05:12
展望台から、大村集落と二見港を見下ろす。ここはさすがに「中央山」という名前だけあって、父島全般を見下ろすには最適な場所だ。
正面に見える半島状の丘が、一昨日夕日を眺めたウェザーステーションのある三日月山。
05:17
島の東側もよく見える。敵機襲来の監視施設を作るには最適と言える。
05:21
展望台の隣にもう一つ丘があり、見晴台がそこにあるというので、そちらにも向かってみることにした。
よく整備された軍道を歩いていくと、途中で壕が軍道脇にあった。やっぱりこの山、壕だらけにされているに違いない。
中が気になったが、入口のところに「立入禁止」という看板がご丁寧に立てられてあった。やっぱり、目立つ壕だし、観光客が多く訪れる場所なのでこういう注意書きを出しておかないと管理者としてはおっかなくてかなわないのだろう。
「立ち入り禁止 この防空壕は危険ですから、中に入らないでください。大蔵省関東財務局」
あれっ、管理者って大蔵省なのか。てっきり小笠原村かと思ったのに。驚いた。
「ということは、ここは国有資産ということか」
「そういうことだ」
「では、国民の権利として入って良いか?」
「いや、それとこれとは違うと思う」
05:23
軍道脇に、ぐにゃっと曲がった鉄棒のようなものが積み上げられていた。よく見ると、古くなったレールの山だ。
荷物の運搬や、壕を掘った際の土砂の運搬用にトロッコが作られていたということだ。
なるほど、だから今歩いている軍道はなだらかに整地され、歩きやすいのか。
「わあ、歩きやすい道だねーよく整備されてるねー」なんて暢気に歩いてちゃいかん、切実な理由がそこにはあったというわけで。
05:25
ばばろあがまた何かを発見した。
見晴台手前の軍道脇に、塹壕があるといって飛び込んでいく。
見ると、Y字型にちょっと深めの塹壕が掘られていて、それぞれの塹壕の先には壕の入口に繋がっていた。
「おっ、これは壕に入れるチャンスか!?」
「大蔵省関東財務局は何も言ってないな?」
「いやでも何かあったら自己責任だからな。大蔵省・・・今じゃ財務省なんだろうけど、何かあっても何もしてくれんぞ」
「せいぜい立ち入り禁止の看板か、フェンスでふさがれるかのどっちかだな。大久野島の防空壕がふさがれてしまったみたいに。そうなるともったいないからむちゃするのはやめよう」
05:27
壕の内部。
母島の壕が比較的手彫り感満点のゴツゴツした感じだったのに対し、こちらの壕はしっかりとした壁面の作りになっている。
ただし、狭い。
連絡壕として、どこかに通じているのだろう。さすがに懐中電灯はないし、崩落の危険性もあったので入口からの撮影に留めておいた。
「大蔵省に逆らっちゃいかんもんね」
適当な事を言う。
05:27
Y字塹壕のもう一方の入口。
05:28
こっちにも壕が。こちらは幅が狭くて、人がすれ違うのが困難な幅だ。一方通行にでもしていたのか、それとも中は広かったのか。
それにしても壕だらけだ。一体この島はどうなってるんだ。
05:30
壕のあった場所からひと登りすると、そこが見晴台。先ほどの展望台と違って特に何か施設があるわけではない。「ここからこんなものが見えます」といった紹介地図が展示されているだけ。
05:30
見晴台から、先ほどまでいた展望台を見やる。
ということはだ、この間の山の中を縦横無尽に壕が走り回ってるってことだな。
おっと、そういえば展望台のさらに奥の山の斜面にも銃眼があったっけ。
ということは、ここら辺の山の地下は壕で連結されていたってことだ。すごい土木技術と根性だ。
昔、糸井重里がプロジェクトリーダーになって、「赤城山山麓に埋蔵されたとされる徳川埋蔵金発掘プロジェクト」がTVの季節特番として何度か放送されていた。その時は、パワーショベルなどを使って地下60mくらいまで何年もかけて掘り下げる、という大土木番組で圧倒された記憶がある(逆に言うと、単に土を掘っているだけで視聴率が稼げるという不思議な番組だった)。まあ、それはバラエティ番組だとして、現実の戦時下においてはそんな番組とは比較にならない、悲壮なまでもの地下壕が掘りまくられたということだ。
生への執念なのか、必勝祈願なのか、強制労働なのか、観光客である僕らにはわからないが・・・。
05:32
見晴台の石組みは、海岸にある石を持ってきたものらしい。サンゴと思われる複雑な文様をした石がたくさん使われていた。
05:32
山の中腹に、なにやら怪しいアンテナを発見。
「おい、まだ小野田さんみたいな日本兵の生き残りがいるんじゃないか」
「それにしてはあまりに立派なアンテナだけどな」
「そうじゃなけりゃ、地球防衛軍の基地に違いない」
05:35
しぶちょおが言う。
「いや、でも絶対こんな島だから、原人っているはずだよな。小笠原原人が」
「なぜこっちを見て言う?」
「きっといるんだろうなぁ、小笠原原人が。何しろ一度も陸続きになったことがない独特の生態系の島だって言うもんな。原人くらい居てもおかしくないよな」
