
11:21
民宿街の突き当たりが鹿の湯。堂々とした木造建築。いつもはお客さんがひっきりなしに出入りしているイメージだが、今日はひっそりとしている。
「行こう、じきここも腐海に沈む」
思わずつぶやくが、通り過ぎるわけにはいかん。今日はここでほっこりするのだ。えへんえへん。
滝の湯に浸かってればお金がかからないのに、わざわざ400円を払ってまで鹿の湯にやってきた。それだけ鹿の湯がよい雰囲気の浴室である、ということなのだが、それよりもなによりも「せっかくだから。」という気持ちが強い。
この「せっかくだから」という殺し文句は、時には僕にいろいろな体験を与えてくれたが、今のような状況ではむしろ負担だ。やめときゃいいのに、と苦笑してしまう。

営業時間は案外短いものなんだな。朝8時から夕方6時まで。
山間の温泉なので、夜遅くまで営業する必然性がないのは当然だ。

11:23
お金を払って中に入る。
川をまたいでいる渡り廊下のところには、コインロッカーが並ぶ。誰もいない。

霊泉鹿の湯、と書かれている看板。
どうせ「傷ついた鹿が温泉で体を癒していたのを地元の猟師が発見したのが由来」とかいう話なんだろう。もう日本中あちこちそんなのばっかり。だけど、21世紀の今はどうだ?温泉で癒されている動物って、ニホンザルとカピバラくらいしかいないぞ?どうした他の動物。温泉のよさを忘れてしまったか?
たぶん、動物が気軽に癒せるような温泉は、人間様が全部開発してしまったのだろう。

鹿の湯は、浴室内に湯温が異なる浴槽が6つあるという特徴がある。それぞれの浴槽は2度ずつ温度が異なり、入浴客はその時の気分やテンション、自らを罰したい気持ち次第で湯温を決める。
浴室の奥にある46度、48度の浴槽は、まさに「熱湯風呂」だ。よっぽどの好き物でないと入浴は難しく、プロのリアクション芸人向けのエリアとなる。実際、このエリアにいるのは気難しい顔をしたじい様たちが多い。こういう場所に、面白半分で突撃すると「お作法がなっていない」とじい様に怒られるのでNG。実際、壁には
46度48度は高温です
先に入浴されている方がいらっしゃる時は波が立つと我慢出来ません 声を掛けて静かに入浴するか先客が出られるのを待つか 皆様のご協力をお願い致します
と書いてあった。
「我慢出来ない」くらいの熱湯に入っているとは、絶対に何かの罰を受けているに違いない。女王様に命令されたのか、それともカアチャンに叱られたのかは知らないけど。

鹿の湯は2月、大規模な設備改修工事を行うらしい。この間、休業だそうだ。
あぶねー、2月に思い立たなくてよかった。今以上の雪だろうし、鹿の湯は改修工事だしで、本当に宿に雪隠詰めになるところだった。
いや待て、むしろそれが本来望むところの「療養」じゃないんか?今「あぶねー」って口走っただろ?コラ!

12:22
さすがに僕は46度や48度といった高温風呂には入らなかった。どこかお出かけの帰り、「ひとっ風呂浴びてから家に帰るか!」なんて時は、一発勝負だからガツンと46度くらいは挑戦したと思う。しかし昨日からずっと温泉三昧で、「温泉に対するがっついた気持ち」というのは随分とスポイルされてしまった。もうね、ただただまったりと42度くらいのお湯でのんびりですよモウ。
6つの浴槽をうろうろすることはなく、ほぼ一つの浴槽で過ごした。

12:27
鹿の湯を後にする。さて、頃合いもよろしいし、お昼ご飯を食べに行こうか。
宿に滞在していると、夕ご飯の時間が決まってしまう。しかも18時から、と日常生活と比べるとかなり早い。だから、夕食までにおなかを空かせるためにはお昼ご飯を早く食べておかないといけないし、あんまりお昼に食べ過ぎると夜食べられない。
よく、「生活リズムを整えましょう。」と医者は言う。メンタルヘルスの初歩の初歩とも言える言葉だ。患者だって、その言葉自体は十分に理解している「つもり」だ。しかし実際は「理解しているつもり」なだけであって、それを実践すらできていないのではないかと思う。いつの間にか、「生活リズム」というのを、「早起きする」ということだけに矮小化して考えてしまうからだ。
でも実際はそうじゃない。早起きするためには早寝しなくてはいけないし、「一日三食食べましょう」といっても、ダラダラしていて昼食が14時過ぎで、夕食は23時・・・じゃ意味がない。その点今回の温泉療養だと、
- 朝飯が7時半、夕飯が18時。だったら、昼は12時過ぎには食べないといけなくなる。
- 風呂は23時まで。風呂入ったらあとはもう寝るだけっていう気になる。だから24時には就寝できる
- 朝飯前に風呂に入ろうと思うと、7時前には起床しなくちゃいけないよな
と「1日24時間の生活リズム」の大枠が自然と固まってしまうのだった。あれをしようか、これをしようかといった余計な選択肢がなく、淡々と一日をこなすだけ。選択肢がないのでストレスが生まれない。でも、がんじがらめかというとそういうこともない。
しかも、起きている間は温泉三昧だ。リラックスしながら疲労困憊していく時間を過ごすわけで、メシが美味いし夜もよく眠れる。これ、「おかでんメソッド」として広く普及できないものだろうか?
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