18:48
「もうええじゃん、この店にしようぜ」
決定打に欠け続け、店を全てスルーしていたところでばばろあの口癖「もうええじゃん」が出た。
そもそも決定打って何よ、っていうところからして三人とも具体的イメージが無かったわけで、じゃあもう適当な処に入っちゃえばいいんじゃネーノ、というのが結論、というわけだ。
しぶちょおは「オレはどこでも良いよ。飯さえがっつり食えるところなら」と言っていたが、おかでんは「小笠原における旅情ある食卓とは一体?」なんて考えこみすぎてしまい、結論先送りになってしまったのだった。
その結果、「もうええじゃん」の一言で決まったお店がここ、焼き肉屋。
「小笠原に来て焼き肉かい!」
と思ったが、じゃあ他に何があるのか今すぐここで述べよ、と言われたら大変答えに窮するため、ずかずかと店内に入っていくばばろあの後に従うしかなかった。こういう時の決断の早さはばばろあが一番だ。
18:53
店の奥はダーツやビリヤードなどの娯楽施設があって、店のテラス部分が焼き肉用スペースになっているという変わった作りの店舗だった。
われわれは別にビリヤードやって満腹になれる生き物ではないので、当然テラス席に案内してもらう。こういう席が常時用意されていて、5月でも当然のごとく運用されているのは南国の島ならでは、だ。何しろ、「海開き」が1月1日の島だからなあ。
さて、扱っている肉は結構種類豊富。基本的な肉はメニューとして抑えられているし、何よりも「レバ刺し」があるのには驚いた。新鮮なものじゃなくちゃできないはずのレバ刺しが、なぜ小笠原に?冷凍ものを解凍したのか?それとも、この島に肉牛が飼育されているのか?謎だ。
このメニューの中でおが丸によって本土から運ばれてきた料理は一体何割なんだろう、と思わず考えてしまった。
ま、それはそんなのはいいや。まずはビールじゃ。昼間、「ランチクルーズ」でビールを飲んだけど、それとこれとは別。「鴨が葱しょってやってきた」ではなく、「肉が麦酒しょってやってきた」と形容したくなるくらい、この組み合わせは絶妙。
えーと、ビール、ビール。あ、発見。
!!!
生ビール:700円 小生ビール:400円
高いなあ。まあ、これは許す。ちょっと高級店に行くと、こういうのもあり得る話だ。しかし、しかしだ。その横に書いてある
瓶ビール大瓶(アサヒ):1,000円
これにはのけぞってしまった。イナバウアーになってしまった。おい、ここはおねいちゃんのいるお店ですか。ひょっとして、今「とりあえずお飲物はどうなさいますか?」って聞きにきている店員さんが、後で横に座ってお酌してくれるんですか?
いやあ、4桁の価格をつけているビールって初めて見たぞ。驚いたなあ、これは。今年一番の驚き、といって過言ではない。つい先日、おが丸出航直後のビールを「ビール・オブ・ザ・イヤー(大賞)」と認定したが、今日のこの瓶ビールの価格は「ビール・オブ・ザ・イヤー(びっくり部門)」と認定追加。
「うわ、この店高いぞ。どうしよう。何か適当に頼むだけ頼んで、逃走しようかしら」
ビール好きのおかでん、一人で動揺する。
18:56
さすがに最初は生ビールを注文。700円で高いのぅ、と思ったが、出てきたのは大ジョッキと中ジョッキの中間くらいのサイズだった。
うみゅ?大ジョッキで700円だったらそんなに高くはない。まあ、離島価格であることを考えれば、この量で700円は妥当かもしれない。
乾杯をしようとしたところで、黒猫が空いている席に飛び乗ってきた。野良ネコらしいが、ばばろあが置いた荷物の上に丸くなって暖まっていた。ちょっと潮風が寒いらしい。
