
14:58
チェックイン手続きをし、宿のおかみさんにご挨拶。
今回はお招きいただきありがとうございます。こんなに貴重な体験をさせてもらえて、光栄だ。
聞くと、今日は20名弱の方が宿泊し、クリスマスパーティーに参加するのだそうだ。一般公募はされていないクローズドなイベントなので、参加者全員が山のひだやに馴染みがある人、ということになる。
「山のひだや」2階に上がる。へえ、こんな作りになっているのか。
山小屋にありがちな雑魚寝空間にはなっていないし、そもそも広々とした作りになっている。山小屋、と勘違いされやすい立地の宿だけど、実際は「旅館」と考えて間違いない。部屋は個室だし。

鹿の剥製がお出迎え。1階の玄関から階段を登ったところで待ち構えているので、夜中星空を見に外出したあと戻ってきたら、鹿と目があってびっくりして階段を転げ落ちるかもしれない。

14:54
今回僕らが泊まる部屋。
個室で、他の宿泊客と一緒に泊まるということはない。僕ら二人のための部屋だ。
トイレは別。ほぼ何もないがらんとした部屋だ。テレビなんて当然ないし、床の間もない。
絵が一枚、壁に飾ってある程度。
部屋の片隅に衣桁とタオルスタンドがある。
衣桁か!ずいぶん久しぶりに見た。温泉旅館などに泊まっても衣桁をなかなか見かけないのは、たいていの宿でクローゼットが完備されているからだ。一方この宿にはクローゼットはない。布団が入っている押入れがあるだけだ。
部屋の中央には、天板がないこたつがざぶとん4枚を従えて鎮座。そして・・・おや、暖房があるぞ。

14:55
寒さに耐えながら、早々に布団にくるまって寝ることになると覚悟を決めていた。
しかしこんな心配りのご用意があるなんて。ありがたい。
それにしても見たことがないヒーターだ。なんだこれ。どうやらガスコンロで動くものらしい。

「そんなものがあるのか!」と驚きながらヒーターの裏を見てみると、まさにカセットコンロそのまんまな作りでカセットボンベが収容されていた。
火をつけるのも、カセットコンロと一緒。つまみをかちっとひねって着火する。
僕らがチェックインする前から部屋を温めておいてくださったので、室温は快適。
現在使っているカセットボンベとは別に、2つのボンベを渡された。これで一晩乗り越えてくれ、ということだ。

電気が使えないということなので、部屋の真ん中にあるこたつも当然コンセントがつながっていない。
中を覗き込んでみると、こたつの熱源となる場所がやたらと大きかった。昔のこたつは熱源部分が大きかったものだけど、それよりも大きい。ちょっとお行儀の悪い足の格好だったら、ぶつかってしまうくらいだ。
この赤い網の中に豆炭が入っていて、こたつの中を温めていた。豆炭はそこまで熱量を持っておらず、こたつはほんのりと温かい程度だ。冷えた体に熱を叩き込みたい、と思ってこたつに潜り込んでも、なかなか温まらないだろう。

LEDランタンが1つ支給された。夜間はこれを明かりとして使ってくれ、ということだ。
山小屋の場合、「明かりはついています。でも消灯時間をすぎると明かりが消えます。それ以降トイレに行ったりするのには自分のヘッドライトなどを使ってください」という扱いだ。
一方今回の「山のひだや」の場合、そもそも明かりがない。日が暮れたら、問答無用で真っ暗だ。翌日の夜明けまでは、このLEDランタンで部屋を照らしつつ、ヘッドライトを併用しなければならない。廊下だって、真っ暗だし。

その廊下の突き当りにトイレがある。
トイレになると急に廊下が狭くなり、扉を開けるのがやっとくらいの廊下幅になる。

トイレ。

僕らが寝泊まりする部屋の向かいは、同じ間取りの客室だけど板の間になっていた。扉が半開きになっていて、中がちらっと見えた。
後から思えば、おそらく1階のカフェ・ド・コイショのたたきに畳を敷くため、この客室の畳を移動させたのだろう。
それはともかく、その板の間になぜかテントが張ってあった。「えっ、テント?なんで?」と思って思わず部屋を覗き込もうとしたら、テントの中でゆらっと動く人影が見えた。げっ、人がいた。
慌てて覗こうとしていた首を引っ込める。てっきり、何かの事情で使われなくなった部屋で今はせいぜい荷物部屋・・・という位置づけなのかと思って油断していたのに、テントが張ってあってまさかその中に人がいたとは。
宿のおかみさんに聞いてみたら、この宿の常連さんが泊まっているのだという。他の部屋もあるのに、「板の間がいい」と言って敢えてこの部屋を選んだのだとか。「新しいテントのテストのため」とかなんとか。変わった方だと思うが、そのガッツたるや素晴らしい。
(つづく)
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