釜トンネルの中を通行中。

09:30
釜トンネルは、車道脇に歩道・・・というか側溝っぽいものがあって、いちおう歩車分離になっている。
だからといって安全というわけではない。
なにしろ、土木作業用のトラックなどがビュンビュンとすぐ脇を通り抜けるからだ。
このトンネルを歩く人がいる、というのはプロのドライバーさんたちは知っているだろう。とはいえ、四六時中誰かが歩いているわけではないので、彼らは自動車専用道の感覚でスピードを上げて走っている。僕ら歩行者が、「壁が迫ってきている歩道を歩くのは圧迫感がある」と車道に出て歩いていたら、確実に轢かれる。
なので、歩道をきっちり歩くのが大事なのは当然として、ヘッドライトで自分の居場所をドライバーさんに伝えることも大事だ。ヘッドライトは足元を照らすためというよりも、「人がここにいますよ!」という目印の意味合いが強い。

09:32
新しい釜トンネルは、道がそうとううねっている。まるで何かから逃げ惑っているかのように、右へ左へと曲がる。
トンネルなら、最短ルートで直線の穴を貫通させたほうが楽に決まっている。でも、そうはできない様々な事情がこの地下にはある、という証だ。
何しろ、すぐ近くにはトンネル工事中に水蒸気爆発が起きたような場所がある。焼岳、アカンダナ山といった火山の影響はこの釜トンネル近辺も当然あるだろう。
そして、すぐ脇を流れる梓川だって強敵だ。なんで「釜トンネル」という名前がついているかというと、釜の湯が煮えたぎるような轟音を立てて川の水が流れていることにちなんで、だ。つまり、それだけこのあたりは急峻な谷というわけだ。
明治時代、上高地が開拓されたときの表玄関は徳本(とくごう)峠だった。
安曇支所前から島々谷を遡上していき、徳本峠を越えて明神と徳沢の間あたりに下る。それが昔の上高地入りルートだった。
今から見ると、「なんでこんな面倒なルートを通っていたの?」と思うが、それは険しい場所に無理やり釜トンネルを作るだけの土木技術とお金ができたからだ。
釜トンネルを実際に歩いてみて、相当苦労して作ったんだな、ということがよくわかる。
昔の技術で作られた旧・釜トンネルならともかく、2005年完成の釜トンネルでさえ、この右往左往っぷりだ。

09:38
トンネルの中で記念撮影しても真っ暗なのはわかっていたけど、なかなかない機会なので一枚。
車がやってくる危険性については、大丈夫。遠くからでも、「あ、車が近づいてきているな」というのがわかるからだ。はるか彼方から、「ゴー」という音が聞こえてくる。

09:40
釜トンネルのすごいのは、トンネル内だというのに斜度が11%もある、ということだ。
自動車教習所でみんな習ったはずだけど、「10%を超えると急斜面」ということになる。ここがまさにそう。
ママチャリでこの坂を登るのは難儀だ。
そんなところを、僕ら二人は歩いて行く。コンクリートに囲まれ、暗い世界だけど登山と同じ負荷が足にはかかっている。

09:46
遠くで明かりが灯っているので近づいてみたら、除雪車が停まっていた。
誰も乗っていない。作業員はここに車を停め、自身は別の車でトンネルを出ていったようだ。これからの降雪に備えてスタンバイしておいたのだろう。

09:51
30分近く歩いて、ようやくトンネルの出口にやってきた。トンネル内の標高差は150メートル近く。舗装道路だと思って舐めてかかると、この時点で疲れてイヤになる。
「歩いて上高地」だなんて、運動経験があまりない人はやめておいた方がいい。

なお、いしはこんな感じ。
疲れて機嫌が悪くなっている。
トンネルに入る前にチャックを締めて着込んでいた服が、チャックを外されてデロンとしている。
トンネルの中も寒いのだけれど、無風なのと斜度11%の徒歩なので、それなりに暑くなってくる。しかも狭い歩道を歩き続けるので、それによる疲労もある。

09:52
産屋沢(うぶやさわ)に出てきた。
このあたりは焼岳の斜面が間近に迫ってきている。
何しろ、大正時代の焼岳の噴火で梓川がせき止められ、それでできたのが「大正池」だ。溶岩がこの辺りを埋め尽くしているのは納得だ。
このあたりはバスに乗っていると一瞬しか見えない光景。歩いているからこそ観察できる場所なので、とても貴重だ。僕は興奮しっぱなし。

09:55
一方のいしはというと、かなり不機嫌だ。
疲れたのと、ヘッドライトの電池切れで僕が説教をしたことでブンむくれているからだ。
「山に入るつもりで装備は確認しろ、電池の残量もちゃんと確認しておくように」と東京にいた時点で何度も念押しをしていたのだけど、肝心の釜トンネルで電池切れだった。「命にかかわることだぞ、認識が甘い」と説教されたせいでご機嫌が悪い。
登山をやる上で装備品の入念な確認は必須だ。当たり前の事を僕は言っているつもりだけど、彼女からしたら「でも、登山じゃないし・・・」というスタンスだ。なので、僕からの注意はオーバースペックに感じていると思う。
このあたりには、数名の先客がいた。どこからやってきて、どこへ行くのだろう?日帰りだと思うが、中の湯温泉旅館に泊まった人ではなさそうなので、路線バスで釜トンネル最寄りまでやってきて、そこから歩き始めたのかもしれない。
なにせ、釜トンネル周辺には駐車できるスペースが一切ない。オフシーズンであっても、車を利用して上高地を目指すのは難しい。

09:57
今出てきた釜トンネルの脇に、旧道がある。梓川の崖に沿って道は伸びていて、スノーシェッドが見える。
あの先しばらく進んだ先に旧釜トンネルがあるはずだ。今ではどうなっているのだろう。まさかトンネルを埋めることまではしないはずなので、まだ残っているはずだ。
昔の釜トンネルは片側交互通行だっただけでなく、トンネルの高さが低かった。釜トンネルにかぎらず、松本から釜トンネルまでの国道158号線はいたるところに「狭くて、高さが低い」トンネルがあった。今はどんどん快適なトンネルに作り変えられ便利になったけど、昔はそんなトンネルの都度大渋滞が起きていたものだ。
(つづく)
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