上高地、COVID-19の間隙を突いて【徳沢キャンプ2020】

11:44
11時半、横尾を退却する。今日はこのあと、徳沢と明神を経由して上高地小梨平まで後戻りする。今晩は小梨平のケビンで一泊だ。

テントを持参しているにもかかわらずケビン泊なのは贅沢だが、いしのたっての希望だ。

ケビン泊だと現地に到着してからの準備と、翌日の撤収が楽だというイメージがある。でも実際には、山用のテントを設営・撤収するというのは非常に楽な作業なので、所要時間はほとんど変わらない。

逆に、ケビン泊だと台所があるし、鍋やお皿が充実しているので、ついついちゃんと自炊しようという気になる。そのため、キャンプ泊よりもゴソゴソ家事をやっている時間は長くなるかもしれない。

12:00
誰もいない道を歩く。快適。

12:16
新村橋。

よく見ると、横尾大橋、明神橋、河童橋といった梓川にかかる他の橋と比べてシンプルな構造の小さな橋だ。そのくせ、長さがある。僕らは歩いていないが、ここを歩くと相当グラグラと揺れるだろう。

もったいないことをした。2022年、この橋は架替えのため取り壊しとなった。

12:32
徳沢園に戻ってきた。なんやかんやで、横尾から1時間はかかった。

いつもなら徳沢園の軒先には大勢の登山客がザックを置いて休憩しているのだが、今日はCOVID-19の影響で人がとても少ない。

時間的にはここでお昼ごはんを食べるのがちょうど良いのだが、昨晩・今朝と2食連続でみちくさ食堂のお世話になっている。朝昼晩、みちくさ食堂の料理をコンプリートするつもりはないので、ご飯を食べるのはこの後の明神に行ってからにしよう。

12:34
ソフトクリーム。みちくさ食堂の名物だ。

そういえば、いつもここでは「コーヒーソフト」を頼んでいるので、純粋なソフトクリームを食べた記憶がない。

うん、これはこれで美味しい。

もともと牧場があった場所とはいえ、今ここで牛乳が生産されているわけではない。なので、このソフトクリームの原材料はすべて下界から運んできたものだ。そうだとわかっていても、徳沢園のソフトクリームはうまいし、つい頼んでしまう。なにせ、ひたすらストイックに歩いてきた人がたどり着く場所、それが徳沢だからだ。ソフトクリームの甘さが身体に染み入る。

12:40
デポしておいた荷物を背負い、明神に向けて出発。

2020年時点では、たとえ屋外を歩いているときであっても、マスク着用が不文律のマナーだった。僕は前後に誰もいないときはマスクを外していたが、本来ならそういう行為でさえ他人に見咎められる時代だった。「マスクを着脱している手に菌が付着して、その手を経由して接触感染する」と人々は信じていたからだ。

理化学研究所が所有するスーパーコンピューター「富岳」は日々、人間が生きていると口からどれほど飛沫を周囲に撒き散らすかというシミュレーションに余念がなかった。その研究の中には、「ジョギングをしている人とすれ違っただけで、ジョギングの人の吐く息が周囲に撒き散らされ、飛沫感染する可能性がある」なんてものもあった。そういう研究結果が報じられているので、マスクをしない人は迷惑な人という扱いだった。なんて窮屈な時代なんだ。

12:52
明神岳は本日、ガス。

梓川左岸を歩く。

川の「左岸・右岸」というのはどっちのことを指すのかわかりにくい。その場合、「川の気持ちになって見ればいい」。

上流から下流に向かって流れていく川が見る景色を想像して、右側にあるのが右岸、左側にあるのが左岸。

13:02
徳沢から明神の間は、湧水があったり深い緑があったり川沿いの道があったり、変化に富んだ美しいトレイルルートだ。

一方で、歩く人が多い場所でもあり、どうしても「おっ、前方から人がやってきたぞ」「後ろから人に追いつかれたので、先に行ってもらおう」と自然に集中できない。満喫することができない。

しかし今回はCOVID-19のせいで人がぜんぜんいない。静かな森歩きを楽しむことができて、最高だ。快適すぎる。

人に追い立てられることがないので、路傍の小さなきのこにも注意を向けることができる。

そんなの、当たり前にできる印象があるだろうが、上高地~明神~徳沢はまるで高速道路のようにガチ登山勢が早歩きでガツガツ歩いているので、ゆっくり立ち止まって周囲を楽しむような気分にはなれないのだった。しかし今回だけは違う。

(つづく)

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