俺の引っ越し2013

内見の予約も取れて、あとは当日を迎えるだけ、となっていたのだが、内見予定日の前日になって先方の不動産屋から

「別の方が契約することになったので、希望されていた物件はもう紹介できなくなった」

と連絡が入った。やられた。先を越されたか。いい物件だったし、ネットで堂々公開されていたわけだし、すぐに他人につばをつけられてしまったらしい。

振り出しに戻る。さて、どうしようか・・・と思ったら、その不動産屋は「他にも似た物件をご紹介できるので、一度お店に来て欲しい」と言ってきた。まあ、これも勉強だと思って、そのお誘いに乗ることにした。

訪れた地は、これまで一度も下車したことがない駅だった。複数の路線が停車する駅なので比較的栄えているようだが、全く地理感がない。車で近くの幹線道路を通過したことがある、程度の認知度だ。

慣れない土地にソワソワしながら、駅前の不動産屋に出頭する。そこで、出迎えてくれた方と相談しながらこの駅界隈の物件をいくつか紹介してもらった。

とはいえ、全く予備知識がない土地だ。「こんなのはどうですか?」と提示された物件が、割高なのか割安なのか、全く判断がつかない。隣駅だったらこれと同じ値段でもっと条件が良くなるかもしれないし、ならないのかもしれない。この駅限定でいろいろ物件を紹介されても、ただ困惑するしかなかった。判断基準がないからだ。せめて、「この路線に住もう!」と決め打ちしてからでも、現地不動産屋巡りは遅くないと今更ながら思った。

そうはいっても、折角この地に足を踏み入れたのだから、いろいろ物件は見ておきたいところだ。こちらのフワフワした条件を聞きながら不動産屋がチョイスした物件を3つほどに絞り込んで、内見させてもらうことにした。

【1軒目:某駅徒歩10分ほどの物件】

間取り図現存せず。後日、別の不動産屋に「これはもう候補から外れますよね?こちらで処分しときますね」と間取り図は回収されてしまった。今思えば、物件探しの思い出として保存しておけばよかった。

土地勘が皆無の場所を、不動産屋の車で移動する。道中、スマホでGoogleMapを常に確認していたが、それでもやっぱりよくわからない。誘拐されているような気になる。

折角だから、駅から歩いて物件までたどり着きたい。そうすれば、道中のお店や環境、そして所要時間がよくわかるからだ。しかし、不動産屋からしたらそんなリクエストにいちいち付き合ってはいられないので、どうしても車移動ということになる。

せめてものお願い、ということで、内見後に「ここから駅まで歩いていくとなるとどうなるか、その通り車で向かってもらえますか?」と聞いてみたのだが、「このあたりは一方通行の道が多いので無理ですねー」と言われてあっけなく却下。

1軒目は、静かな住宅地の中にある物件だった。築35年くらいだが、僕自身はあまりそこは気にしないつもりだ。ただし、古い物件ではどうしても困るのが、コンセントの数と場所だ。今ほど家電まみれではない時代に作られた家というのは、致命的にコンセントが少ないものだ。これは重要なことなので、「古い物件でもかまわない」と公言してはばからない僕であっても、ちゃんとチェックしようと思っている。

築年数がいってる物件は、それだけ家賃が安くてお得感が高い。リフォームなどで老朽化をうまくフォローできていれば、十分に選択肢に入ると思っている。さて。

一軒目の物件

建物外観。アパートとかマンションというより、ビルといった言葉が似合う。1階部分にはお店と、倉庫か何かに使われているらしい場所がある。居住部分は2階以上。うーん、外観からも古さがわかる。

郵便ポストを見て早速萎える

建物脇から中に入る。階段は屋内にあり、夜ということもあり踊り場は真っ暗だった。不動産屋さんがスイッチを手探りで探し、ようやく見つけて電気をつけた。これ、入居者の誰かが毎日やらないといけないのか・・・さえないな・・・と思う。

明かりに照らされて浮かび上がったのは各住居の郵便ポストだった。

すっかりさびている。

これを見た瞬間、もう家の中を見るまでもなく気持ちが萎えた。さすがにこれは無いわー。こんな家に住みたくはない。たとえラブレターが中に入っていたとしても、ドキドキできないと思う。さすが築35年。ねえ大家さん、これをどうにかしようとは思わなかったのだろうか?

まさかポストごときで萎えてしまうとは、自分自身に驚いた。ポストなんて、物件選びの判断基準には含まれないものだと思っていたからだ。

玄関。

この建物は、建物の中心に階段があり、その階段の左右に1戸ずつ部屋があるという作り。

不動産屋さんに促されるままに、鍵が開けられた部屋の中に入る。

がちゃん!と大きな音を立てて、背後で扉が閉まった。これでまた、萎えた。昔の団地に良くあった、鉄扉だったからだ。ノックするとガンガン音が響き渡る、ペラい扉。いまどきの家というのは、もう少し高級感がある、音が響かない扉だ。そうか、築35年にもなれば、こういうやかましい鉄扉なのか。