「おい、肉盗んだりしたら承知しないからな」
と事前にキツく注意しておいたが、大変に大人しく、肉を物欲しげに眺めることもなくじっとしていた。
19:05
店員さんに撮影してもらった。店員さん、とてもきさくだ。
19:05
出てきた料理の数々。
お、おいおい、量が凄く多いぞ。
「肉の値段も、まあまあ結構するねえ」
「島だからねえ。おが丸で運ぶ以上高くなるよな」
という話をしていたのだが、とんでもない。値段が書かれていたのは「100gあたり」なんかじゃなくて、ステンレスの皿いっぱいに盛りつけてどうだ、の価格だった。これは驚き。ちょっと頼みすぎたぞ。
19:08
あっという間に七輪がいっぱいになってしまった。
ああ、この臭いだけでビールがぐいぐい飲めるぜ。
大変だ、肉は確かに安いが、さすがにちょっと高いビールをぐいっと飲んじゃった。やばい。
19:11
何しろ、「豚トロ:600円」を頼んだらこんな量が出てくるんだもんなー。すごい量だわ。1人前じゃなくて、2人前頼んだんだっけ?どうだっけ?ってくらいだ。
19:11
サーロイン800円を頼んだら肉1枚そのまんま出てきた。うおー。
しかも、この店、肉がなかなかにうまいんである。マズい冷凍肉の半解凍状態で赤い肉汁がデロデロでているような、そんな奴かと思っていたのに、しっかりと肉の味と歯ごたえがあって、悪くない。こりゃ参った。
19:14
おかげで、本日もガッツリとご飯を食らうしぶちょお。
量が多いので、ご飯をおかずに肉を食っているような感じ。ご飯お代わりしなくちゃ、足りない足りない。
19:19
さてワタクシことおかでんも、ご飯ではなくビールが足りなくなってしまった。ジョッキ1杯で済ませるわけにはいかん量なので、これは追加注文致し方なし。
「び、瓶ビールの大をください」
禁断のビールを注文してしまった。ああ1,000km以上離れた実家にお住まいのお母さんお父さん、お元気でしょうか。僕は今遠い小笠原の地で、1000円のビールを飲んでます。味は普通です。この体験を持って人生勝ったと言って良いのでしょうか、まだこれしきでは人生勝ちとは言えないのでしょうか。ぜひお教えください。
ぷはー
しっかし高いな、1,000円。空き瓶を本土に持って帰ってリサイクルする輸送賃がかかるから高くつくのだろうか?ジョッキ700円を考えると、結論を言うとジョッキを飲む方がお得だったようだ。ま、いいや。テラス席で、南の潮風を僅かに感じつつ、ニャンコを愛でつつ、肉を飲みつつ、ビールを満喫した。それでいいじゃないか。財布が随分軽くなったが。
21:13
食後、宿のバナナ荘に戻る。
部屋でゆっくりくつろごうじゃないか・・・と思っても、何しろ六畳一間くらいの広さの部屋に二段ベッド2組の部屋だ。もう、自分の寝床に横になるしかない。
三人の旅行なので、会話を成立させようとするとベッドの上段下段、そして隣のベッドとでやりとりをせねばならず、なんとも三次元殺法な状態で面倒臭い。
21:51
一日中潮風に当たっていたし、ウェザーステーションに行ったわけだし、お風呂に入らなくちゃ。
このバナナ荘、お風呂は建物をいったん外に出て、建物すぐ脇の物置小屋みたいなところに独立して存在しているものだった。
ガチャガチャ。あれ、鍵がかかっている。中に人が入っているようだ。
しばらく外で待って、入れ替わりでお風呂に入る。
22:19
お風呂を終えて、宿の前から父島の目抜き通りを眺める。
人の気配がほとんど無い。朝までやっているバーの明かりがついているが、一体どんな人が深夜まで起きてお酒を飲んでいるんだろう?
