小笠原遠征

石組み

11:02

こんな立派な石組みの建築物もあった。

「重要なものを格納していたんだと思いますよ。食料か、弾薬か」

あ、人が居住するための場所じゃないんですね。人よりも食料弾薬の方が重要。

童話「三匹の子豚」だと、石で家を造った豚だけがオオカミの難を逃れたけど、ここもやっぱり石ですな。

ビール瓶

11:05

「確かこの辺に・・・」と板長さんが地面を探し始めたら、瓶が出てきた。「この辺」といっておきながら、どんぴしゃでこの山中、場所を探り当てるのだから凄い。警察犬になれると真剣に思った。

何でそんなに的確に場所を覚えているんですか、と聞いたら、

「いやあ、周りの木とか地形で全部わかりますよ」

とさらりと答えられた。「ここはオレの庭だ」宣言ですね。

さてこの瓶、ビール瓶のようだけどちょっと先ほどの海軍ビールとは違うようだ。・・・あっ、ロゴが入っている。「ルービラクサ」。ラクサといえばマレーシアの麺料理ですが、というわけは当然なく、これは「サクラビール」なわけですね。

サクラビール

11:06

瓶を裏返してみると、「登録商標」とともに桜のマークが。

海軍マークの瓶とは違うところをみると、これは陸軍が愛飲していたのだろうか?

サクラビールとは、帝國麦酒株式会社が作っていたビールの名前だ。帝國麦酒とは聞き慣れない名前だが、戦後に解体させられて、今のサッポロとアサヒとなった。日本を代表する2メーカーのおとーさんにあたる企業、というわけだ。

二社合同企画で、キリンみたいに「昭和のビール復刻」やってくれないかなあ。どんな味だったんだろう。兵隊さんも愛飲したビール。

ちなみにどーでも良いことだが、東京に戻った後特許庁のDBで「サクラビール」の商標登録について確認をしてみたが、検索結果ゼロだった。今なら「サクラビール」を作っても大丈夫だ!早い者勝ちだぞ!良い名前だと思うけどなあ。なぜこの名称が放置されているのか、謎だ。

トロッコ用のレールと車輪

11:09

うわ。なんだこれは。ぐちゃぐちゃになったケーブルのようなものと、巨大鉄アレイ?

近づいてよく見ると、トロッコ用のレールと車輪だった。まだまだ父島要塞を作る気満々だったようだが、戦争終了でタイムアップ、ということか。

セメントの袋

11:10

そのすぐ脇には、石が積み上げられてあった。・・・いや、石にしては表面が妙にざらついているな?

「これ、セメントの袋なんですよ」

ああ!そういうことか!ずた袋にセメントの粉が入っていたのだろう。それが野ざらしになっていると、当然雨が降って水が加わり・・・コンクリートのできあがりだ。時間が経つとこうなっちゃうんですね。なんだか夏休みの子供自由研究をやってるような新鮮な驚き。

ロープを使って降下

11:11

「地下壕編は終わり、これからは地上編」かと思ったら、まだまだ潜る。板長さん、われわれの体力を横目で見つつ、かつ関心の強さを把握しているのでスペクタクルは留まるところを知らない。

またもやロープを使って降下だ。

今でこそ、トラロープが安全にくくりつけられてあるし、「この先には興味深いものがある」ことが判っているからぐいぐいと進んでいられるけど、最初この壕を探索した板長さんは「この先何もなかったら徒労だナー」くらい思いながらよいしょ、よいしょと潜って行ったのだろうか。

鉄の棒がV字型

11:13

壕の壁になにやら鉄の棒がV字型に突き刺さっている。

「何だと思いますか?」

と板長さんに言われても判らない。

「これね、上のところに板を敷いて物置台にしていたんですよ」

またもや「ああー」だ。今日は「ああー」が多い日だな。そういえば、周囲には朽ち果てないままばらばらになった木材が散乱していた。

まさか花瓶に花を活けて飾ってました、なんてことは無いだろうから、食器類でも置いてあったのだろう。

高射砲

11:13

その先に、明るい場所があると思ったら高射砲が1台ぽつんと設置されていた。

これが板長さん一押しの高射砲。どこが一押しなんだろう、と周囲を見ると、そういえば整然としている。爆破されて散らかった気配がない。

「私が初めて発見した時は、まだこの砲塔が木枠で覆われている新品未使用状態だったんですよ」

え、ということはこれは「そのものずばり」の高射砲であり、米軍による破壊工作も受けていないというもの、ということですか。博物館行きな代物じゃないですか。

「その当時は、中にはグリスが塗ってあって、いつでも使える状態でしたよ。今は板が取り外されちゃって、こうやって錆がでてしまいましたけど」

惜しい!あまりに惜しい。そんなグリスでテカっているような物はぜひ博物館に・・・あれ?こんなものを展示する博物館って、せいぜい靖国神社くらいしかないんじゃないか?戦時中の兵器を展示したら「軍国主義に逆戻りする気か」とかなんとか、わけのわからん人に批判されるのが面倒だからな。

ばばろあに聞いてみる。

「これ、ものすごい価値のあるものなんじゃないか?博物館ものだろ?」

「いやーそうなんじゃけどねえ、ちょっと錆すぎとる。もったいないのう」

彼はしきりにもったいない、を繰り返してきた。母島の時もそうだ。朽ち果てていく兵器をただ見守っているしかないもどかしさ、なのだろう。

銃器の状態がよくわかる

11:13

破壊されていない状態なので、銃器の状態がよくわかる。さすがにこれだけのでかい高射砲だけあって、土台が相当しっかりしていないと駄目なようだ。射撃の反動で砲塔が後ろに吹っ飛んでしまう。そのため、Y字型のどでかい足を持ち、またその足が動かないよう固定する装置が地面に取り付けられてあった。

