さて、この物件の最大のワクワクポイントであるキッチンを見よう。
カウンター付きの物件なのはさっきと一緒だが、こちらはカウンターの位置が高い。つまり、「テーブル代わりに使う」ためではなく、ここのカウンターはテンポラリ的にお皿や食材を並べるための場所と位置づけられている。
うん、スマート。
すごく素敵。いいじゃないか。この上にコーヒーメーカーとか置いたらいいだろうな。
今回の引越しで、僕は家具・家電をほとんど買いなおす。自分の生活のガラガラポンの仕切りなおしだ。だから、「今家にあるものをどこに置くのか?」という発想ではなく、「この部屋ならこういう家電が映えるな」という発想で物を見る。夢見る楽しいひと時。
キッチンは広い。ガスレンジはビルドイン型ではないが、既に取り付けられていた。コンロの口数がいくつもあるのは便利。ここだとついつい自炊に精を出してしまうな。
キッチンに、引き出しがあるというのはさりげなくありがたい。カテラリー類を収納するとき、引き出しがあると便利だからだ。単身者向けの家で引き出しが備わっているキッチンは、案外少ない。
どうやら冷蔵庫置き場っぽい場所。
コンセントがないので、電源ケーブルを延長して取り回さないといけないっぽい。
あと、どうにもスペースが狭い。大きめの冷蔵庫を置くのはキツそうだ。間取り図を見た段階から、「やたらと冷蔵庫が扁平な形で描かれているな?」と不安だったが、案の定だった。
これ、居酒屋なんかにある、瓶ビールが冷やされている冷蔵ケースみたいなのしか置けないぞ。もう少し、あともう少しだけキッチンの幅を広くできなかったものか?惜しい。
ベランダ。1階なので、夏なんて網戸にしていたらあっけなく部屋に侵入されてしまう。
僕が学生時代のときは、2階に住んでいたのに友達がベランダをよじ登って侵入してきたことがある。折角居留守を使っていたのに。2階でさえそうなのだから、1階ならなおさらだ。NHKの契約を迫る人なんか、ここから突撃してきそうだ。
何で網戸はサッシのようにロックがかけられないんだ?と今ふと思ったが、よく考えたら、ロックしたところで網戸なんてナイフ一つで切り裂くことができるのだった。ロックをつけるだけ無駄ってことだな。
【9軒目:欠点も長所もない、平均的な物件】
8軒目を後にし、9軒目に向かったときには既に22時近かった。食事もとらずにすっかり夜更けになってしまった。本日最後の内見先へと向かう。
「すいません、こんなに遅くまで」
こっちは担当者に平身低頭だ。こうやって何軒も連れて行ってもらうのは、自分の優柔不断のせいではないかという気になってしまう。
もともと、服を買うときでも試着ってのをあれこれやるのは苦手だ。なんか、悪い気がしちゃって。
そんな配慮は全くいらないのだけど、でも気を遣ってしまう引っ込み思案な性格。だからいまこの歳になっても、単身者向けの家を探しているわけで。
でも担当者は
「いえ、22時くらいなら全然普通のことですから」
と意に介さない。むしろ、今日は直帰できることになった、と喜んでいるくらいだった。
担当者は、オフィスにいる同僚たちとのやりとりをひっきりなしに行っている。スマホのLINEで。ご時世だなあ、とその様子を見ていて感心する。しかし、こちらと喋っているときでも、物件を案内している最中でも、スマホをかちゃかちゃやっているのは慣れない光景だ。正直、あまりいい気持ちはしない。接客中だろ、と思う。とはいえ、僕としてはちゃんと物件を仲介してくれればそれでいいのだから、気にしちゃいけないのだろう。精神論ではなく、結果主義でいきたいものだ。
「そのスマホは会社支給?」
と聞いてみたら、自分の携帯だという。えっ、これだけ頻繁に使っている携帯なのに、自腹なのか。びっくりだ。データ通信だけならまだしも、時々音声通話もしている。それもまた、自腹。
これくらい会社で用意してあげればいいのに、と思うが、まあいいや他社のやり方に首を突っ込むのはお門違いだ。
本日最後の物件は、駅から徒歩7分という場所にあった。正直、平凡だ。JRの駅から徒歩7分なので、良い立地条件とはいえる。しかし、さっきまで1分-5分の物件ばっかり見てきたので、とても悪条件に感じる。
しかもこの建物までの道がわかりにくく、途中で迷った。やや大回りして、ようやく到着。
「どうやらこれらしい」と見上げたアパートは、2階建てなのだが形が変だった。普通、マッチ箱のように直方体の形をしているのがこの手のアパートだが、どうも凸型をしている。この写真は、各部屋の窓側を見ているのだが、部屋によって出っ張り方が違う。建物の反対側つまり廊下と玄関がある側は平らなので、部屋ごとに間取りも広さも違うらしい。なんでこんな面倒な作りになってるんだおい。
間取りは24平米。7.6帖の1K。
部屋の作りを見ても、特にワクワク要素はない。駅から7分だし。
見るからに、可もなく不可もなくっていう感じだ。でも、「不可もなく」ということは、「ワクワク感」を求めている僕にとってはむしろマイナスということだ。
不動産屋のスタッフは、
「これはいいと思いますよ!」
と僕を前に熱弁をふるった。僕が冴えない顔をしているから、なおさら。
「デコボコもない部屋なので、家具のレイアウトはしやすいと思いますよ。あと、ここは大手のメーカーが施工から管理までやっているところなので、品質はいいです」
「品質?」
これまで、品質、という概念は聞いたことがなかった。そんなもの、実物を見るまで判断はできないと思っていたからだ。信頼のブランドというのが賃貸不動産の世界でもあるというのか?
「ありますよ。やっぱり大手なので、いいものを作りますよ」
そうなのか。このあといろいろ聞いてみたら、
・壁の厚さとか、しっかりしているものが多い
・前に住んでいた人の退去後、現状回復をちゃんとやるので綺麗な物件が多い
んだそうで。あー、壁が厚いというのは重要だな。それはありがたいけど。だけどなあ、それ以外のワクワク感があまりに足りない。
この日最後の内見となったのは、そういう僕のやる気のなさが反映されてのことだ。不動産屋的には、本日の一押し物件、ということになるらしいけど。
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