
14:46
持参したおそろいの水筒で、自宅から淹れてきた珈琲を飲んで乾杯。
もともと1個持っていたんだけど、今回の上高地入りにあわせて追加で購入したものだ。
今回、2日分の水を持参して上高地入りしなければならないのと、寒いときに温かい飲み物が飲めるようにしておく必要がある。ペットボトルではなく、ちゃんと保温性のある水筒を持参したほうがよい、と判断した。

mosh!という水筒で、まるで牛乳瓶のようなデザインだ。カラーバリエーションは豊富だけど、真っ白な色をえらぶと「えっ、牛乳瓶?」と驚かれる。
なにしろ、僕が持っている緑色の水筒でさえ、職場においていたら「牛乳瓶?」と聞かれたくらいだ。こんな色をした牛乳なんてないんだけど、独特のデザインだから。
軽量コンパクトな割には保温性に優れていて、とても満足している。良い買い物だった。数年経ってもまだ使っているくらいだ。ごついテルモスや象印といった魔法瓶と比べると保温性が下がるのだろうが、普段遣いには困らない程度にしっかり保温してくれるのでびっくりだ。
なお、二人が着ているアウターは両方とも今回のために新調したものだ。冬の上高地入りに向け、結構あれこれ出費がかさんでいる。結婚式を半月後に控えているので金銭感覚が麻痺しているのかもしれない。
「白無垢の和服をレンタルするのに10万円」とかいう世界に身を投じているので、1万円2万円、しかも1回だけでなく今後ずっと使えるものだと思ったら安いもんだ・・・っていう感覚になっちゃう。いかんいかん。

15:44
バスは沢渡エリアに入ってきた。
「おおすごいすごい!沢渡の駐車場、車が一台も停まってないぞ!」
僕は大興奮。いつも上高地に行く際、この界隈の駐車場は車でいっぱいだからだ。異常な光景に見えた。核戦争後の世界、みたいな。
でも、上高地にまだ1回しか行ったことがないいしにとっては「単にがらんとした駐車場」にしか見えておらず、「へー」という程度の反応で終わってしまった。

居眠りしているいしと、「上高地に向かう道も大事な旅行の楽しみ。一瞬たりとも見逃すまい」と目をギラギラさせているおかでんとのギャップ。
僕の場合、乗っているバスがノンストップで上高地方面に向かっている、それだけでも静かに興奮している。
だって、これまでは新島々まで電車で移動して、そのあとバスに乗り換えて、あっちこっちのバス停を経由して行くんだぞ。今回はシューッと、車内アナウンスもなく、素通りしていくんだから。

15:58
「釜トンネルだ!釜トンネルが近づいてきたよ!」
寝ているいしを起こして、釜トンネルを見給え、と急かす。いしからすると「だからなんなんだ」状態かもしれない。相変わらず僕だけ興奮している。
「明日、このトンネルをくぐって上高地を目指すんだ!」
そもそも、いしにとって上高地の土地勘がどれほどあるのかが怪しい。僕みたいに「旅行から帰ってきたら、旅行に行った先の地図を細かく見てしっかり復習する。そして土地を覚える」ということをしない人だからだ。そういえば上高地に入るときにトンネルがあったな、という程度の認識かもしれない。
「もともと上高地は、徳本峠(とくごうとうげ)を超えて行くのが一般的で、釜トンネルが出来たことで・・・」
と早口でまくし立てて解説するけど、果たしてどこまで伝わったことやら。
喋りながら、「ああ、この構図はマンガ『鉄子の旅』で見たな」と思った。鉄道マニアの人と、鉄道にさほど興味がない女性漫画家との会話と興味が噛み合わない様子がずっと描かれている実録マンガだ。

通りすがりに釜トンネルを見る限り、ゲートが完全に閉じてしまっているわけではなさそうだ。
11月15日の閉山以降、雪に埋もれてしまうまでの間に急ピッチで土木作業などが行われるらしい。なので、むしろ工事車両は結構多く行き交うと聞いている。

15:59
岐阜県平湯温泉に向かう、有料の平湯トンネルの手前で旧道の峠道に入る。
ここから先はつづら折れの道になり、平湯峠を超えて岐阜県に入っていく道だ。
誰でも自由に通れる道だと思っていたけど、冬季期間中は通行止めになるらしい。ゲートが道路を塞いでいた。
送迎バスの運転手さんは一旦車を降り、ゲートを開けてから車を通過させ、またゲートを閉め直していた。厳重に第三者の入場をお断りしているらしい。
宿に車で宿泊する人のばあいは、ゲートを開けに宿の人がやってくるのだろうか?

16:07
中の湯温泉旅館到着。
平地ではない、変わった場所に建てられている。食堂部分がせり出していて大きなひさしになっていて、そこがバスターミナルになっている。
ではそのバスを降りたところに玄関があるのかというとそうではなく、外階段を登っていった先にある。なぜここに玄関があるんだろう、と不思議に思う構図だ。
もともと中の湯温泉旅館は別の場所にあったのだけど、平湯トンネルの工事にともなってここに移転したと聞いている。なので建物は比較的新しい。

日帰り入浴あります、という張り紙があった。正午から5時まで。
通りすがりの人が入浴するような、そんな便利な場所じゃない。山の中腹にある一軒宿で、はっきりいって僻地だ。ちょっと山を下れば、岐阜県と長野県を結ぶ重要な幹線道路である国道158号が走っているけれど、この旧道の峠道を訪れる人はいない。
この近くに日本百名山・焼岳の登山口がある。登山客は下山後にここでひと風呂、ということをやるのだろう。
なお、僕も焼岳は登頂したけど、上高地バスターミナルを発着地としている。

この中の湯温泉方面には足を向けていない。なので、完全にはじめての訪問だ。

階段を登った先にある、旅館の玄関。
玄関前はすぐに崖で、車寄せも休憩用のベンチも何もない。
「日本秘湯を守る会」の会員宿であることを示すちょうちんがぶら下がっている。
昔僕は日本秘湯を守る会の宿でスタンプを熱心に集めていたものだ。10個スタンプを貯めると、これまでに泊まった宿のうち1施設で1泊無料宿泊ができるからだ。
実際10個スタンプを貯めたけど、結局その権利は行使できなかった。平日泊限定、とか僕にとっていろいろ制約が厳しかったからだ。
あと、秘湯を守る会のスタンプをゲットするためには、公式サイトで予約を取るか直接宿に電話予約するか、という条件があった。僕は楽天トラベルやじゃらんじゃないと宿の予約をしたくない人なので、もうスタンプはいいや、と諦めた。今回も楽天トラベルで予約を入れているので、スタンプはもらえない。
※最近でこそ「秘湯を守る会」の公式予約サイトは便利になったけど、昔は使いづらくて使う気になれなかった。

宿の玄関から見た景色。
正面に見えるのは霞沢岳か。いつも上高地温泉ホテルの側から見ている山容と異なっていて、「へえ、こうなっているんだ」と感心する。
上高地のすぐ頭上にある山だけど、登る人は非常にすくない山。魅力的な山なんだけど、アプローチが大変。

一方、こちらは「これぞ上高地!」という光景。明神岳から前穂高岳、そしてガスっていて見えていないけど奥穂高岳へと続く岩稜が見えた。明日はあのゴツゴツした山の右端、山の麓に行くことになる。さすがに結構距離があるな。
(つづく)
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