はぬるめ(お湯の量が少ない)」といったことができるようになる。いや、どっちが熱くてどっちがぬるいのが正解なのか、僕は知らないのだけど。

ガッツポーズ

源泉が60度を超えるので、激アツだったらどうしようと思ったが大丈夫。濃厚なお湯にとぷんと浸かり、思わずガッツポーズ。

この写真に限らず、僕がお風呂に入っている時の写真はこうやってガッツポーズが多い。これは、カッコつけようとしているからではない。この後撮影が済んだら、すぐにカメラを片付けないといけないからだ。そのとき、濡れた手・・・特に強酸性の温泉がついた手・・・でカメラをさわるのはまずいので、両手をお湯の中に突っ込むことができないのだった。で、結果的に「ガッツポーズを決めて勇ましいおかでん」という写真になっている。実は全然そうではないのだけど。

屋根

とにかく、長湯をすることがこの療養のテーマだ。回数を多く、しかも一回あたりを長く。えーいこの際だ、湯あたりしたって構わんぞ。いいぞもっとやれ。

「長湯するだけ」なら、自宅だってできるはずだ。しかし、自宅にいるときはどうもソワソワして、できそうでできないものだ。風呂から上がったら食事の準備をして、その片手間にあれやってこれやって、と考えていると、どうにもゆっくりと湯船に入っていられない。しかも、自宅風呂だと、「風呂に入っている時間も有意義に過ごしたい」とかなんとか称して、防水スマホを持ち込んでずっとネットを見ていたり、本を持ち込んだり。一瞬たりとも脳を休ませることができなかった。

それがどうだ?こうやって温泉に来ていると、さすがに風呂に浸かりながらスマホをいじるわけにはいかない。誰かと遭遇するかもしれない公衆浴場で、スマホをいじっているなんてのは非常識にもほどがある。だから、強制的に、いやがおうでも「風呂に入りながらスマホ」は禁止だ。

自宅で「今日から風呂スマホ禁止な」と決めても、なかなか実行できないものだ。できたとしても、それを「我慢」と感じているなら、いずれ「不満」に変わり、長続きはしない。しかしこうやって滝の湯でまったりしていると、「我慢」でもなんでもなく、楽しんでスマホ無しの入浴時間を過ごせている。

今回の療養の狙いはまさにこれだ。情報を遮断し、選択肢をそぎ落とし3日間を過ごすのだけど、それが決して「イヤじゃない」どころか「楽しい」。我慢せずして、心と体を癒す。

前向きで身体と精神をいたわれるのだから、言うことなしだ。

ほっと一息

16:49
50分くらい風呂を出たり入ったりして過ごし、ようやくいったん宿に引き上げることにした。

非常にくつろぐことができたが、やはりまだ脳が馴染まない。「なにもせず、ひたすら湯に浸かる」ということに違和感を感じる。でもこれは慣れの問題だろう。一発目の今回でも、これだけの時間風呂に入っていられたのだから、まずは上出来だ。

入浴時間

入浴時間は朝5時から夜11時まで。一晩中入浴ができるというわけではない。

でもむしろ、こうやってあれこれ制約がある方が今の僕にとっては望ましい。とにかく今の僕には、「選択肢がある」ということが苦痛だからだ。

「風呂が夜11時まで」となると、必然的に「夜寝る前にひとっ風呂浴びておこう」という一日最後のお風呂は10時半頃になる。そして風呂から帰ったら、「じゃあもう寝よう」ということになる。必然的に、自分の生活の枠組みが固まってくる。

もし24時間入浴可能です、となっていたら、「入りたい時に入ればいいんでしょ?夜中の1時とか2時とか」ってことになる。生活リズムは崩れるし、「いつ寝ようか?」という判断(すなわちこれも選択肢)が発生する。選択肢があるということは、何をどうすればベストなのか悩むことになり、あらゆる可能性を模索し、不安になってしまう。そういう強迫観念を解消させたいのが今回の療養なのだから、「はい、風呂は11時までという決まりなのだから、それまでに風呂に入って、遅くとも12時には就寝しろ。決定」となっている方がすっきりだ。

さらに、翌朝のご飯の前に朝風呂に入りたいよね・・・となると、起床時間だっておのずと決まってくる。寝る時間と起きる時間、そしてメシ時間が強制的に決まれば、もう「生活リズムを整える」という観点ではバッチリだ。

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