【2軒目:駅から徒歩10分弱のオートロック物件】
間取り図現存せず。
次の物件はオートロックだという。オートロックなので、比較的優良物件ですよといわれた。先ほどの物件より駅から近いようだ。少し期待したい。
「あの建物です」と車を路駐したところから指差されたアパートは、駐車場の先にあった。
・・・えーと。駐車場から廊下がむき出しになってますが。
建物の入口に回ってみると、なるほど確かにオートロックだ。そのオートロックの窓ガラスの先に、駐車場が丸見えになっているのがなんとも間抜けだ。
「これ、オートロックの意味がないですよね」
「昔は駐車場ではなくてビルが建ってたんです。そのときは問題なかったんですけど・・・」
不動産屋も言葉を濁す。
「オートロック付きの物件、というだけで、普通の物件より月額1,000円なり2,000円なり割高な家賃設定になってますよね?これじゃそのお金分の価値がないので、それだけ他の物件より割高感があります」
家に入る前からダメ出し。
さっきの家みたいにボロいのは問題外だけど、こうやって無駄なところにお金がかかっているのを放置はできない。
それにしても、郵便ポストがしっかりしてるなあ。これくらい当たり前なのかもしれないけど、ほっとさせられる。「この物件に住む」と決めたとき、そして実際に住みはじめたとき、住人は当然その家にプライドを抱くことになる。で、そのプライドって郵便ポストが綺麗かどうかで随分変わってくるんじゃないかと思うがどうよ。
当たり前だけど、オートロックのインターホンがある。駐車場から簡単に侵入できることを思えば、飾りに等しいけど。でも、迷惑な勧誘を寄せ付けなくする効果は、少しだけあるかもしれない。でも、そんな「保険」のために、割高な賃料を払うのはもったいない話だ。
でも、さっきの「プライド」だけど、やっぱり毎日帰宅する都度、この集合玄関を通り抜けるのってちょっとした優越感あるよな、と思う。これまでの家になかった「わくわく感」がある。
・・・ってな話を後日友達にしたら、「そんなのはすぐに慣れるし、面倒でうっとおしくなる」と一笑に付された。なるほどその通りだと思う。ダメ押しでその友人は、「両手が荷物でふさがっているときに帰宅したら、オートロックってホントにイラッとするから」と言っていた。これまたなるほど、と思った。
今回内見できる部屋は、1階だった。
「・・・駐車場からまっすぐ侵入できる場所ですね」
不動産屋は僕の言葉に言葉を返さず、扉を開けた。
かちゃっ。
おお、さっきの築35年扉とは全く違う音がする。音が軽い。さすがいい意味で年期が入っていない建物だけある。思わずうっとりして、さわさわとアダムタッチで扉を撫で回してしまったくらいだ。
玄関先の下駄箱。
「シューズボックス」ではなく、いかにも「下駄箱」といった感じ。下駄箱の上にスペースがあるので、木彫りの熊の置物でも置け、ということなんだろう。すまん、そんなものは持っていない。
最上段の棚が相当高く確保されているのは、ブーツや長靴を入れることを想定してのことなんだろう。この下駄箱、ふたがないのはいただけない。むき出しなのは美的にもよくないし、靴のにおいというのも場合によっては気になるかもしれない。
玄関をはさんで下駄箱と反対サイドには、防水パンが設置されていた。ここに洗濯機を置けぇぇ、ということだ。まあ、どうしても置きたくないなら置かなくてもいいんですけど。
今思い出したが、僕が大学時代住んでいた家は、アコーディオンカーテンのクローゼットがあって、その中には防水パンと蛇口があった。でも、クローゼットとして使うために、ハンガーを吊り下げる棒が取りつけられていて、棚もあったけど。実際に住むにあたっては洗濯機をベランダに置いたので、そのアコーディオンカーテンの上は予定通りクローゼットとして使った。
それはともかく、防水パンの右隣のデッドスペースが気になる。大して広くない単身者向けの家なんだから、こういうちょっとした無駄なスペースもが気になって仕方がない。・・・ゴルフクラブでも置くか?いや、それでも場所が余る。冷蔵庫は・・・ここに置くのは無理だな。
いざ住んでみたら、創意工夫でこのスペースをどうにでもできるんだろう。でも、これまでの引っ越しの経験上、「ぱっと見てどこに何を置く、というイメージが湧かない間取りは自分には合わない」という教訓があり、たぶんここはそれにあたるんだろう。
リビングスペースは普通。まあ、1Kの家なのだから、どんな物件でも大差はないだろう。大体こんなもんだ(後でこの認識が間違っていることに気がつく)。