コンビニなんて当然ないわけであり、この島で夜更かし生活を送るのは非常に難しい。
あ、ちなみにワタクシことおかでんですが、「夜ビールが欲しくなったらどこで買えば良いか?」ってのを調べるため街をうろつき、ビールの自販機は発見しておりました。多分夜11時になると販売中止になると思うけど、無性に晩酌がしたくなったらここで買えばいいや、ということがわかりちょっと安心。
22:39
夜10時半、早いけどもう寝る。ばばろあの事だから、父島の戦跡ポイントの研究に余念が無いかと思ったが、さすがに船2時間や山登りといったイベントが続いた今日はお疲れモードの様子。
というか、夜やることないんスね。同室の他人さんに迷惑かけちゃいかんし、夜更かしして会話する場所が宿の外くらいしかない。
ま、いいや。明日は一日シーカヤックツアー。憧れの南島に行くぞー。朝8時に宿にお迎えが来るというので、明日は6時半くらいには起きないとね。おやすみなさい。
2006年05月05日(金) 4日目
06:54
ベッドでモゾモゾしながらしばらく時間をかけて起床。宿1階のスペースに降りれば、困惑した顔をしたばばろあが既に朝食を開始していた。
「おい、ここ自炊って話だったじゃろ」
「おう、そう聞いてるからいろいろ買い物してきたわけで」
「台所、一切使わせて貰えんのだと」
「えっ、それは聞いてないぞ。ご自由にお使いくださいじゃないのか!?」
「駄目だって。あと、皿なんてのも無いって」
「げええ。完全自己解決型の自炊宿ではないか。厨房機器とか、調理器具くらい貸して貰えて当然と思っていたんだけどなあ」
見ると、ばばろあは食べかけのパンをマーガリンのフタの上に置いている。ああ、なんとも虚しい。幸い、ばばろあがプラスチックの使い捨てフォークを持ち合わせていたので、なんとかそれでマーガリンをすくったりはできるが・・・。
06:54
どーすんのよ、これ。
面白そうだから買った、「ロザリタ」という聞いたこともない名前の豆缶詰。南部アメリカかメキシコあたりのケイジャン料理、ってやつだな。
リフライドビーンズ、ということで、うずら豆だか何かの豆を潰して、各種香辛料と混ぜ混ぜしたものだ。
当然、湯煎して中身を暖めて、スープのようにして食べるつもりだった。でもあのアメリカンなご主人、台所ツカチャダメなんて言うもんだから、仕方がない、冷えたままで食べざるを得ないではないか。
缶を開けてみたら、なんだかネコの餌みたいな羊羹状のブツが出てきた。うーむ。
06:58
無理矢理パンになすりつけて食べる。
美味いんだか美味くないんだかさっぱりわからん。甘くないこしあん、という感じだ。タコス料理などに使われるということだから、さらにここから一手間、二手間かけなくちゃ料理としては成立しないものをわれわれは購入してしまったようだ。うは。
07:02
しぶちょおは、この日「フライパンで軽く炒めるだけですぐでき上がるスパゲティ」を食べる予定だった。
しかし、フライパンもコンロも使えないという緊急事態、なおかつスパゲティを盛る皿すらないという状況だったので、しぶしぶ「予備食料」として確保していたマルチャンの肉うどんを食らっていた。
お湯だけは、湯沸かしポットが用意されていて使うことができる。お湯まで自己解決しなさい、と言われたら完全にしぶちょおは立ち往生するところだった。
しぶちょおは言う。
「とりあえず今日はこれでお皿を作る。明日まで大事にこの容器を保管しておいて、明日はスパゲティを炒めるんじゃなくて、ゆでてやわらかくしてお湯をすてて食べることにする」
「カップ焼きそばの原理だな」
なんとも哀しい。
あと、目玉焼きでも作るべえ、と思って買っておいた生卵も無駄になっちゃいそうな予感。他の宿泊客がいる手前、湯沸かしポットを独占してゆで卵を作るっていうわけにもいかないし・・・。さて困った。
07:46
もういいや、朝食に期待するのはヤメようと諦めの境地で、なんともモヤモヤした気分のまま宿の外に出る。
宿から出てすぐのところに港があり、宿と岸壁までの間は緑地になっているのでとても快適だ。
あ、船が一艘入港してきた。おー、あれが共勝丸か。おが丸と並んで、小笠原の生活を支える二大巨頭。
・・・とはいっても、おが丸と比べると相当小さい。運搬能力はそれほど多くなさそうだ。というか、揺れるぞ、ありゃあ。おが丸でさえ黒潮を乗り越えるときに相当キたんだから、この規模の船じゃあ一体どうなることやら。
07:50
共勝丸着岸。
既に岸壁には積み込む荷物が整然と並べられていたが、どれも砂嚢というか、ずた袋みたいなものに入っている。
おが丸で運んでいた物が瀟洒なコンテナだったのに対し、この違いはなんだ。恐らく、廃棄物などが詰まっているのだろう。
昔のように「一般人も乗船可能」だったら、会社の休みをもう少し延長してでも、この船に乗ってみたかった。しかし今はもう叶わない夢。天候によってはいつ東京に戻れるか分かりません、でも食事は毎食付きます、相当揺れますけど覚悟してね、というのがなんともチャレンジスピリットを掻き立てられたのだが。
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