
テーブルの上には、大きな平皿が積み上がっていた。
その平皿にラップをしている最中で別の用事が入ったらしく、一旦放置されている状態だった。
水不足ということで、今晩のパーティーに使うお皿を洗わなくて済むよう、こうしてラッピングしているというわけだ。食事が終わったらラップを剥がして捨てる。そうすれば、お皿を水洗いしなくて済む。
「ラップという資源が無駄遣いじゃないか!」と思うかもしれない。そしてそもそも、お皿をラッピングする手間が面倒だ。それでもやるのは、水がそれだけ貴重、ということだ。
標高が高く、稜線上にある山小屋でも「お皿はラッピングされている」というところが(少なくとも昔は)ある。山の稜線ということは水が湧き出る場所が近くにないということでもあり、慢性的な水不足に悩むことになる。数百メートル崖下の沢までホースを吊り下げ、そこから水を汲み上げるということをやったりするし、それでも足りなければお皿ラッピングになる。
水なんて宿のすぐ裏手に穂高池があるし、不自由しないだろうに・・・と思う。まだ凍結していないはずだし、清らかな湧水だ。しかし、宿泊業を営むにあたって、「湧き水を食用に使いました」というと保健所から指導が入るのだろう。だから湧水は使えない。
一方、夏場は稼働している水道水だけど、冬で水道管が凍結してしまうので元栓が閉まっているのだろう。また、水なんて簡単に流れるようで、実際はポンプで水圧をかけて流すものだ。ポンプそのものが動かないなら、待っていても水はやってこない。

穂高神社奥宮に探検に行く。
カフェ・ド・コイショの脇から穂高神社奥宮を目指すと、敷地の入り口が二重のロープで仕切られていた。
「本日休業」の札と、「太陽光発電型24時間防犯システム稼働中」の札がぶら下がっている。
こんな場所だからこそ、防犯システムは大事だ。登山客しかやってこない冬だけど、「他に誰もいない」ということをいいことになにかやらかすかもしれない。中に侵入して金品を探す、ということまではしないとしても、軒先に積んである焚き木を勝手にちょろまかし、宿の前で焚き火をおっぱじめるような奴がいてもおかしくない。そういう人に近づいてもらわないためにも、防犯システムは大事。

16:00
いつも早朝から夕方まで賑わう場所なのに、冗談のように人っ子一人いない。
「ウォーキング・デッド」の世界を見ているようだ。「おかしい・・・誰もいない」と思ってあたりを探していると、急にゾンビが出てくるという想像をしてしまう。
写真は、岩魚の塩焼きでおなじみの「嘉門次小屋」。ここも雨戸がぴったり閉じられて、誰もいない。
あれっ、雨戸だけじゃないぞ。軒先にスチールパイプがたくさん立てられている。あれは多分、オンシーズン中にはなかったものだ。
推測だけど、大雪が降っても屋根が潰れないように補強したものなのだろう。
なにしろ、冬の間は雪かきがまったくできない。どんどん雪が降り積もると、屋根を圧迫するだろう。

穂高神社奥宮。ここにも誰一人いない。
「山のひだや」に20名近く泊まるのに、みんな寒くて部屋に籠もっているのだろうか。
ちなみに日帰りでここにやってくる人がいたとしても、昼過ぎには釜トンネルに向けて退却をしないといけない。この時間にうろうろしていると真っ暗になってしまう。
この空間を独り占め、いや、二人じめできていることに静かな興奮が止まらない。

その気持ちの現れなのか、神社の狛犬の前で記念撮影。
いつもならこんなところで写真を撮らないんだけれど。

16:04
シーズン中は拝観料がかかる、明神池。しかし、当然この時期は神社の方が誰もいないのでフリーパスとなる。
立入禁止になっている柵やロープを乗り越えて押し入ったわけではないぞ。単に「ご自由にお入りください」状態だ。
明神一の池にせり出した桟橋。その先端に遥拝所がありフォトジェニックな場所だ。でもここも冬対策のため、ブルーシートで覆われていた。そうか、拝殿もブルーシートでオッケーなんだ。
このブルーシート、一冬越して取り外した際に寄付金と交換に払い下げたら売れるんじゃないかな。ご利益ありそうだもの。だって、厳しい冬の間、ずっと拝殿をくるんでいたブルーシートだぞ。厄災から守ってくれるそうだ。

ブルーシートが被さっている状態の遥拝所を撮影して何の意味があるのか・・・と思われそうだ。
でも、明神池を知っている人からすると、むしろ珍しい光景。
ちなみに僕は短パンを履いている。昔っから、帰宅したり宿で一息ついたときはゆったりした格好になりたい性分だ。なので、長ズボンを履いているのはイヤだから短パン。もちろん、寒いのでスパッツを履いている。
スパッツがあるなら、全然ゆったりしていないじゃないか・・・と我ながら思うが、開放感が違う。やっぱり開放感は大事。

明神池にカモがいる。寒いのによくやるなぁ。

16:12
明神二之池までやってきた。
池に映る空が美しい。

明神二之池。
寒々しい景色だけれど、むしろそのほうが非日常感があって楽しい。
オンシーズン中の上高地界隈は、十分非日常感があってワクワクする。でもこうやって木々が枯れた状態を見ると、「なんだ、もっとワクワクできるじゃないか」と思う。
(つづく)
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