でも、エアコンの左隣に何か見慣れないクリーム色の箱が取り付けられているのに気がついた。なんだろう、これ。
不動産屋に聞いても知らない、という。なんだよそれ。近づいて調べてみたら、どうやらこれは室内を換気するための換気扇らしい。
「こんなもの使って換気しないといけないくらい、ここは空気が悪くなったり湿気が溜まったりするんですかね?」
「さあ、どうなんでしょう」
この不動産屋、大して役に立たない。このほかにも、
「このあたりって町としてどうですか?治安とか」
「さあ、他の町はあんまり詳しくないので、よくわからないです。でも悪くないと思いますよ」
「この駅、朝晩の通勤ラッシュはどうですか?」
「私昔っからこの近所に住んでるんですよ。だから朝の混雑は知らないです」
なんて会話をしており、ああコリャダメだーとこっちが呆れて聞くのを諦めてしまった。これから自分とこの物件を売ろうとしている営業マンなんだから、ネガティブな情報は出してこないか。でも、こういう質問については誠実に答えて欲しいものだ。
単身者向けの家としてはごく標準的なクローゼットがあった。今まで住んできた家とほぼ同じ寸法と形。これだったら、特に何も頭を使わなくても、荷物を入れることができるだろう。ああ、でもせっかく引っ越しをするのだから、極力荷物は処分しないといけないけど。
この物件は独立洗面台があるのが嬉しい。今回、「可能であれば独立洗面台付きの物件を」と希望しているのだが、まさにこれ。そういえばさっきの物件には無かったな。郵便ポストや玄関扉に気を取られていて、頭から抜け落ちていた。
まだこっちとしても、内見慣れしていない。何をどのように視察すればいいのか、コツがつかめていない。そのせいで、たくさん写真を撮影している割にはどうでもいいものが多かったりする。
おしゃれとはほど遠い僕でさえも独立洗面台を気にするのは、これまで10年間住んできた家では洗面台が全くなかったからだ。普通、風呂場に洗面台と鏡はついているものだが、それがなかった。仕方がないので、台所で歯を磨いたりひげを剃ったりしていたが、今考えると何かの罰ゲームのようだ。鏡を見ながらのひげそりではにので、会社に着いてみて洗面所の鏡を見て、そり残しが盛大にあってびっくり、なんてことも結構あった。そのため、会社にひげそりを常備していたくらいだ。馬鹿な話だ。
トイレ。
ふと思ったのだが、この手のアパート/マンションで和式便座の物件ってまだ残っているんだろうか?共同便所物件を除いて。もう少しすれば、この日本中から和式便所って姿を消すかもしれない。「何それ?」っていう人が増えるかもしれない。
手洗い用の水がちょろちょろと流れ出るところがステンレス製じゃないのが珍しい。こんな便器って、一体どれだけのバージョンがあるんだ?用途としては単純なものなのなのに、本当にいろいろな姿形がある。
ガスのスイッチ。
これまで住んできた家も給湯はガスだったが、こういうスイッチ類は存在しなかった。蛇口をひねってしばらくすればお湯がでる。湯温の調整はできない。ただそれだけだった。しかしこういうスイッチで湯温調整は簡単にできるんだな。
湯量設定、というボタンもある。どうやら、湯船に張るお湯の量が指定した量になったら、ブザーが鳴るらしい。自動的に停めてくれるわけではないけど、これは便利。いちいちこんな当たり前な技術を前に感心する僕。
なんなら自動的にお湯をストップさせてれくれよ、と思うけどそれはちょっと難しいようだ。というか、単身者向けの家にはそれは分不相応ということらしい。お風呂のお湯を張るとき、大抵あふれさせてしまうんだよな。「早すぎて、湯量が足りなかった」ということは全くない。だから、こういう機能を見ると、わくわくする。おっ、「わくわくする」物件じゃないかこれは。それにしても「わくわく」の基準がチープだな。
わくわくした証拠として、肝心の浴室の写真を撮っていなかった。浴室の写真を撮らないで、こんなボタン類の写真だけ撮ってるって、本末転倒だ。
しかし、結局この物件はパスすることにした。やっぱり、1階ってことで不安が大きかった。女性では無いけど、1階にはあまり住みたくない。ズボラな性格なので、夏なんて窓を網戸にして全開にしておきたい。そういう時、1階というのはイヤだった。何しろこの部屋は、駐車場側からオートロックを回避してやってこれるだけでなく、ベランダ側もずかずかと余裕で侵入できたからだ。無防備に等しい。
コメント