15:38
河童橋を素通りすると、急に喧騒が静かになる。
多くの観光客は、バスターミナルから河童橋までやってきて、なんとなく橋を渡って、渡った先をちょこっと歩いて、満足したらバスターミナルに戻る。
もう少し気合が入っている人は、河童橋を渡ったあと、川岸をてくてくと歩いていき、下流にある穂高橋から上高地帝国ホテルを経由してバスターミナルに戻る。ただしこのルートだと50分くらいはかかるだろうか?
そんなわけで、河童橋から上流方面、すなわち槍ヶ岳に向けて歩いていく人は、それなりなガチ勢だ。
上高地から徒歩で片道1時間のところに明神という場所があり、そこまで行ってから折り返してくるというルートがある。明神は、嘉門次小屋という茶店があって、そこでイワナを食べるのが名物だ。あと、穂高神社奥宮がある。
ただし、往復で2時間程度かかるので、「ついでに立ち寄る」には向かない場所だ。道は非常によく整備されているので、なんならヒールがある靴でも行けるくらいだけれど。(念のために言っておくが、本当にヒールで明神には行かないように。やっぱり危険だ)
河童橋から先は、急にいい感じの雰囲気になる。河童橋周辺のガヤガヤした観光地の雰囲気が、すっとモードチェンジする。
ビジターセンターを通り過ぎると、その先が小梨平キャンプ場。
ほら。小梨平キャンプ場まであと333歩、なんだそうだ。
バスを下りてものの10分足らずでキャンプ場。しかも、この世の極楽。
最高かよ!
最近、「喜び」という感情をあまり実感していないなぁ、と思う日々だったけど、久々に喜んだ。こいつァいい、と。
15:39
上高地から明神に向かっていく登山道の両側に小梨平キャンプ場が広がっている。
それなりにテントが張られているので、どの辺りなら混雑が避けられるだろうか?と注意深く観察しつつ、前に進む。
キャンプにおける物音、というのは非常に遠くまでよく聞こえる。近くのテントの人が深夜早朝にビニール袋をガサガサさせたり、アルミの食器をカチャカチャさせただけでドキっとする。なにせ、テントというのは単なる薄い布だ。まだ激安賃貸アパートのベニヤ板だの石膏ボードの方が防音性能に優れている。だから、テントのお隣さんとはできるだけ間隔を空けておきたいものだ。
そして、できることならテントの住人をチェックして、「あ、この人は社会生活を共に過ごすには向かない人だな」とか「これだったらご一緒しても大丈夫そうだな」と見極めたい。やっぱり合う人合わない人、ってのがいる。それは身なりとかでなんとなくわかる。
15:40
進行方向左側に、石垣でしっかりと固められたログハウスが見えてきた。形状からして、トイレらしい。
トイレにしてはやたらと頑丈な作りだ。籠城できそうだ。お腹を壊して立て籠もっても、外敵から守ってくれる。
おそらく、上から下まで木材で作るわけにはいかないのだろう。なぜなら、冬になると下半分が雪で埋もれるから。雪の湿気のせいで木が傷むのを防ぐために、ある程度の高さまでは石積みにしたと思われる。
これは「3びきのこぶた」における最終形態なのかもしれない。すげえ。
15:40
キャンプ場の受付に向かう途中、慎重に周囲を見渡す。どこが空いているのか、どこが便利なのか、と。
トイレや水場に近いほうが便利に決まっている。あと、キャンプ場の受付は食堂や風呂場、売店も兼ねている。受付棟に近いほうが、楽だ。
とはいえ、せっかくの旅情なんだし、できれば人から離れたところにテントを張りたいものだ。
このバランス感覚が難しい。
なお、ネットには、「小梨平キャンプ場の、どのエリアが混むのか」を解説している情報があちこちにある。それによると、やはり梓川沿いのエリアが人気で、すぐに埋まるのだという。たしかに、梓川越しに穂高連峰、岳沢を眺めるのは最高だろう。テントからにょっきり首を出すと、すぐそこに3,000メートルの雪山。最高すぎる。
とはいえ、となり数メートルに別のテントが建っているのはちょっと残念だ。
15:40
壁のないあずま屋がある。
どうやら、あそこが炊事場らしい。かまどと、ステンレス製の流しが見える。
この道はこれまで何度も歩いてきた。しかし、注意深くキャンプ場を観察するのは、これが初めてだ。というのも、ここを歩くというのは明確な目的があって、「さあこれから山に向かうぞ!」と勢いがついているときか、「山から下りてきてクタクタ・・・」というどっちかだからだ。
「ほほう、どんなキャンプ場なのか探検してみよう」という気になれる上京じゃない。
Bエリア。エリアごとに標識が立てられている。
ここはまだテント密度が低そうだ。奥にトイレがあるし、受付からも比較的近い部類なので便利だと思われる。よし、川沿いのエリアをチェックしたあと、ここを本拠地にするか。
受付を目指す。
キャンプ場のお作法として、「受付をまず済ませてから、テント場に荷物を置く」のが一般だ。
良い場所を確保したいから、ということで、まずは荷物をテン場に置いて場所を占有し、それから受付に行くというのは多くのキャンプ場ではNG行為だと思う。
駅前のマクドナルドやドトールでは、「まず座席を確保のうえ、レジに並んで下さい」という注意書きが店頭に貼ってあったりするけれど、それとは逆だ。
美しい小川を超えていく。とても気持ちがいい。
15:41
キャンプ場受付近く。
梓川の河川敷が見えてきた。このあたりが小梨平キャンプ場の人気エリアとされている。確かに、そこにはびっしりとテントが張られていた。すげえな、まるで新興団地の建売住宅みたいだ。
よく考えてみ?今、夏じゃないんだぞ。GW中とはいえ、4月だぞ?夜は氷点下だぞ?オートキャンプ場じゃないんだぞ?
それでこれだけ集うんだから、なかなかのツワモノたちにちがいない。
中には、僕みたいにただ単にキャンプをやりたい人もいるだろう。他にも、明日早朝にここを旅立ち、まだ雪積もる山を目指す人もいるだろう。逆に、すでに山から下りてきてここで一泊、という人もいるだろう。
その結果、かなりの密集具合でテントが並ぶ状態になっているのだった。
(つづく)
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