川を越え、雨に打たれ、風にあおられて【斜里岳】

霧に包まれた北海道の直線道路。両脇に広がる畑と電柱が、白く霞んだ奥へと消えていく風景。

17:36
給水を終え、本日の宿である「清岳荘」に向かう。

斜里岳の登山口は2か所あるけれど、ここ清岳荘から登るのがメジャーな選択だ。

標準コースタイムが6時間から8時間かかる山なので、登山口のすぐ脇にあるここに前泊するのが「正解」とされる。

もちろん、早朝に乗り込んで日帰り退却も可能だ。可能なんだけど、「日帰りしたとして、そのあとどこへ帰るの?」という問題が立ちはだかる。それが北海道。

地図で見ると、来運の水から清岳荘まではすぐそこに見える。道がくねり始め、いよいよ山道突入か!と身構えるのだが、実際はまだまだ「これでもか」という直線が続く。

つくづく、北海道の距離感はバグっている。

視界を奪う、乳白色の霧。

地平線が見えそうだが、僕が目指しているのは山だ。

電柱があるから道の存在が辛うじて認識できるけれど、これがなかったら一瞬でロストして脱輪する自信がある。危ない危ない。

舗装路の終点付近、森の入り口に設置された複数の工事看板と斜里岳登山道への案内標識。

17:39
まっすぐなドライブロードはここまでだ。

「いつでも閉めるぞ」と威嚇してくるゲートが登場。

えっと、左折?直進?と徐行しながら目を凝らすと、脇に「斜里岳登山道 入口」の看板があった。よし、ここは直進だ。

なにせ、僕が乗っている車のカーナビでは「清岳荘」がヒットしない。そもそも通じる道すら表示されない。

文明の利器に見捨てられたような気分で、地図を頼りに恐る恐る進むしかない。

両側を高い木々に囲まれた未舗装の林道。霧で先が見通せない、緑のトンネルのような景色。

17:49
頭上を覆う「緑のトンネル」。

ゲートから先はダートになり、ハンドルを握る手にピリッとした緊張が走る。幸い、道はよく整備されていて、わだちに足元をすくわれることはなかった。

この時間に対向車とすれ違うこともない。

今日登った人は、とっくに下山して風呂でも浴びている頃だろう。

斜里岳の登山拠点である山小屋「清岳荘」。霧に包まれた山肌を背に建つ石造りと木造の建物。

17:53
霧の中からヌッと姿を現した、本日の宿「清岳荘」。

ここで衝撃の事実が発覚した。

ずっと「せいがくそう」と呼んでいたのだが、正解は「きよがたけそう」なんだって。えー、全然知らなかった。いきなり先制パンチを食らった気分だ。

この山小屋、事前情報収集であれこれ検索していた際、「なんでみんな斜め横のアングルで建物の写真を撮るんだ?」と不思議だった。外階段が剥き出しで、なんだか裏口っぽく見えたからだ。