とはいっても、戦局に応じて移動しなければいけないことも想定してか、すぐ側にはタイヤも置いてある。いざとなったら、タイヤを装着し別の場所へ大至急移動、ということなのだろう。

八八式七糎野戦高射砲 昭和十六年

11:17

板長さんが「ここ、写真を撮るならぜひここを」

と推奨するので近づいてみると、型式の刻印だった。

「八八式七糎野戦高射砲 昭和十六年」

日本を代表する高射砲。硫黄島の戦いでは対戦車砲としても使われた。1888年に制式採用されたわけじゃなく、皇紀2588年=1927年制式採用、という意味だ。ちょっと判りにくい。

「軽量化を図ったために壊れやすかった」という事だが、いやいや、これだけごついのに「軽量化」って、武器っつーのはつくづく重いものだな。まあ、その軽量化あってこその、先ほどのタイヤを使っての運搬って事なんだろうけど。

まっすぐ、銃身が伸びている

11:18

まっすぐ、銃身が伸びていることがわかる。これ、ここ数日いくつも砲身は見てきたけど初めての体験。今まで見たのは全てが破壊されていたので、こんなにぴたっとまっすぐなのは初めて見た。

こんなにごついのに、1分間に20発近くを発射できたというのだから強烈だ。3秒に1発だぜ?信じられるか?花火大会じゃないんだから。

ただ、そのためには弾ごめ要員の数だって尋常じゃなかろう。聞くと、最低でもこいつを動かすのに4名、通常だと10名近くが必要になるんだという。大変に大がかりな砲だ。

駆動部の細かいパーツもしっかりと残っている

11:18

駆動部の細かいパーツもしっかりと残っている。錆取りを十数名がかりでやって磨けば、また使えるようになるかな・・・いや、無理か、こんなに錆びちゃ、錆を落としているんだか身を削っているんだかわからない。

ごつい砲身のわりには、案外繊細な駆動パーツによって支えられているのに感心。

高射砲の割には水平

11:21

高射砲の割には、あまり仰角を確保できないような気がするんですが(高射砲は、そもそも編隊飛行する敵機を撃墜するのが目的)。かといって穴を大きくすると狙われやすくなるわけで、このさじ加減は微妙だ。

ただ、どうしても右側には砲塔を向けたかったらしく、穴をわざわざ右側だけ余計に開けてあるあたりがチャーミングというか、なんというか。

それにしても遠目で見て、これが銃だとは思えない。三次元に目標を捉えるための駆動部分がでかいので、なんだか「ぽっきり折れたジャングルの巨木」って感じ。近くで見ると、一つ一つは細かいパーツで構成されているのが判るんだけど、遠目で見ると何が何だか判らない謎の物体だ。

平和な父島の光景

11:22

で、一体この高射砲は何を睨んでいたのかというと、外に出てみたら・・・

明るい、平和な父島の光景。

このギャップになんだかクラクラする。ただ単に暗いところから明るいところに出てきたから、というわけではないと思う。

扇浦の沈没船

11:22

見下ろすと、扇浦の沈没船がまた見えた。さっきも似たような光景を見たが、今一体どれくらい移動して何がどうなってるんだ?さっぱりわからない。なんだか手品を見ているような。

先ほどの八八式高射砲、どうして右を向きたがったのかがこれで判った。おがさわら丸が停泊する二見港、大村地区を防衛するためのものだったわけだ。

また潜る

11:29

また潜る。壕は二次元ではない、三次元だというのを思い知る。

以前、長野県松代に大本営を移そう計画で作られていた地下壕を見たことがあるが、あれは完全なる水平な壕が碁盤目状に建設されていた。それに比べるとここの壕のややこしいことといったらない。

ベトコンが米兵から身を潜めるために、地下に隠れていた住居を想起させる。もっとも、ベトコンの場合は「這って進むのがやっと」の穴だったり、「ところどころ落とし穴がある」とかここ以上に過酷な地下住居だったわけだが。

高射砲

11:31

またもう一門高射砲を発見。ここはご丁寧に、銃口の外に出ることができるように板が渡してあった。

外に出てみる

11:31

お誘いに従って外に出てみる。

神妙な顔で記念撮影

11:32

板長さんが「記念撮影しましょう」とまた気を利かせてくれたので、3名ともやっぱり神妙な面持ちで、巨大砲身を前に撮影。

それにしてもにょきーっと突き出ているのが不気味だ。

砲身

おかでんが持っているコンバット・バイブル―アメリカ陸軍教本完全図解マニュアル (COSMIC MOOK)という本によると(なんつー本を持ってるんだオイ)、屋内からの狙撃をする際は、窓から銃を出すのではなく、必ず屋内から身を潜めて行うこと、と書かれていた。マズルフラッシュ(発射時の閃光)が敵に見えたら場所がバレて即座に反撃されるからだ。だからできるだけ室内の奥から撃て、というわけだ。

それを考えるとこの砲身さん、ずいぶんと身を乗り出しちゃっているわけだ。

しかし、こうでもしないと発射時のガスやら反動やらで砲の周辺にいる人たちがまずやられちまうのだろう。こんなでかい穴から弾が飛び出すんだ、衝撃と排出されるガスの量たるや相当なものだろう。

シリンダー

11:34

こうやって見ると、おどけたロボットの顔に見えなくもない。

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