
チェックインを済ませ、我々が泊まる「ゆけむり館」に向かう。
安いプランの部屋だけあって、谷底に向けてへばりつくように建っている湯けむり館の、さらに端の方に部屋がある。面白い、移動は面倒だけど、むしろ探検気分が高まるというものだ。
食堂脇にある、それなりの急な階段を下りる。

今ここが地下なのか、地上なのかもよくわからない廊下を歩く。ええと、たぶんここは地下かな?
スキーの乾燥室などが並ぶ。

突き当たり。左に折れる。

Googleストリートビューじゃないんだから、いちいち事細かに説明することはないのだけど。
でも、こうやって蛇行する細い廊下を見ると、ワクワクしてくるじゃないか。写真を撮りたくなるじゃあないか。

水平移動だけじゃないぞ。垂直にも移動するぞ。
エレベーターで下へ。上に行くのではない。
ゆけむり館は、足腰に自信のない方や高齢者が泊まるのは無理ゲーの場所。それは確かweb予約画面にも書いてあったと思う。バリアフリーのご時世だけど、完全エレベーター化はできない、そんな崖に建つのがゆけむり館。

エレベーターの前に、館内案内がある。
いろいろ書いてあるけど、はっきりいってよくわからない。
熟読すると、どうやら湯けむり館には「69号室」まで存在するらしい。でも、番号が何故か不自然に飛んでいて、69部屋あるというわけではない。

エレベーターは1階から3階まで、となっている。
どうやらさっきまでいたフロアが3階だったようだが、じゃあフロントは何階なんだ?と頭が混乱する。フロントからこのエレベーターにたどり着くまでの間に、階段を使って下りているからだ。
ゆけむり館の3階が、本館の1階にあたるらしい。ややこしい。

エレベーターでゆけむり館1階まで下りる。まだまだ先は長い。

謎の空間もある。
こういうのって、いいよな。古い温泉旅館って、「なんだろう?」という不思議がいっぱい存在するから。

こうやって館内図を見ると、楽勝な建物に見えるだろ?違うんだぜ、これが。
こんなわかりやすい建物なものか。このレベルだったら、わざわざ僕が大興奮するわけがない。小学生じゃないんだから。いい歳した大人なんだから。
というか、「617号室」なんてのは今は存在しない。おそらく、今でいうところの「17号室」のことなのだろう。

もうね、赤いカーペットという時点で「レトロな温泉旅館」っぽくていいわけですよ。うん、すごくいい。
それに加えて、複雑な構造。
ほら、すぐに廊下は突き当たりだ。また曲がらないといけないぞ。

窓があったので、外を見る。これまで歩いてきた方向を振り向いた状態が、これ。
たぶん正面のとんがり屋根があるあたりがフロントのある建物だと思う。推測だけど。
もともと、ゆけむり館は鉄砲水で潰れてしまった「日進館」への連絡通路の役割を果たしていた。崖上にある本館から、崖下の谷底にある日進館に向かう道中に部屋を作りました、という感じ。なので、段差が多くて当然。

ほら。エレベーターで1階に下りたからって、あとは水平移動だと油断してるんじゃないだろうな?
そんなことはないぞ、もっとおまえの膝を使え。これは修行だ。部屋に着くまで休ませないぞ。

体力だけ鍛えるのもよくないので、頭も使ってもらおう。
というわけで、行き先表示もややこしい。右やら、左やら。

建物はまっすぐとは限らないのだよ、ゆるやかにカーブすることだってあるのだよ。
地形には抗えません。
人類は、あくまでもちっぽけな存在だということを思い知られる。でも、そのおかげで温泉という資源を使えているわけだ。
そんな深いことは歩きながら考えていないけど、とにかく楽しい。

で、さらに階段。
これだけの段差があるなら、エレベーターを・・・だって?バカいうな、どうせ一泊しかしないのに、エレベーターなんて、いらん。
それにしてもここの従業員さんは、大変だ。移動距離がとても長いうえに、アップダウンもある。大量のリネンや掃除道具を抱えて、行ったり来たりしなくちゃいけない。ただでさえ空気が薄い標高の高さだ。高地トレーニングを日々行っているのに等しい。

わかりやすく、まっすぐ階段が下に向かっているとも限らないぞ。
時には、くねっとヘアピンカーブで下に下ることだってある。
とにかく、あらゆるパターンで我々宿泊客を魅了してやまない。

まだ曲がる&その先には階段。
公式サイトの館内図を見ると、建物の配置は案外シンプルだ。そして、まるで平地にあるかのように見える。
https://www.manza.co.jp/hotel/
しかし実際はかなりの急な崖にへばりつくように建物があるので、ご覧のように通路が複雑に入り組むことになる。

廊下のところどころにある、部屋番号の矢印看板。だんだん表示される数字が少なくなってきた。建物の最奥まで近づいてきた、という証拠だ。

湯けむり館最果ての廊下。
突き当たりに、外に出る扉が見える。つまり、谷底までたどり着いた、ということだ。
昔は、往年の日進館で「ラジウム湯」「鉄湯」(男女入れ替え制)に入るために、このルートを延々と歩く巡礼客が多かったはずだ。でも今や、その建物は取り壊されてしまった。
(つづく)
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