ところが現地で見ると、この階段こそが正面玄関。なんとも風変わりな構造である。

まあ、雪に埋もれることを前提にすれば、こうなるのかな。

駐車場の協力金100円、トイレ協力金100円、車中泊520円と記された黄色の案内看板。

17:55
駐車場の傍らには、料金案内の看板。

「駐車場協力金100円」「車中泊520円」。

ちなみに清岳荘に泊まると素泊まりで1,500円程度だったはず(記憶は曖昧だけど)。町営だけあって、恐ろしく安い。

車中泊でエコノミークラス症候群に怯えるより、プラス1,000円払って平らな場所で寝たほうが絶対に楽だ。

もっとも、定員が絞られていて予約は狭き門だ。

僕は抜かりなく早期予約をキメておいた。平日に動ける身軽さを、こういう時に噛み締める。

斜里岳登山コースの案内板。旧道(沢)と新道(尾根)のルート詳細と、クマ目撃情報、登山時の注意喚起が詳しく記載されている。

17:56
手書き風の案内図が、かえってこの山の険しさを無言で語っている。

上りは沢沿いの旧道、下りは尾根の新道が「定石」。

「沢沿い」なんてマイルドなもんじゃない。何度も渡渉を繰り返し、滝の脇をよじ登るレベルだという。

僕はこの山のためにわざわざヘルメットを新調して持参した。

斜里岳登山コース案内
歩行時間(目安)上り:3時間50分 下り:3時間30分 往復:5時間〜9時間
※沢登り主体の体のため、所要時間に個人差が大きい。
※中高年の大人数の場合は、登り・下り共に待ち時間が長いので10時間ぐらいかかります。

案内板には「大人数だと10時間かかる」と脅しのような一文が。

難所で一人が通過し終えるのを待つ「渋滞」が起きるわけだ。

平日に、できるだけ人が少ないタイミングを狙えるのは、僕のような「老いた個体」の数少ない特権だな。

斜里岳登山口の入り口。熊出没注意の黄色い看板と登山コース案内、木製の標識が並ぶ。

17:56
建物に入る前に、登山口をチェック。

「熊出没注意!」のでかい看板。

もはや北海道観光のステッカーでおなじみのフレーズだけど、山に入るとなれば話は別だ。ガチで出会ったら洒落にならない。

斜里岳登山口に設置された登山者名簿と駐車料金箱。木造の小さな小屋の形をしている。

17:56
登山届を出す場所は、屋根付きでまるで神社のよう。

「正午過ぎの登山は大変危険」という注意書きが胸に刺さる。

今の僕は夕方の18時前。もちろん今日は登らないけれど、明日の予報は雨だ。うーん。

斜里岳登山口の全景。案内所、登山者名簿の小屋、そして安全を祈願する小さなお社が並んでいる。

17:55
ポストが祠っぽいと思ったら、その隣に本物の祠があった。

厳しい山、迫る雨雲。ここは八百万の神にすがるしかない。

斜里岳登山口付近の自動販売機。コーラやコーヒー、清里の水などが販売されている。

17:56
最後に、入り口脇のサントリー自販機をチェック。

普段、自販機なんてスルーする派なんだけど、このラインナップには目が止まった。

伊右衛門の隣に、やけに控えめなパッケージになったペプシ。

そして「清里の水」。これ、さっきの来運の水だろうか?

洗面所の水が飲用不可な清岳荘において、この1本はライフラインだ。

何より驚いたのは、二段目にマウンテンデューが鎮座していること。

ドリンクバー以外で見かけるのは珍しい。こんな山奥で、お前はそんなに需要があるのか。

僕も1本買っておこうかな、なんて邪念を抱きつつ、小屋の扉を開けることにした。

(つづく)

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • 何はともあれ"リアルタイムとは別のパラレルをーるどを往く"おかでんのご帰還めでたし。
    スマホも保険でなんとかなったようでそこもまた良し。(Fujiの一眼が心配でなりませんが…)
    それにしても"振り返れば、斜里岳は本当に楽しい山だった。"果たしてそうか?うーん、わからん。山男の思考はさっぱりわからん。今後の活躍も期待しております。

  • zennさん>
    富士フイルムのカメラをご心配いただき、ありがとうございます。
    そう言われてと気がついたのですが、この記事の最後に載せている「故障したスマホ」の写真、まさにX-T20で撮ったものでした。機動力を重視したい場面で、あえてごつい一眼カメラを取り出して構えているというのは、冷静に考えるとかなり倒錯していて面白い絵面ですね。

    先日からzennさんには「新しくカメラを買うなら?」という個別のお話をさせていただいていますが・・・いずれ、あるタイミングから「おや?記事の写真の質感が変わったぞ?」という局面が訪れるはずです。

    もし変化に気づかれましたら、ぜひ早押しクイズの勢いで「カメラ買い替えただろ!」と突っ込んでみてください。楽しみにしています!

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