リビング1
リビング2

玄関を入ったところすぐがフローリングのリビングになっていた。キッチンもこの空間の中に入っている。さすがに床はちゃんとメンテされていてワックスでぴかぴかだ。壁紙も張り替えられていてきれい。ここ8畳以上のスペースがあるので、広々としている。食卓を置くなり、ソファを置くなり自由にレイアウトできそうだ。

しかし、先ほどのやかましく安っぽい音を立てる玄関と間仕切りなくつながっている、というのがなんとも冴えなかった。宅配便業者などがやってきたとき、「おかでんさーん」とドアをガンガンとノックしてくるんだと思うと、それだけでげっそりした。部屋中に響き渡る鉄扉の音。さらに、その人を玄関に招き入れたら、リビング全てが丸見えだ。全くもって、ありがたくない。

玄関に入った時点で意気消沈してしまった僕なので、ここからは「いや、でもこんないいところもある!」とプラス評価な場所を見つけてあげようと心に誓った。でも目に付くのはマイナス評価ばっかり。

案の定コンセントの数は少ないし、位置は微妙なところにあるし、住む前からタコ足配線の絵が目に浮かぶ。火事が心配だ。そして、壁紙を張り替えてさっぱりした壁だが、なんだかデコボコしている。昔の建物は梁の強度が低い材質や工法だからか、梁の数が多い。そのせいで壁に凹凸が多く、なんか落ち着かない。モノを置くとすると、この凸凹のせいで微妙なデッドスペースが生まれそうだ。

ベランダ

ベランダは・・・飾り程度。これまでの家のように、キャンプ用品を置くにしても狭すぎる。

よく見ると、ベランダの壁から蛇口がにょきっと出ていた。蛇口にはホースが付けっぱなしになっている。

「これは?洗濯機を外に置け、ということですかね?」
「さあ?洗濯機置き場は室内にありますよ」
「昔のなごりなんですかね、昔は洗濯機置き場が外にあったとか」

こういうところが、いちいち古い。

キッチン

リビングの傍らにあるキッチンを確認する。

「ガスコンロは自分で用意してね」タイプの家。それはまあいい。でも、今回の引っ越しでは、自動食洗機をキッチンにおきたいと思っているのだが、当然のごとく電源はキッチンまわりになかった。35年前の家じゃ、当然か。

「お湯と水の蛇口が別になってるのか・・・」

うーん、と唸りながら蛇口をキコキコと触る。昔の銭湯じゃあるまいし、熱いお湯を水で埋めながら適温を探す、ってことをこの台所でもやらないといけないのだろうか?

防水パン

右に浴室、左にトイレと配置されている場所の奥に、洗濯機用の防水パンが設置されていた。しかし、とても狭い。ここにちゃんと洗濯機が置けるのか、心配になるサイズだ。既製品の防水パンが収まっているのだから、このサイズに収まる洗濯機は必ずあるのだろう。でも、そんなことが心配になるような狭さだ。たぶんドラム式洗濯機は無理だ、扉を開けたら壁にぶつかって全開にできない。

今住んでいる家では洗濯機も不調であり、この際買い換えようと思っている。折角だからドラム式洗濯乾燥機にするつもりなので、この光景はありがたくなかった。

35年前だと、全自動洗濯機なんて存在せず、二槽式の洗濯機が当たり前だ。二槽式なら当然このスペースには収まらないので、新築当時は単なる物置だったんだろう。後になってリフォームした際に作ったものだろう。

トイレ
風呂

古い家のくせに、トイレにちゃんとコンセントがある。場所柄、温水便座用としか思えないのだが、こういうところだけはちゃんと気が回るんだな。退去時に原状復帰さえしてくれれば、温水便座を付けるのはご自由にどうぞ、ということなんだろう。しかし、そんなところに気を遣う前に、まずは1階の郵便ポストを何とかしようや。

和室がある

この家の特徴は、和室があるということ。畳の部屋というのはやっぱりごろんと横になると気持ちがよいものだ。この点だけはちょっと惹かれるところではある。・・・のだが、畳の上に大きな虫が死んで転がっていたのは興ざめだった。

「畳は、入居が決まったら新しくしますから」

といいながら不動産屋さんはその虫を片付けていたが、色あせた畳も相まって、「畳の部屋!」というテンションは一気にトーンダウンしてしまった。

押入れ

和室には押入れもあった。逆に言えば、クローゼットがない。クローゼットに慣れきった過去20年を過ごしてきたので、いざ押入れです、と言われると収納方法が思いつかなかった。不意を突かれた感じ。それはおいおい考えていけばよいのだが、押入れの奥の壁紙がでろーんとはげていたのが目に入った。

「これも、入居までに直しておきます」

と不動産屋さんは言うけど、いやもういいです、この家に住むことはないです。

駅から近いとか、家賃が特別に安いといった「目玉」があるならばともかく、駅からそこそこ遠くて部屋に魅力が薄いとなれば、さすがにここを選ぶ理由が見つからなかった。

あ、さらに追い打ちをかけて悪いが、この物件は臭かった。古い家独特の、言葉では表現できない独特のにおい。何なんだろうあれ。それも、「ああ古いなあ」としみじみ感じさせた一因。

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