「何を要求しているかは何となく分かったが、小笠原原人は警戒心が強いから他に人が居たら出てこないぞ?周囲に他の観光客はいないだろうな?さっきのチャリの兄ちゃんとか」
「安心しろ、誰もいない」
・・・しばらくしたら、先ほどの見晴台に何やら人型をした謎のイキモノが姿を現した。
「小笠原原人、登場!」
「わざわざ名乗らなくてもいいよ、原人。だいたいなんで日本語しゃべってるんだよ」
げらげら笑いながら、しぶちょおがデジカメのシャッターを押しまくる。
「おい!その角度だと見えてはいけないものが写る!もっとしゃがまないと!ああ、見えてる、見えてる、丸見えになってる!」
なぜか現代人のしぶちょおが、謎のイキモノのはずの裸族・小笠原原人にポージングを要求する不思議。
しばらく馬鹿笑いしたあと、小笠原原人はあっという間に消えていった。絶滅が危惧されるイキモノに違いない。
肝心のおかでんだが、運悪くその場に居合わせなかったので、小笠原原人とは対面できなかった。しぶちょおの写真でその存在を知った次第だ。生で見ることができずに、非常に残念である。
しばらくして、決死の覚悟で見晴台の西側の崖を下り、銃眼や壕の単独捜査していたばばろあが戻ってきた。
「ダメじゃ、茂みが多すぎてよくわからんかった」
「あれ?ばばろあ、さっきここに小笠原原人が居たんだけど、見かけなかった?」
「は?小笠原原人?何やそれは。そんなもんおらんかったで」
「じゃあさっき現れたのは貴重だったんだ。いやあいいものを見たなあ」
ニヤニヤするしぶちょお。
「呼んだらまた出てくるかもしれないぞ」
ニヤニヤしたまま、おかでんの顔色をのぞき込む。
「何でこっちを見る?やめれ」
05:50
もうね、至る所に壕、壕、壕です。
誰が一番たくさん壕を発見できるでしょうか?というオリエンテーリングを父島全体で開催できるくらい、至る所に壕だらけ。ほら、ここにもあった。
05:51
中にははいらなかったけど、結構奥行きがありそうな壕だった。
なんだか、前日までの「南国パラダイス白い砂浜写真」でアワレみ隊っぽくない写真だらけだったのに対し、今日は今日で穴だらけのこれまたアワレみ隊っぽくない写真になりつつあるな。
05:55
結局夜明けを見ることができなかった。ちょっと分厚い雲に太陽光が遮断されてしまっていたからだ。
しかし、その雲の隙間から、スポットライトのように太陽光が何筋かの光明を発しており、何だか神々しい気持ちにさせてくれた。
「いや、でも絶対あそこにはUFOがいるぞ。あの光っているところは、人か宇宙人がUFOに吸い込まれていく瞬間だ」
「光っているところが海のど真ん中なんですが」
「人魚?」
「さあ?」
06:01
先ほどから気になっていた、現代版アンテナ基地。こりゃ一体なんだ。さっき見た十三号電探のオペレータが現代にタイムスリップして来て、こんなアンテナを見たらオシッコちびるに違いない。
それにしても、アンテナが全部上向いちゃってるんですが。ひょっとして、アンテナ型の雨水貯蔵タンクだったりして。
※こういうアンテナは、使わないときは上を向けておくのが普通。そうしないと、自重のせいでパラボラ部分がゆがみ、受信感度が落ちるため。
06:02
ゲートには、「独立行政法人宇宙航空開発機構 小笠原追跡所」と書かれていた。
なるほど、宇宙に逃げた犯罪者を追いかけるわけだな。アニメ「カウボーイビバップ」の世界だ。
「それにしても暇そうな独立行政法人だな」
誤った認識をしたり、勤めている人に対して大変に失礼な暴言を吐いたりやりたいほうだい。うん、小笠原原人という貴重なイキモノに出会ってから、ちょっとテンション上がってきたぞ。眠気がとれてきた感じ。
中にはさすがに入れなかったが、入口の解説文にはこう書いてあった。
「小笠原追跡所は、種子島で打ち上げられた人工衛星打ち上げ用ロケットが種子島で見えなくなってからの飛行経路(緯度、経度、高度)の監視を行い、ロケットの飛行安全管制及びこれらデータ取得を行うことを目的として設置されました。」
「要するに、V1やV2ロケットがちゃんとイギリス本土に届いたどうかをコントロールする場所ってことでOK?」
「いや、まだ随分認識がズレている気がする」
06:03
とりあえずゲートの前で記念撮影。
まだ「宇宙開発事業団NASDA」と書かれた看板が残っていた。誰か早く取り替えてあげて。もうNASDAは現存せず、「宇宙航空研究機構JAXA」に改名して随分時間が経つはずだが。
06:09
野良山羊発見。
戦前、食用及び乳目的で導入されたそうだが、生命力が強いのかいまだに野良化した羊があちこちにたむろしていた。
八丈島でも同じような話を聞いたことがあるが、あちらはほぼ駆除できたという。貴重な天然記念物クラスの植物を無差別に食い散らかすからたまらん動物らしい。さすがに山が深い父島で駆除はなかなか難しいか。
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