08:52
小富士山頂直下、ハシゴが現れた。おお、何だか本格的な登山をやっているような気にさせられるぞとワクワクするおかでんであったが、ばばろあはしきりに周囲をキョロキョロしている。
宿のおばちゃんが、「小富士山頂直下のハシゴ段の手前に壕があって、そこがスペクタクルだ」と語っていたので、そいつを一生懸命探していたのだった。
「おかしいのぅ、みあたらんで」
「まあ、とりあえず山頂に行ってから帰りに探してみようや」
このうっそうと覆い繁った樹林帯の中、洞窟探すったってそうたやすくはないだろう。
08:53
階段を登ったら急に景色が開けた。小富士山頂だ。
んー?あんまり「富士」って名前がつくほど台形の形をした山じゃないような気がするけど、何でだろう。
08:53
小富士から北の沖港方面を眺めたところ。
わずか一部、山の中腹にガードレールの白いラインが見えるだけで、あとは人工建造物全くなし。まるで無人島みたいだ。ちょうど集落が入り江に隠れて見えないからなんだが、電線の一本たりとも見えないのだから強烈。
ホントにこれが東京都なのかいな。
08:54
見下ろしたところにあるのが南崎。とてもきれいな砂浜が広がっている。
08:54
そして、南方を見やると、カツオドリの営巣地になっている鰹鳥島や平島など、小島が連なっている。
09:03
小富士山頂で思わず万歳をする。
東京都で、歩いていけるところの最果て中の最果てだ。
日本で一般人が行ける最果て、というわけではないのが残念なところだが(根室のほうが小笠原よりも東だし、南方面だと沖縄本島くらいの緯度しかない)、それでも何だか達成感があるわけですよ。いや余計な文句は言うな。そう思ったんだからそうなんだ。以上。反論受け付けず。
09:07
しばらく、「最果ての地」の景色を楽しむ。
母島という最果ての島に来て、さらにその最果てにまでやってきたのだから、一同なんだか感慨深いんである。
ただ、いつまでもここには居られない。スペクタクルを調査しないと。
ばばろあが先導となり、下山を開始する。
09:09
「おかしいよなあ、あのオバチャン、ハシゴにとりつく手前数メートルのところの左手にある、って言ってたはずなんだよなあ。そんなんなかったよのぅ?」
とぶつぶつ言いながら、ばばろあがはしご段を降りていく。
「さあ、どうだっけ?」
あんまりまともに話を聞いていなかったしぶちょおとおかでんはそこらへんの記憶があいまいだ。
09:09
「ここかな?」
何だか、獣道のような、たまたま見えた地面だけのような、曖昧な樹林の隙間にばばろあは潜り込んでいった。
「無理するなよー、地面滑るぞー。落ちたら死ぬぞー」
「わかっとるってー」
09:15
しばらくガサゴソ音がして、「うわっ」とか「滑る!」とか「どこ掴めばええんやこれ。掴むところないから登れん」という悲鳴が茂みの中から聞こえてきたが、無事ばばろあは生還してきた。
「無いわ。ここじゃないみたい。あれぇ?おかしいのぅ」
首をひねりながら、もう少し場所を移動しつつ探索を続行。
09:15
「ここかな?」
また懲りもせず、先ほどと同じような怪しい隙間に滑り込んでいった。
ただ、ばばろあは戦跡や城跡巡りはエキスパートの域に達しており、このあたりの嗅覚と藪漕ぎ技術には長けている。しばらくすると、奥の方から「来てみぃや。あったでー」という声が聞こえてきた。
09:16
「うわ、滑る滑る」
周囲の木に捕まりながら、ぬかるんだ急坂を滑り降りたり踏ん張ったりしながら少々山を巻くと、そこにばばろあが立っていた。ばばろあの眼前にはぽっかりと開いた穴が。山肌の様子からして、自然にできたものではない。明らかに人工的に作られたものだ。
こ、これが例の「スペクタクル」なのか!
※実際には、自己責任で行動してください。大変危険です。以下出てくる場所についても同。
09:16
中への侵入を試みる。
お。さすがに入口は壕の崩落防止用なのか、扉を設置するためなのか、石とセメントで固めた部分が見える。
ばばろあが叫ぶ。
「あちゃー、こりゃダメじゃあ。中水浸しで入れんで」
09:18
中を覗いてみたら、こんな感じだった。
まっすぐに壕は伸びているが、所々脇道もあるようだ。何カ所かの銃座に繋がっているのだろう。
まっすぐ進んだ先からは、まぶしい太陽の日差しが差し込んでいる。きっと、小富士の南腹なのだろう。母島南方から南崎めがけて揚陸しようとしてきた敵艦隊をここで迎撃しようというつもりだったのだろう。
09:19
デジカメのズームを最大にしてみると、砲塔らしきものが見える。昨日見た高角砲よりもデカそうだ。安式15糎砲というやつで、俗に言うアームストロング砲というやつだ。日露戦争時に軍艦に取り付けられていたヤツを外して、据え付けたらしい。ということは、明治時代の遺物ということになる。
あの側まで行ってみてぇー。
また、あそこから何が見え、何を狙っていたのか確認してぇー。
「靴脱いで、そのまま行っちゃおうぜ」
ばばろあに提案したが、ばばろあから
「いやそれはダメじゃ。こういうところはどれだけ水深があるかわからんし、予想外の所に縦穴が掘ってあったりする可能性がある。危険すぎるけぇ行くのはやめとけ」
なるほど、そういうことか。無念。でも、本格的な壕と砲台を見ることができただけでも、十分にスペクタクルだった。戦績には全く興味が無いおかでんであっても、これには興奮してしまった。
09:34
興奮冷めやらない中、南崎に降りてみることにする。
09:36
ここも、いわゆる「歩いて来られる東京都の最果てのビーチ」ということになるわけだ。とても美しい。海水浴に最適・・・だが、ここにたどり着くまで、車道終点から1時間弱ジャングルの中を歩かなくてはいけないので、ちょっと難しいかな。
沖は相当潮流が早いそうなので、シュノーケリングをする際は要注意だとか。
09:45
南崎から見上げた小富士。
あ、なるほど、ここから見ると確かに富士の形をしてら。なるほど、だから小富士という名前がついているんだな。
でも、この美しいビーチに寄り添うようにある美しい山に、壕が掘られて砲台が潜んでいるなんてとても思えない。
09:52
あ。ほら、あそこにも銃眼があった。
「崖を見るとまず銃眼を探す」クセが、昨日今日ですっかり身に付いてしまったので、見つけるのも早い早い。
あんなところにさりげなく壕作りますか。凄いな。
もちろん、あの中に入るためには崖をよじのぼって穴に潜るなんてわけはなく、裏側は壕で繋がっているわけだ。恐らく先ほどの壕とも連携しているのだろうが、とにかく大土木事業がこの地で行われていたということだ。
09:55
「もー、道路整備くらいせえや。ぬかるみがひどくて歩きづらくてしょうがないわ」
「ここら辺ちゃんと整備しとるともう少し観光客増えるんじゃろうけどねえ」
などと毒づきながら、南崎を跡にする。
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