06:46
上高地バスターミナルに到着した。
改めて歩いてみると、キャンプ場からずいぶん近い。目と鼻の先、とまでは言わないけれど、途中に河童橋という観光スポットを経由するので、10分足らずのお散歩は、肌感覚では5分だ。
河童橋同様、いつもは賑わっているバスターミナル前の広場も人はほとんどいなかった。がらん、としている。この非日常感がいい。
都会でもあるでしょ、早朝の繁華街を一人歩くときの、ちょっとした高揚感。あれの大自然Ver。
バスターミナルの建物に入居している「おみやげ処 ピッケル」は早起きさんだ。既に営業体制に入っていた。
森のリゾート小梨の系列店らしい。キャンプ場の受付で一声かければ、宿泊客は割引券がもらえる。
営業時間を調べてみたら、
平日 7:00~16:30
土日祝および繁忙期 6:00~17:00
(5:00開店の日もあります)
となっていた。つまり、GW期間中の今は、朝6時からやっているということだ。早い。山小屋の売店を除けば、日本で一番早くから営業しているお土産物屋さんだと思う。
しかも、それでは物足りないらしく、「5:00開店の日もあります」って、すげえな。海の日からお盆あたりのハイシーズンがおそらく5時開店なのだろうけど、それでお客さんがやってくるという現実。これぞ上高地。
新聞は130円から150円のあいだ。
紙の新聞を売店で買うことがないので一部あたりの定価を知らないのだけれど、良心的な値段だと思う。
さすがに1日前の新聞だろう?となめてかかったら、しっかり今日の日付の新聞だった。えええ、上高地の朝7時前なのに、もう今日の新聞が届いているのか。
新聞代金はセルフで、募金箱のような箱に入れる。
「買いもしないのに新聞を広げないでくれ」ということが書かれた注意書きが貼ってあった。「どれどれ、下界では何が起きているんだろう?」と、新聞を手にする輩がいるのだろう。そりゃダメだわ。
06:48
朝早くだからバスが来ていないのだろう、だからバスターミナルに人がいないのだろう?・・・と思ってはいけない。そこは上高地、この時間にして、既にバスがしっかりと待ち構えている。新島々行きのバスが乗客待ちをしていた。
ただし、さすがにこんな朝早くからこの天国を離れる人はおらず、乗客はいなかった。
06:48
上高地食堂の立て看板があった。「ご朝食メニュー」として、和定食と洋定食の2つが描かれている。お値段はそれぞれ900円、午前10時までの提供。
この一晩で随分体が冷えた。カロリーをください、カロリーを。早く中に入ろう。
バスターミナル2階が上高地食堂。
ザックやストックといった山用具はベランダに置いてから中に入ってくれ、という注意書きが店頭に出ている。
僕ですか?はい、僕は手ぶらです。
06:51
食堂の中は、しみじみするほど暖かかった。いやー、もうこの空間だけでもごちそうだ。ごちそうさまでした。
いや、そうはいかない。ご飯はきっちり食べていかないと。
朝食については吟味をしていきたい。メニューをぐっと凝視する。なにしろ、今のところ3泊4日を予定しているのだ。自炊せずに朝ごはんを外食で済ませる場合、この上高地食堂か、小梨平食堂かのどちらかになる。なので、上高地食堂でこのあともう一回朝ごはんを食べる可能性がある。
先に「和」を食べるか?それとも「洋」から攻めるか?
悩ましい。
ついでに、場合によってはお昼ごはんもここで食べる可能性があることを忘れてはいけない。上高地界隈に食べるところは何か所かあるけれど、この食堂ほど気軽にひょいっと入れる食事処はないからだ。となると、昼メシとして食べるかもしれない食事と、できるだけ被らないようにしなければ。
ああ駄目だ駄目だ、せっかく選択肢の少ない生活を求めて上高地までやってきたのに、ここで悩んじゃ意味がない。
そこで、「やっぱり和食!」とメニューにかかれていて、メニューのトップバッターでもある「和食 朝定食」を選んだ。
また自分の中で選択肢を作って苦しんでいるわけだけど、それでも選択肢の数そのものが狭いので楽しい。気が楽だ。まだ箱庭遊び感覚でご飯を選んでいられる。これが自宅にいたとしたら、東京界隈の星の数ほどあるメシ屋さんが選択肢になる。
朝食時間でもレギュラーメニューを注文できるらしい。
いろいろあるけれど、「メンチカツと松本名物山賊焼きのマリアージュ定食」とかイワナの塩焼きがメインを飾る「上高地定食」が気になる。
僕の場合、もともと丼ものはあまり好きではない。口に合わない、という意味ではなく、「どどどっと味が一度に押し寄せてくる丼」よりも、白いご飯とおかずとを別にした定食形式が好きだ。なので、「信州サーモン丼」や「信州名物山賊焼きカレー」には興味がない。
こういう趣味嗜好は、おそらく昔僕がビールをこよなく愛していたからだと思う。「コメを食べてたらビールをぐいぐい飲めない」ということから、無意識のうちに忌避してきたのだと自己分析している。
ラーメン、そばうどんもメニューにある。単品でイワナとか山賊焼きを頼むこともできるので、何かの料理にあともう一品、という気分のときには向いている。
帰りのバスの時間に余裕があるなら、ここでお酒を飲むのも楽しいだろう。「穂高地ビール・アルト」というのがある。
もちろん、喫茶利用もできる。ケーキを食べたり、コーヒーを飲んだり。
そういえばここ、ノンアルコールビールは置いていないんだな。
やってきました朝定食。時刻は6時54分。
いやあ、こんな時間にこんな場所で、まさか鮭の塩焼きを食べるとは。24時間前じゃ、まだそんな決心なんてしていなかったので隔世の感がある。
鮭の塩焼き、玉子焼き、キャベツの千切り、こごみの胡麻和え、味付けのり、ご飯とお味噌汁。
900円を高い、だなんてこの際全く思わない。だって、こんな天国のような空間で一泊して、宿泊代が800円なんだもの。宿に泊まることを考えると、安すぎる。
06:57
窓際の席で、朝ごはんをいただく。
僕の服装はというと、これだけだ。
ヒートテックのインナー、フリース、そしてノマドジャケットという名前のソフトシェル。
これ以上寒くなったら、ゴアテックスのレインウェアを一枚羽織って、それでおしまい。寒さ対策としては未熟だが、今回はまだ見ぬ寒さにお金をかけたくなかったのだからこれでいい。幸い、「なんとか耐えられる程度の寒さ」でこの夜を乗り切った。10対9の判定でかろうじておかでん選手が判定勝ち、といった感じ。
07:06
食後、「寒いなあ、まだキャンプ場に戻るのはキツいなあ」と思い、コーヒーを追加注文した。和定食とのセットという形にできたので、+200円。
しばらく、この食堂で暖を取りつつ読書を楽しむことにする。
まさか朝7時から、この絶景の国で読書を楽しむとは。こんな優雅な体験は、自分の人生で初めてだ。これまで、慌ただしく分刻みのスケジュールで旅行を組み立てることばっかりやってきたのだけれど、最近になってようやく「ゆっくり過ごす、贅沢」に目覚めた感じ。
(つづく)
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