10:24
明神に向けて歩いていく。
平坦な樹林帯をひたすら歩いていく。
明神は、上高地から徒歩1時間程度のところにある場所だ。
登山道沿いに明神館という山小屋が1軒、建っている。そこからちょっと歩くと梓川に出て、河童橋以降はじめての橋となる明神橋がある。
明神橋を越えたら、そこには山小屋の「山のひだや」、食事のみを提供する「嘉門次小屋」があり、穂高神社奥宮がある。
嘉門次小屋はイワナの塩焼きが名物で、上高地からわざわざここのイワナを求めて歩いてやってくる人がいる。
上高地から片道1時間、往復で2時間。
「せっかく上高地まで来たんだから、軽く森林浴したい」という人にとっては、格好の折返し地点となる。
なお、今歩いている「梓川左岸」と呼ばれる登山道とは別に、河童橋から明神の間は「梓川右岸」のトレッキングルートがある。こちらは湿地帯の上を木道が通っていたりして、左岸とは違う風光明媚な道となる。ただし、左岸ルートと比べて、だいたい10分くらい右岸ルートの方が遠回りとなる。
10:30
上高地は観光客だらけ。
明神も観光客だらけだけど、「2時間くらい歩くだけの根性」がある人に絞られる。
明神から先、さらに1時間のところに徳沢という山小屋がある地点があるけれど、ここまでくれば殆ど登山客になる。でも、気合が入った観光客はここまで来ることもある。
徳沢から先は、単なる観光客は足を踏み入れない。さらに1時間で次なる山小屋がある横尾に到着するけれど、上高地から往復6時間かかることになる。さすがに、6時間の徒歩をする人を「(ツアーバスとかに乗ってやってくるような)観光客」とは言えないだろう。
この時間はまだ人が少なく、快適に歩ける。
10:32
快調に歩いてきたけれど、途中でトラロープが張られて行く手を阻まれた。
迂回せよ、と書いてある。どうやらこの先、登山道が崩落してしまったらしい。
なにせ川沿いの道なので、梓川が暴れたら土地ごと道を破壊する。
川の上流に向かっているとは思えないレベルの、なだらかな道。
それが横尾まで続く。
登山目的の人は、嘆く。「ひたすら水平移動だ」と。早く垂直移動して標高を稼ぎたいのに、ここで稼げないことのもどかしさ。そして、いざ本格登山開始だ!となったら急な上り坂になるのだからたまらない。
そんななだらかな道だけど、強引に迂回ルートを作ったためにちょっとした上り坂となった。
「ちぇっ、せっかく快調に歩いてきたのに」
と思うが、迂回路から崩れた登山道を見下ろして納得。ああ、本当にゴッソリと道がえぐれてますわ。ちょうど川が曲がっている場所で、上流からの強い水流で崖が崩されてしまったらしい。
10:33
明神岳。
上高地からも明神岳は見えているけれど、岳沢を挟んで鎮座する奥穂高岳・前穂高岳に目がいきがちで存在感は薄い。しかし、前穂高岳をガードするようにそびえているのが、明神岳だ。前穂高岳の南稜線上に位置しているので、あまり目立たない。
しかし、上高地から明神に向けて歩いていると、この明神岳をずっと拝むことになる。山裾をぐるりと回りこむように道と川は上流に向けて伸びている。
標高2,931メートルと日本有数の高さを誇る山だ。しかし、明確な登山道はなく、この山を登るのは通常の登山じゃ飽き足りない人たちに限られる。奥穂高岳~西穂高岳のルートが「バリエーションルート」と呼ばれ、登山地図上ではあくまでも点線で登山道が描かれているけれど、ここにはその点線すらない。完全に自分でルートを見つけないといけないし、ロープによる登攀と下降ができないといけない。
僕には無縁の山だ。
明神岳にはI峰~Ⅴ峰まで5つのピークがあるのも難易度を高くしている。
山腹にある「ひょうたん池」までなら、夏のシーズンならば僕でも行けるかもしれない。
いつかは行ってみたいものだ。
明神岳の背後に、西穂高岳の稜線が見える。
以前、あの稜線を歩いたものだ。
10:39
迂回ルートを終え、また梓川沿いを歩く。
「左岸」「右岸」という言い方を川の場合はするけれど、これは上流から下流を見たときの右と左だ。なので、僕は今上流に向かって歩いているので、川の右側だけど「左岸」を歩いていることになる。
10:41
ずっと明神岳さんとご対面しつつ、回り込んでいく。
少しずつ、ごく少しずつ山の見え方が変わっていく。
10:41
これは今回に限ったことではなく毎回そうなのだけれど、このあたりで「あ、明神橋が見えた!案外近かったな」という目の錯覚がある。で、「すぐに明神だ!」と思ってワクワクしつつ、「でもそれにしては早すぎるな」と首を捻りながら歩いていると、いつまで経っても目の前だと思った明神にたどり着かない。
あれは一体なんなのだろう?
10:46
こういう空間を歩いているのはとても楽しい。しかも時間に余裕があるし、特にこの後予定があるわけでもないし。
以前槍ヶ岳に登る際にもここを通ったけど、こんなに景色を愛でる余裕はなかったな。とにかく少しでも早く、前へ前へという気持ちしかなかったから。
(つづく)
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